石破茂元防衛大臣がZ世代と考える、転換期を迎えた日本の防衛対策の未来

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG(モニフラ)」(毎週月~金曜7:00~)。2022年12月27日(火)放送の「モニフラZ議会」では、ゲストの石破茂元防衛大臣とともにZ世代の論客が、転機を迎えた“日本の防衛対策”について議論しました。

◆今後の日本の防衛の指針となる"安保3文書”

ロシアによるウクライナ侵攻や台湾有事をはじめとする中国の脅威、そして北朝鮮の核・ミサイル問題など世界情勢は日々緊迫度が増すなか、日本の防衛対策も大きな転換期を迎えています。政府は2022年12月16日、防衛の新たな指針となる「安保3文書」を閣議決定しましたが、そこに明記されていたのは「反撃能力」の保有。これは憲法9条に基づく専守防衛の理念が形骸化するとの見方もあり、国民の間でも賛否が分かれています。

安保3文書のポイントとなるのは、アメリカと連携して行使していくとする反撃能力に加え、防衛関連予算GDP比2%を目指すこと。そして、中国の軍事動向は最大の戦略的挑戦で懸念事項と位置付け、北朝鮮は以前よりも一層重大かつ差し迫った脅威。さらに、ロシアについては、安全保障上の強い懸念を示しました。その上で専守防衛に徹し軍事大国とならない、積極的平和主義を踏襲するとしています。

今回の文書に関して、Health for all.jp代表の茶山美鈴さんは「全体として反撃能力に偏った印象」と述べつつ、2つの疑問点を挙げます。1つは反撃能力以外の抑止力について。日本は食料自給率が低く、エネルギー問題もあるなかで有事の際にいかにそれらを補償していくか明記されておらず、そこも議論の余地があると訴えます。

2つ目は"グレーゾーン”。「有事の際は抑止、平時では観察・監視とあるが、グレーゾーンはどうするのか。そもそもグレーゾーンとはなんなのか定めていかないと、国家間の緊張が高まっていくのではないか」と茶山さんは危惧。

キャスターの堀潤曰く、文書の中には日本の防衛産業の事業化、食料自給率の向上といった国内の経済、食料に関する記述はあるものの、具体的なビジョンはあまり示されていないと補足します。

茶山さんの意見に、「日本として、そういう選択を我々の世代がしてきてしまった」と石破さん。そもそも日本は農業、漁業、林業に向いた国であるにも関わらず、そこに注力せず、国の経済向上を選択してきた結果が今の食料自給率に繋がり、エネルギーにしても同様で「これはまずくないですか」と懸念します。そして「ポテンシャルはあるんだから、政策変更していけば(リカバリーするのは)今からでも十分可能で、それをもっと訴えないといけないと思っています」と語ります。

また、グレーゾーンについては「国が旗を掲げて武力で攻め入るのが普通の戦争だけど、グレーゾーンというのは軍隊なのか、軍隊じゃないのかわからない。ミサイルなどの武力攻撃でもなく、ただ国家の主権が侵害されているよねっていうもの」と解説。その上で「これに見合った法制を考えないといけない」と苦慮。

◆反撃力は抑止力になり得ない!? 石破さんが語る抑止力の意味

堀からは中国への対応に関して、現状示されている抑止力でいいのかとの質問が。これに石破さんは「日本だけでは抑止力は持てません」と回答。日米同盟があるものの、「反撃力というのは、それだけでは抑止力にならず、日米同盟とセットにしたときにどんな意味を持つか。日本が反撃力を使うときに,、日米でどう協議するかを詰めていかないと意味がない」と力説。

また、反撃力の法的解釈については「法的には可能なんですよ。昭和30年代からそうやって答弁しているから」と石破さん。加えて「ただ、その手段を持っていなかったということ。決して先制攻撃はしませんということの意味が反撃能力という言葉にはある。でも、それが抑止力になるかどうかは、別の問題」と話します。

茶山さんが、安保3文書の改訂にしろ、防衛費の増税にしろ、制度変更だけが先行し、その中身をどうするのか。さらには何に使われているのか国民に一切伝わってこないことを嘆くと、石破さんからは「それを説明するのが、私たちの仕事であり、責任です」との言葉が。

◆原発防衛にサイバー攻撃対応…議論すべきことは山積

続いて、堀が安保3文書のなかで気になった点を整理。気候変動対策に関しては「原子力の最大限の活用など」とあるものの、原発をどう守るのか明記されていないことを危惧。

そして、サイバー攻撃については「可能な限り未然に攻撃者のサーバ等への侵入・無害化ができるようにする」とありますが、「サイバーに関しては、先制攻撃もするということなのか?」と疑問を呈します。

まず原発について石破さんは「原発を軍隊が守っていない国は極めて珍しく、本当にそれでいいのかということは問わなければいけませんね」と憂慮。そして、サイバー攻撃も「これは法的にどう仕組むかが大事で、先制攻撃になるかどうかは法理論的にまだ詰まっていない。きちんとやらなければいかんと私は思っています」とこちらもまだまだ議論の余地がある様子。

また、サプライチェーンについては「次世代半導体の開発・製造拠点整備、レアアース等、重要な物資の安定的な供給の確保など」と国内での生産力の強化を掲げていますが、それは果たして可能なのか、何年でできるのか堀が懸念すると、石破さんは強化の必要性は認めつつ、一方で「(コストが)高くなるというリスクはぜひとも含めおきいただきたいと思います」と注意を促します。

さらに、ODAの枠組みも改訂し、安全保障に組み込んでいるものの他国の軍への協力も可能とあることを堀が疑問視すると「技術、知識、そういうものを高めて、海外に出していくのは大事なことです」と石破さん。

◆支持率が低迷する岸田政権に国民の声は届いているのか?

気候変動対策に注力するFridays For Future Tokyoオーガナイザーの黒部睦さんによると、平和活動などをしている周囲の人たちからは「抑止力を保持することが軍拡に繋がるんじゃないか」、「もっと平和について議論すべき、安全保障だけでなく人道的な平和を議論するように」といった意見があったとし、そうした声を聞いた上で黒部さんは「国民の声は届いているのか?」、さらには「支持率が政策に影響を及ぼすことが今後あるんでしょうか」と質問を投げかけます。

これに石破さんは「支持率のためにやっているわけではない」と前置きしつつ、「自分たちの意見と違う人こそ、話をしないといけないと思っている」と言い、「(多数決が)51対49で、51のほうが正しいとしたら、それは本当の民主主義ではないと思う。人道や平和などを唱えている人たちに我々が考えていることを話し、ディスカッションをしないと民主主義が機能しないと私たちは思っています」と持論を述べます。そして今後については「主張の違いや世代の違い、そうしたものを乗り越えていかないといけない」と話していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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