街中の一軒家で350頭の犬たちを飼育、寝屋川市のブリーダー逮捕 告発した理由と行政対応への違和感【杉本彩のEva通信】

大阪府寝屋川市の施設で飼育されていた犬たち

さかのぼること2年前、2021年の9月の終わりに当協会Evaに一通のメールが届いた。大阪で活動をしている動物保護団体が、寝屋川市のブリーダーから状態の悪い犬を引き出しているのだが、最近は特に酷く瀕死の犬も多数いる。街中の一軒家に約400頭、小さいケージに2~3頭入れられていて何とかしたいからお知恵をいただきたい、といった内容だった。

いただいた内容を踏まえ、当協会から今後の進め方について助言をすると、ひとまずそのように進めてみると返答をいただいた。その数か月後の12月、今度は元従業員という方から9月にいただいた通報内容と重複した内容のメールが来た。これはきっとなかなか解決の糸口が見つからず状況が頓挫しているのだろうと、すぐに最初にご連絡いただいた動物保護団体に確認を取った。

それぞれ通報者の方の話しを聞くと、Evaに通報する前もあとも、大阪府動物愛護管理センターや管轄の保健所にたびたび通報していたが、返答は「いただいた情報を参考にさせていただき、引き続き改善に向けて対応させていただきます」と、だいたい想定内の返事だった。

常套句は「引き続き改善に向け対応」

よくEvaには、「どこそこで動物が虐待されているようだから動物を救って欲しい」「ネットで見たから調査しろ」といった通報が寄せられる。だが我々いち民間団体には、当たり前だが立ち入りの権限はない。「通報があったから中の動物を保護させて欲しい」と言い訪問しても、十中八九断られるし、下手したら通報されるだろう。仮に中に入れたとしても、そこにいる動物には、所有者による所有権という物権がある。動物虐待事件は、所有権の問題を避けて通ることはできないのだ。

一方、立ち入りが出来るのは、唯一地方自治体の管轄の動物行政だ。行政の職員は、事業所その他の関係のある場所に立ち入り、飼養施設が不適切と認められた場合には、その業者に対して、勧告や改善命令を行うことができる(動物愛護法23条)。だが、これまでの事例を見るとこの部分が一番簡単にいかない。環境省の統計を見ると、令和2年度、全国の立入検査件数18,778に対し、勧告数はたった6件、措置命令数においてはもっと少なく2件しかない。ほとんどが立ち入りを繰り返すのみにとどまっている。その結果何が起きるかというと、飼養環境がどんどん悪くなりそこに置かれている動物の健康が長期に渡り損なわれる。治療もされないまま衰弱し、中には命を落としてしまう動物もいる。管理が悪い不適正飼養の先には、遅かれ早かれ死が直結するのだ。

だからこそ虐待をうけるおそれがある事態には、早急に行政が介入し、改善が見込まれない場合は、次のステップの勧告へ、それでも改善しないならその先のステップの命令を出すべきだ。更に命令に従わない場合には、登録の取り消しや、全部もしくは一部の業の停止を命じることも出来る。(動物愛護法19条1項6号)そういう建設的な法律がきちんと定められている。 今回の寝屋川の件でも、そういったことから、大阪府動物愛護管理センターへ、いただいた情報を整理し、状況報告書と写真、それと共に要望書を送付した。返答はいつもの「今回いただいた情報も参考にさせていただき、引き続き改善に向けて対応させていただきます」だった。

その後も当協会は、通報者と連携を取りながら、また行政にもたびたび電話で改善をお願いしつつ、状況を見守っていた。しかしながら、行政の指導は遅々として進まず、事態が改善することなく1年が過ぎようとしていることを重く受け止め、このままでは中の動物の被害が増える、同じことを繰り返さないためにも刑事告発に踏み切るしかないと協会内で方針を固め、2022年7月に動物愛護管理法違反(同法第44条2項)にて告発状を提出した。その後11月8日に家宅捜索があり、その2日後の11月10日に告発状が受理された。

当協会が把握している繁殖業者の実態

約10年前より繁殖業を営んでいたこの事業者は、2階建ての施設に少なくとも350頭もの犬を飼養。多くの金網ケージに犬が2~3頭ずつ入れられており、それが3段に積み重ねられ、所狭しと並べられていた。 これだけの数の犬達を数名の従業員でお世話していたため、全ての犬に給餌が行きわたらず、成犬は1日ご飯なしの日もあったという。1日一回の食事に興奮しケージの扉を開けた瞬間に飛び出し落下。そのまま亡くなってしまった犬もいた。 飼養環境の悪さや人手が足りないことなどが原因で、子犬が産まれても相当数が命を落としていたという。 夏場の部屋の温度は30度、湿度は80%前後で、臭気は目に染みるレベル。余りの暑さと臭いに体調を崩す従業員もおり、臭気と犬の鳴き声は建物の外からも確認ができた。また、犬は何らかの疾病を抱えており、耳ダニは勿論、膝蓋骨脱臼(パテラ)や、重い心臓病を患いながらも繁殖犬として使用されていた。疾病があっても病院には連れて行かず、引き取った方が高額な医療費を負担するという状況だった。

また、事業者の管理の悪さももちろんだが、それと同時に大きな問題は、通報を受け動物愛護行政が頻繁に指導に行っていたにも関わらず、改善させることが出来なかったことだ。逮捕時の報道では、我々が把握している回数より遥かに多く過去10年間に44回も行ったというから驚きだ。一般企業の業務で10年間も関わっていながら解決もしないし成果も上げられなかったら、どういう処遇になるか火を見るより明らかだ。

動物たちの状態確認なぜしない

また、立入りの際、動物の状態を確認していない、動物に触れていない、という元従業員からの証言もあった。動物の不適正飼養や虐待の通報が来た場合、まず動物の身体状態とボディコンディションスコア(栄養状態を評価する尺度)を確認するのが基本ではないだろうか。昨年3月に環境省が出した虐待ガイドラインには、詳細な動物の状態チェックシートがある。昨年、大阪府と情報共有した時に聞いた話しでは、例えば年に3回も帝王切開させられている子がいるという通報が来た場合の対応として、行政は何をするのかというと「まず帳簿と健康診断書の確認を行い、それらを怠っていたら、つけてもらう指導になる」と、このように言われた。いや、仮に年に3回も帝王切開させられている、体に負担があるようなことをされているようだという通報を受けたのであれば、まずは何はともあれ動物を確認するべきだ。命に関わることなのだから対象動物をまず確認するべきで、その後、帳簿の確認をするなどの順番でなければ、動物虐待を確認することなんて出来ないのだ。とにかく問題の根幹はここだ。

今回の事件のオーナーは、3月1日付で起訴(公判請求)された。今後は法廷の場で裁かれることになる。現在進行中の案件であることから公表できる内容に限界はあるが、可能なかぎり、初動から現在に至る過程で起こった問題をつまびらかにし、次の機会にまた伝えたい。

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「杉本彩のEva通信」は、動物環境・福祉協会Eva代表理事の杉本彩さんとスタッフによるコラム。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。今回のEva通信は、杉本さんと共に日頃活動している松井事務局長が執筆しました。  

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