「何のために、自分たちは存在するのか」J2リーグ“静岡三国決戦” ロゴマークに込められた“覚悟”

2023年、静岡のサッカー界は大きな転換期を迎えました。30周年を迎えたJリーグのトップカテゴリー「明治安田生命J1リーグ」に名を連ねる静岡県内のクラブはありません。一方、J2には清水エスパルス、藤枝MYFC、そして、ジュビロ磐田と史上初めて3つのクラブが顔をそろえました。

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静岡サッカー最高峰の戦いは、県勢同士が火花を散らす「静岡ダービー」です。いまから44年前、浜松の本田技研と磐田のヤマハ発動機が初めて日本リーグの舞台で対戦。“天竜川決戦”の名で長年親しまれてきました。平成から令和にかけては、清水と磐田のライバル対決が静岡のサッカーシーンを熱くしています。

この両雄の間に割って入ろうとするのが、元祖サッカーの街をホームタウンとする藤枝。この“戦国J2”を静岡から盛り上げようと3つのクラブが今季、共同で新たに企画を打ち出しました。3クラブが対戦する計6試合を「静岡三国決戦」と名付けたのです。このネーミング、さらにロゴマークには、深い思いが込められています。

「静岡三国決戦」のロゴマークを発表する(写真左から)磐田・山田大記選手、藤枝・横山暁之選手、清水・北川航也選手

「J1がひとつもないことは本当に悔しい。だからこそ」

「エスパルスだけでもJ1に残ってほしい。うちのスタッフはみなそう思っていました」

ジュビロ磐田広報グループリーダーの柴田さよさん。苦労の末、三たび登り詰めたJ1の舞台をわずか1年で去らねばならない無念さを押し殺し、こちらも残留争いを巻き込まれていたライバルがJ1に生き残ることを信じていました。しかし、その願いはかなわず、磐田に続き、清水までもがJ2降格となりました。

J1から静岡勢が消えるー。我々メディアは「王国崩壊」と書きたて、他県のサッカーファンは「静岡は終わった」と煽りました。柴田さんは「J1に(県勢が)ひとつもいないことは、本当に悔しい状況。だからこそ、私たちはここから這い上がり、もう一度静岡を盛り上げていかなければ」と強く誓ったといいます。

「3チームでも“ダービー”なんだろうか」

「エスパルスまで降格したことで、絶対にJ2に上がるんだと」

一方、藤枝MYFC広報課の伊藤早紀さんは覚悟を決めました。「ここで3クラブがそろったら、Jリーグ全体の注目度も上がり、静岡のサッカーがもっと注目される機会に必ずなる」。静岡県リーグ1部からスタートしたクラブが14年の歳月をかけて、初めてのJ2昇格を決めたのは、清水降格から15日後のことでした。

同一カテゴリーに静岡のクラブが3つになったことで、思わぬところに注目が集まります。「静岡ダービー」という名称の扱いです。「ダービーは特別なものとして育ってきた。ジュビロには絶対に負けられない、そういうのが当たり前でした」。自らもダービーでプレーした経験を持つ、清水エスパルス広報部長の髙木純平さんは悩んだといいます。「ダービーは、世界的には2つのチームの対立軸を表すワード。果たして、3チームでもダービーなんだろうか」

「J2に3クラブってかなりの群雄割拠」

2022年12月、Jリーグと静岡県内のクラブ広報が一堂に会した席で、こんな話が飛び出しました。

「J2に3クラブって、かなりの群雄割拠だよね」

1つの都道府県にJリーグクラブが4つもあること自体、約360万人という人口規模を考えても異例です。しかも、そのうち3つが同一リーグにいる状況を言い表すワードにみな、うなずいたといいます。「まるで戦国時代を彷彿とさせるような。せっかくやるなら、戦国時代風に盛り上げるのはどうだろうか」(清水・髙木さん)。ここから話は、一気に進みます。

年明け、各クラブが持ち寄った新たな名称案は全部で21。「静岡三国志」「静岡戦国無双」「静岡蹴球決戦」など、“戦国”を意識したネーミングが並んだといいます。「3つのクラブなので“3”という数字が入るといいなと」(藤枝・伊藤さん)、「試合はもちろんバチバチだが、それ以外は静岡を一緒に盛り上げたいという思いは同じ」(磐田・柴田さん)、「3つの戦いだということを打ち出すことで、視認性も、メッセージ性も高まるのでは」(清水・髙木さん)

