“最強ウエットタイヤ”の技術も実は『日本発・世界行き』。ミシュランがスーパーGTを舞台にした開発を重視する理由

 激しいレースを演出する要素のひとつとして、タイヤの開発競争が挙げられる現在のスーパーGT。そのなかにあってミシュランはGT500クラスに2台、GT300クラスに1台と参戦台数は少ないながらも、毎年必ず選手権争いに絡む存在感を見せている。

 2022年最終戦にはミシュラン・モータースポーツの統括ダイレクター、マテュー・ボナルデル氏が来日。世界中のモータースポーツ活動をとりまとめる立場にあるボナルデル氏に、ミシュランにおけるスーパーGTの位置付け、そして将来に向けた供給台数増加の可能性や、近年力強いパフォーマンスが目立つウエットタイヤなどについて、話を聞いた。

■他メーカー・チームにも「ドアは開かれている」

──改めて、ミシュランがスーパーGTに参戦を続けている理由を教えてください。マテュー・ボナルデル(MB):ミシュランがモータースポーツ活動を行う理由は常に同じで、技術的なリーダーシップをコース上で証明し、その技術を開発していくためです。

 ここスーパーGTにはタイヤコンペティションがあり、ときに他3社のタイヤメーカーと対峙するなかで、我々に何ができるかを示すことができます。ほとんど同じスペックのクルマを用いて、タイヤの競争がある。競争があることで学んでいくスピードも上がります。チャレンジングではありますが、それこそが我々がスーパーGTに参戦している理由です。

 我々はこの十数年、ときにはGT500、ときにはGT300に参戦し、現在はその両方に参戦していますが、スーパーGTは常に「いい仕事をすることができたか」あるいは「どんな部分を開発していけばいいのか」が分かるという意味で、とてもよい場所なのです。

──スーパーGTの現場には頻繁に来られているのですか? サーキットの雰囲気はいかがでしょう。MB:この20年で、おおまかに言って40回は来ていると思います(※ボナルデル氏は以前、GT500の技術担当者を歴任)。ここ3年間はパンデミックもあり、難しかったですけどね。

 個人的にはスーパーGTの、ファンがベースとなって作り出す雰囲気が好きです。大きな自動車メーカーやタイヤメーカーが参戦していることもシリーズの魅力ですが、ファンがあってこそのシリーズですし、彼らは素晴らしいショーを見るためにここへ来ています。

 世界から著名なドライバーが集まって日本のドライバーたちとレースをしていますし、そんなドライバーとファンとの距離が近いのも魅力的だと思います。たとえばF1などは、ファンが簡単にクルマやドライバーには近づけません。ファンがピラミッドの頂点にいるという意味でも、スーパーGTは素晴らしいシリーズだと思います。

──現在はGT500クラス2台、GT300クラス1台に供給していますが、今後スーパーGTにおいて供給を拡大したいという意向はありますか? また、チームから要望があれば拡大できる準備はあるのでしょうか?MB:他の自動車メーカー、そして他のチームに対して、「ドア」は常に開かれています。

 我々はひとつのチームやひとつの自動車メーカーに頼るのではなく、多くのクルマで我々の技術を実証していきたいと考えています。多くの参戦車両があればデータも多く集まりますし、開発のスピードも上がります。正しい選択、正しい決断をするためには、コースの外での“スピード”も必要です。そのためにも、多くのクルマ、そしてより長い走行距離を持つことは有利に働くのです。

 したがってより多くの(供給)チーム、車両を持つことは、我々としては常にとても興味深いことではありますが、現在のところ、そういった状況にはなっていません。ただし、少ない車両で参戦することのアドバンテージのひとつは、リアクションする時間を早められるということにあると考えています。

■ウエットタイヤ開発で重視する「ケイパビリティ」

──2022年はスポーツランドSUGOなどでウエットタイヤの速さが目立っていましたが、他のカテゴリーからの技術の応用などはあったのでしょうか。MB:ここスーパーGTは、他のタイヤマニュファクチャラーとの競争があることから、新しい技術を導入する場となっています。したがってここスーパーGTで検証し、たとえばWEC(世界耐久選手権)など他のカテゴリーでスケールアップできる技術というものがあるのです。

 たとえばWECでは、ひとつのスペックのタイヤを、年間を通じて使わなければなりません。ですが、ここスーパーGTでは、コースに合わせてタイヤ(のスペック)を変えることも可能ですから、新たなテクノロジーを試す場として適しているのです。

 現在のウエットタイヤのテクノロジーも、ここスーパーGTで改良しました。とくにウエットからドライへと遷移するような状況では、より多くの開発焦点がありますが、そのようなコンディションで我々のタイヤがリーダーシップを持つことができているように見えるのは、とてもハッピーです。

 以前のウエットタイヤも良いレベルにはありましたが、これは競争です。他のタイヤマニュファクチャラーも開発してくるので、そのままではアドバンテージを長く保つことはできません。

 そして我々は、ウエットタイヤの(一時的な)パフォーマンスにだけ着目しているのではなく、そのケイパビリティ(使える幅の広さ)も重要視しています。耐久レースであるWECでは、雨量に変化があってもタイヤを替えずコース上にとどまった方がいい、というケースもあります。我々は現在の新しいウエットタイヤにおいて、このウエットからドライまでのカバーできる範囲の広さという点で、大きなアドバンテージを手にしていると思います。

2022スーパーGT第6戦SUGO CRAFTSPORTS MOTUL Z(千代勝正/高星明誠)

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 ウエットタイヤについて、取材に同席した日本ミシュランタイヤの小田島広明モータースポーツダイレクターは「他のカテゴリーの技術がスーパーGTのタイヤに導入されたのではなく、それとは逆で、スーパーGTに投入されて検証された技術が、他のカテゴリーへと転用されていっているということです」と補足する。

「現在のポルシェカレラカップなどのカスタマーレーシングで使用されているウエットタイヤのトレッドパターンは過去にスーパーGTに導入したもので、それがWECや他のGTカテゴリーへ派生していったのです」ということで、世界に広がる技術が生まれる場所として、スーパーGTはミシュランにとって重要な舞台となっているようだ。

 2023年も、すでにスーパーGTの開発テストはスタートしている。GT500では空力開発が凍結されるなか、タイヤ開発にかかる比重はさらに高まっているとも言える。今季も4メーカーによるタイヤ開発競争から、目が離せなくなりそうだ。

2022スーパーGT第6戦SUGO レース中にミシュランのエンジニアと状況を確認するCRAFTSPORTS MOTUL Z陣営
日本ミシュランタイヤの小田島広明モータースポーツダイレクターと、ミシュラン・モータースポーツのマテュー・ボナルデル統括ダイレクター

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