ノーベル文学賞作家の大江健三郎さん死去、88歳 中野重治生誕100年などで福井に来県

講演のため福井に来県し、福井ゆかりの文学者との関わりを語る大江健三郎さん=2003年5月、福井県福井市の福井新聞社

 戦後の日本を代表する文学者で、戦後民主主義を足場に平和、護憲、反核を訴えたノーベル文学賞作家の大江健三郎(おおえ・けんざぶろう)さんが3月3日午前3時過ぎ、老衰のため病院で死去した。88歳。愛媛県出身。葬儀は家族葬で行った。喪主は妻ゆかりさん。後日お別れの会を開く予定。

 川端康成に次ぎ日本で2人目のノーベル文学賞を1994年に受賞。50年代から半世紀以上、文学と言論活動の一線に立ち続けた。

 東京大仏文科在学中の57年に作家デビューし、翌年の「飼育」で芥川賞を23歳で受賞。「芽むしり仔撃ち」「性的人間」といった小説で見せた鋭敏で新しい感覚が評価され、早くから作家としての地歩を築いた。

 「万延元年のフットボール」「洪水はわが魂に及び」などが谷崎潤一郎賞をはじめ多くの文学賞を受賞。翻訳され海外でも注目された。

 障害のある子と生きる決意をした男性を描く「個人的な体験」や、「静かな生活」「新しい人よ眼ざめよ」など、自身と長男光さんら家族をモデルにした作品も大江文学の大きな柱だった。「後期の仕事」として、自らを投影した老作家が主人公の「取り替え子(チェンジリング)」「さようなら、私の本よ!」なども発表。2018年から集大成の「大江健三郎全小説」(全15巻)を刊行していた。

 言論活動でも「行動する作家」であり続けた。冷戦と核兵器が世界を脅かす時代を背景に「ヒロシマ・ノート」「沖縄ノート」を著し、積極的に平和と反核を唱えた。護憲運動でも評論家加藤周一さんらと「九条の会」を結成。ノーベル賞決定直後に文化勲章を辞退し「戦後民主主義と、(国が与える)文化勲章は似合わない」と述べた。東日本大震災後には脱原発を訴え、数万人規模の集会の先頭に立った。

 大江さんは、福井県坂井市丸岡町出身の作家中野重治生誕100年に合わせ02年に来県。03年5月には福井市内での講演に先立ち福井新聞社を訪れ、福井ゆかりの文化人について語った。09年には憲法9条をテーマに同市内で講演した。

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