決まった名前は、「静岡三国決戦」。全会一致でした。

「逆さ葵」をヒントに

三国決戦を盛り上げるためには、まずメーンビジュアルが必要です。そこで採用されたのが、3つの勢力が拮抗している様子を表す紋章「三つ巴」をモチーフにしたロゴマークでした。「いまの状況にピッタリだと思った」と語るのは髙木さん。このロゴマークには、こんな意味があるといいます。

「本来、三つ巴の場合は、上が1つで下が2つ。でも、三国決戦の場合は逆。ヒントにしたのが久能山東照宮です。本殿には、徳川家の家紋『葵』が数多く施されていますが、実はそのうち4つが『逆さ葵』となっているんです。なぜ、逆さなのか、これには『まだ完成ではない』という意味が込められているといいます。完成ではないからこそ(徳川家は)未来永劫続く、と。ならば、我々も『逆さ葵』にあやかり(ロゴマークの)三つ巴を逆にすることで、(J2での)三国決戦は完成ではない、J1で三国決戦をやるんだという思いを乗せようと」

自分たちの“存在意義”とは

確かに、現在のトップカテゴリーには、静岡のクラブはいません。しかし、静岡には「スタジアムに試合を観に来た親子の会話を聞いていたら、母親が息子にプレーの説明をしていた(磐田・柴田さん)」“土壌”があり、「おじいちゃん、おばあちゃんがスタジアムに足を運び、1つのトラップ、1本のパスに大きな拍手を送る(藤枝・伊藤さん)」“文化”があります。

だからこそ、「三国決戦最大の目的はサッカーを通じて、静岡全体を盛り上げること。何のために、自分たちは存在しているのか、ホームタウン、そして静岡県に対してなにができるのか。すべてのクラブが考えなければいけないと思うんです」(清水・髙木さん)

いまがベストだとは、だれも思っていません。三国決戦は、新たな“王国”を築き上げていくためのシンボルに。そして、いつの日か3つのクラブがそろってJ1の舞台に立ち、“逆さ三つ巴”の形を変える、という強い覚悟が込められています。

三国決戦は、絶対に譲れない戦いです。磐田が「この6試合で静岡の頂点を決めるんだと。もちろん目指すは、J1復帰ですが、静岡では絶対に負けられない(柴田さん)」と宣戦布告すれば、清水は「3クラブが同じカテゴリーになったことでいままで以上比較される。勝たなきゃいけない、差を見せつけなければいけない(髙木さん)」と返り討ちを誓います。

藤枝も黙ってはいません。伊藤さんは、須藤大輔監督の言葉を引用して「J2のレベルが低いんじゃない。J1もJ3も(レベルは)上がっている。その中で勝ち抜いて、私たちはこの舞台にいるんです。(清水、磐田には)勝ちたいという思いしかありません。42試合の中の1試合ではない、それ以上の意味を持つ試合」と力を込めます。

初の“天竜川決戦”から44年

1979年、本田技研対ヤマハ発動機による初めての“天竜川決戦”は、奇しくも今回と同じ2部リーグが舞台でした。しかし、本田のホーム・都田サッカー場は約4,000人の観衆で埋まったといいます。その後、この戦いは両チームが1部に昇格した後も続き、日本における“ダービーマッチ”の草分け的存在として、語り継がれるようになりました。

あれから44年、今度は“永遠のライバル”清水をホームに迎え撃つ磐田。「3万人とか、J1を超えるような観客の中、ゲームができたら。『やっぱり静岡は違う』と思わせたいですね」(柴田さん)

いよいよ、3月18日、エコパスタジアムで新たな歴史の火ぶたが切られます。

【静岡三国決戦】

3月18日(土)ジュビロ磐田×清水エスパルス(14:00 エコパスタジアム)

5月13日(土)清水エスパルス×藤枝MYFC(14:00 IAIスタジアム日本平)

5月17日(水)藤枝MYFC×ジュビロ磐田(19:00 藤枝総合運動公園サッカー場)

7月16日(日)ジュビロ磐田×藤枝MYFC(19:00 ヤマハスタジアム)

9月30日(土)藤枝MYFC×清水エスパルス(時間未定 藤枝総合運動公園サッカー場)

10月7日(土)清水エスパルス×ジュビロ磐田(時間未定 IAIスタジアム日本平)

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