セッション2でワン・ツーを独占したARTA。野尻&福住が感じる新体制での変化と今季の手応え

 3月11日、岡山国際サーキットで始まった2023スーパーGT公式合同テスト。1日目午後のセッション2終盤には各クラスの専有走行時間が設けられ、GT500クラスは例年同様に予選アタックのシミュレーションを各車が行ったが、そこでトップ2を独占したのは、新体制で今シーズンを臨むARTA MUGEN NSX-GTの2台だった。

 今季のホンダ陣営のなかでも、大きな体制変更となったのがARTA。昨シーズンまでTEAM MUGENとして参戦していたM-TECがARTAのメンテナンスを担当するかたちでタッグを組むことになり、GT500クラスでの2台体制で今シーズンを戦う。

 冬のメーカーテストから群を抜く速さをみせ、3月初旬に行われた鈴鹿サーキットでのテストでは8号車が1分42秒台を記録するなど、周囲も驚くほどの速さをみせている。

 ここ数年、ホンダ陣営は寒い時季が特に速いと言われていたこともあり、シーズン開幕の頃には勢力図も変わるのではないかと関係者の間でも噂されていたが、4月下旬なみの陽気となった今回のテスト初日でも速さは健在。セッション2では大湯都史樹が駆る8号車が1分18秒601を記録すると、その直後に福住仁嶺の16号車が1分16秒421を記録し逆転トップに浮上。そのままセッション終了となり、予選アタックのシミュレーションではARTAの2台がワン・ツーを独占する結果となった。

 実際に新体制になったことが好調さにも繋がっているようにも感じられるが、実際のところはどのような変化があるのか。ARTA在籍歴が長く、今季は2台それぞれのドライバーとして参戦する野尻智紀と福住仁嶺に聞いた。

2023スーパーGT岡山公式テスト #16 ARTA MUGEN NSX-GT

■「意見が異なる時もあれば、データをシェアできるメリットもある」福住仁嶺

「他のクルマがどういう状況で走っているかも分からないですが、その中でトップタイムというのは悪くはないと思っています」

 そう語るのは、この日トップタイムを記録した#16 ARTA MUGEN NSX-GTの福住。ひさびさにトップタイムを記録できたこともあり笑みがこぼれていたが、「乗っているフィーリングとタイムはあまり合っていないような感じで、もっとクルマを良くすることができるのではないかという手応えもあります。今の状況が僕たちのピークではないかなと思っているので、もっと良い状況を作りたいなと思います」と、課題も少なからずある様子だ。

 新体制になったことについては前向きに捉えている様子の福住。「2台で意見が変わったりすることもありますし、一緒にならないこともたくさんあります。その辺を合わせていくのは難しいと思うし、最終的に自分たちが思う方向に煮詰めていかないといけないと思います。その中でもいろいろなデータをシェアできますし、状況を把握できる点においては、すごいメリットだと思っています。この体制を作るのに協力してくださった皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです」と語っていた。

 今季は大津弘樹が相方となるが「大津選手と組むのは初めてですけど、SRS-Fでは同期でしたし、お互い結婚したのも同じタイミングなので。年齢で見ると大津さんのほうがふたつ上ですけど、仲良くしてもらっています」と福住。

「新体制になって、今までとは違う流れでくることができていますし、手応えも昨年よりは圧倒的に感じている部分はあります。あとは結果を残さないといけない部分はありますけど、今のところ順調にできているかなと思います」と、順調さが伺えた。

2023スーパーGT岡山公式テスト #16 ARTA MUGEN NSX-GT

■「2台体制になったことで悩みもある」と野尻智紀。新たな相方と組んで発見も

 一方、ARTAでは9シーズンめを迎える野尻智紀は、今季は大湯が新たなチームメイトとなり、GT500クラスでの2台体制、そしてメンテナンスがM-TECに変わるなど、本人にとっても新たな挑戦となっている。その中で、テスト1日目の8号車はセッション2では2番手。初日の総合結果では4番手につけた。

 リザルトだけを見ると“順調な滑り出し”のようにみえるのだが、「実際に乗っていると、そんな感じではないです。課題はいっぱいあります」と野尻。冬のメーカーテストからの状況を振り返ると、2台体制になったからこその手応えと悩みがあるようだ。

「やっぱり、2台になったから分かることもすごくたくさんあります。(2台とも)同じセットアップにしても同じにはならないです。実は、この冬も乗り比べたりしたんですけど、違いがすごかったです。正直『個体差の違いで収めていいのか?』と思うくらいで、『今まで乗っていたのとは違うな』という感じでした」

「そういう悩みもありましたけど、良かった点もあります。昨年まで『これ壊れているんじゃないかな?』と思っていたことも、今年2台になったことで、明確になりました」

 また野尻は、2台でデータの比較ができるため、今までの8号車で足りなかった点も明確に分かってきている様子だ。

「今までだと『8号車はなんでセットアップになってしまうのか?』と問われた時に、ドライバーがアンダーステア傾向のクルマが好きだからとか、言い訳できる要素がいっぱいありましたけど、こうして2台でテストをすると、データの時点で明らかに違ってしまっているなというのが、よく分かります」

「ドライバーとしては、そういったところが、データでもチームの中でよく理解してもらえているので、そのあたりは非常に良かったのかなと思います」

 また今季からコンビを組む大湯について聞くと「すごく速いですし、人一倍クルマのことを考えています」と野尻。

「ドライビングもクルマのセットアップもそうです。『もっとこうした方がいいんじゃないか?』とアイデアも出してくれるので、逆に僕が乗り終わってクルマのコメントをする時は、すごく緊張しますね。大湯はすごく一生懸命(クルマのことを)考えてくれているので、正しく表現しないといけないなと、言葉選びとかはていねいにしています」と、彼と同じマシンをドライブすることで、さらに気を引き締めている様子だった。

 タイムシートで常に上位につける8号車が、「(手応えは)ないですね。この症状に対しては、こういうことをやったら消えるかが、まだ見え切れていません。なんとなくタイムは出ましたけど、コントロールできる幅は少ないなと思います」と野尻。笑顔もやや少なめだったのが印象的だった。

2023スーパーGT岡山公式テスト #8 ARTA MUGEN NSX-GT

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