「福井に来ても何もない」自虐の県民性…「ださいたま」と言われ続け40年、“呪い”断ち切る挑戦者たちがエール

【グラフィックレコード】北陸の“ださいたま”?
東京駅構内で開かれた「埼玉県全63市町村のキーマン展」=2020年12月、グランスタ東京「スクエアゼロ」

 「福井に来ても何もない、来るだけ無駄足」。シンフクイケン第1章「福井の立ち位置」に寄せられた読者の声。自分たちのまちを自虐する県民性は福井だけなのだろうか―。

 「ださいたま」と言われ続けて40年。都道府県魅力度ランキングで40位台常連の埼玉県では、「ださいたまの呪い」を断ち切る挑戦が始まっていた。

 2020年12月、東京駅構内に63人の大きな顔写真が一堂に展示された。「埼玉県全63市町村のキーマン展」。農家や店主、行政マン、僧侶ら職種はさまざまで、各自が地域課題に取り組んでいることを紹介した。何より目を引いたのは63人の力強い目線だ。

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 仕掛け人は埼玉県熊谷市で飲食店を展開する加賀崎勝弘さん(50)。1980年代にタレントのタモリさんが生んだ造語「ださいたま」が広がり、肩身が狭い青春時代を送ったという。「埼玉のイメージを変える挑戦。呪いを払拭(ふっしょく)するために土地の素晴らしさを正面から伝える。その第1弾の取り組みだった」と振り返る。

 きっかけは19年のラグビーワールドカップ地元開催。加賀崎さんらは本番が近づいても県民の盛り上がりがいまひとつと危機感を抱いた。行政を巻き込み、熊谷市内で埼玉の食や自然、音楽が楽しめる大規模なフェスを18年9月に開き、4万5千人を呼び込んだ。目指したのは広大な農地を有する埼玉の食と人をつなげ、地元愛を育てること。そのために並行して進めた企画が「63人のキーマン」だった。口コミを頼りに加賀崎さんが一人一人訪ねて熱意を伝え、63人を紹介する冊子を発行し、東京駅での展示につなげた。

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 「63人のキーマン」の一人、埼玉県志木市の建築家、鈴木美央さん(39)は兵庫県神戸市生まれ。東京の大学に進学し、ロンドンで5年間、高層ビルなどを設計。帰国後の生活の場として30~40年前に開発された志木市のニュータウン、いわゆる団地を選んだ。「大規模建築ばかりの仕事に疑問を感じ、小さなモノの集合体でまちを変える研究をしたくなった」

 鈴木さんたちが実践するのは、団地の公園を使った年に数回のマーケット。近隣の20~30店舗を集めて「このまちに暮らす喜びを感じられる場」をつくっている。目的は大勢の来場者ではなく、住民の心の充足。地域の食や自然、人の豊かさを実感できる農家や店を呼び、老若男女が笑顔になれる一日を演出する。「小さくても丁寧に繰り返せば、まちのイメージは変わるし、住民はまちに期待し始める」

 小さなマーケットの輪は近隣自治体にも広がり始めている。鈴木さんは「地方と地方で人口の奪い合いをするより、福井を出ないで楽しくやっていようよ、という環境をつくることの方が大事」と話す。

 そして、埼玉と福井に共通する「自虐」と「地元愛」は表裏一体だと指摘する。「自分のまちをネガティブに言う人ほど、まちを気にしている。好きを認められる環境をつくってあげさえすればいい」

 可視化されたキーマンたちが互いにつながったり、周りを巻き込んだりするうち、“呪い”は確実に解け始めている。加賀崎さんは「どの地域にも魅力的な人は必ずいる。『ださいたま』にできるんだから、福井にも絶対できる」とエールを送る。

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