絶滅危惧の渡り鳥「アビ」 生息の実態は… “野生生物と人の共生” の今 カメラマンが調査に同行

広島県の鳥「アビ」です。冬になると広島にやってくる渡り鳥です。年々、渡来数の減少が懸念されています。ことしもアビは広島にやってきているのでしょうか? 生息状況の調査をカメラマンが同行取材です。

とびしま海道にある下蒲刈島です。河津桜が咲くこの時期、広島県の鳥「アビ」は、シベリアやアラスカからやって来て生活します。

広島県野生生物保護推進員 藤井格 さん
― アビはいそうですか?
「きょうですか。どうでしょう。行ってみなければ、わからないです」

県の野生生物保護推進員・藤井格 さんは、30年以上前からアビの生息状況を調査して、県に報告しています。調査に同行させてもらいました。

アビはおくびょうな鳥なので、遠くから望遠鏡で観察します。

藤井格 さん
「2羽いますね。(羽を)ぱたぱたした。シロエリオオハムです」

― これは、県鳥アビですか?
「そうです」

この2羽は、正式にはシロエリオオハムといいます。広島県の県鳥アビは、このあたりにやってくるアビ科の鳥の総称になります。

藤井格 さん
「アビ科の鳥を県鳥アビとして指定した理由は、アビ漁をしていたからです」

江戸時代から350年続けられていたアビ漁。海水温が下がる冬、タイなどの高級魚は海の底で冬眠していて、釣りエサに反応しません。

しかし、アビがイカナゴという小魚の群れを海中に追うと魚は突然、目の前に来た大量のエサに反応して、釣りエサにも食いつくのです。

アビのおかげでこの地域では冬でも魚を捕ることができました。アビは、大事な存在として神社にまつられ、地元の人に保護されていました。世界でも類を見ない野生生物と人の共生が、そこにあったのです。

しかし、近年、渡来数が減少。アビ漁もできなくなりました。現在、アビ(=シロエリオオハム)は、県が発行するレッドデータブックひろしまで絶滅の危機に瀕している種(絶滅危惧I類)に指定されています。

広島県野生生物保護推進員 藤井格 さん
「昔は、ここで300羽くらい見たことがあるんですよ。そこの二窓島と鴨瀬灯台との間の潮がずっと流れていますけど、潮の中でエサ取りをしていて…」

しかし、ここ最近は40羽ほどしか確認できていません。なぜ、ここまで減ったのでしょうか?

藤井さんの研究によりますと、1980年代後半から主食となるイカナゴの漁獲量が急激に落ち込むとともに渡来するアビの数も減ってきたそうです。

藤井格さん
「もう1つ理由があって、たぶん船の航行がエサをとることを邪魔しているんじゃないかと思います」

アビはこの時期、冬の羽から夏の羽に生え変わる「換羽」をします。羽が生え変わる1か月ほどは飛ぶことができないため、船から逃げることが難しくなります。アビは、エサが豊富で安全な場所を越冬地に選ぶそうです。

広島県は2012年、この海域を特別保護指定区域にして、許可のない船の侵入を禁止しています。しかし、十分に周知されていません。

周囲から船がいなくなったとき、アビの群れが現れました。

広島県野生生物保護推進員 藤井格 さん
「野生生物の個体数とか生態とかいうのを詳しくみていくと、今の人間のわたしたちの生活のまわりの環境がどういうふうになっているか、どういうふうに変化しているかということをつぶさに見ることができるんですね」

◇ ◇ ◇

― 撮影したアビまでの距離はおよそ3キロ。撮影はできませんでしたが、この日は、アビの横をスナメリが泳ぐ姿も見ることができたそうです。

― 藤井さんは、生き物を観察して環境の変化を感じ取ることで、自分たちがこれから生きる環境をどうしていくかについて深く考えてほしいと話していました。

― アビ漁で漁師がアビに近づけたのは、1週間くらいかけて船に慣れてもらう努力をしていたからです。アビは人の顔を覚えると考えられています。最盛期には数千羽のアビがこの海域で生活していたといわれています。昔から多くのアビが飛来するこの海域は「アビ渡来群游海面」として国の天然記念物に指定されています。

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