受験生が喜びの春を迎えた、ことしの公立高校入試。
ことし、広島県内で最も志願倍率が高かった学校は、どこかというと…
豊かな自然に囲まれた安芸太田町、唯一の高校「加計高校」でした。ところが、この加計高校、かつては定員割れが起こり、統廃合の対象にもなりかねない学校でした。
地元の生徒たち
「ぼくが小学生のときは『加計高校はあんまり行かない方がいいよ』とか、『勉強したいなら違う所に行った方が…』ってイメージなんですけど」
「小学校のときは、あんまり親には行ってほしくないって言われていた」
「ぼくも最初のころは、あんまり行きたくないなっていう高校だった」
今回は、『統廃合の危機から一転、広島県内 最高倍率へ 加計高校 大躍進のワケ』に迫ります。
ことし、実施された県立高校の入試の倍率の一覧です。安芸太田町にある唯一の高校・加計高校が2.2倍ということで県内最高ということになっています。
安芸太田町の人口は県内最少で5675人、高齢化率は50%を超えて県内最高です。若い人が少ないということで、町内唯一の学校でもある加計高校もその影響を受けています。
2013年度に県教委が示した「2年連続で在校生が80人未満の学校については、統廃合などの検討対象とする」という条件に当てはまる可能性が出ていました。加計高校が県内最難関となった理由を探りました。
加計高校がある安芸太田町の加計地区です。地元の人たちは、加計高校がことし、倍率が高くなったことに驚きと喜びを隠せません。
地元住民たち
「ぶったまげたね。ほんま、加計高校が1位? (志願倍率)2.2なんぼだったよね。それは、すばらしいのおと思うてね」
「年寄りばっかりじゃけえね。ほとんど高齢者ばっかりじゃけえ。今は若い子が通ってから、あいさつするのはいいんじゃない。明るくなると思う」
「生き生きとした子どもたちが町内あちこちで見かけられることになると、かなり地域の人たちもですね、活力はわくんじゃないかと思っています」
…というのも、加計高校は、もともと人口減少などによって志願者数が入学定員に満たない「定員割れ」が続く高校だったからです。
地元住民
「可部線とかがなくなって、通ってこられる子が少なくなって、生徒が少ないという状態だった」
中には町外の高校に子どもが進学するのに合わせて、全員が引っ越しする家族もいました。
地元住民
「その頃はね、自分の子どもがね、全部、加計高校を卒業していたから、さびしくなるねと思いました」
そんな中で、生徒増加のための取り組みを進めてきたのが、加計高校の社会科担当・片岡巧 教諭です。生徒数不足で統廃合の危機にあった島根県 隠岐諸島の高校が、全国から生徒募集を始めたことを知り、当時の校長たちと相談し、8年前から加計高校でも取り組むことにしたのです。
片岡巧 教諭
「最初の2~3年のころは一番のアピールポイントは射撃部でした。当時の本校で全国にPRできるような実績を上げているといえば射撃部で、とにかく一点推しでPRを始めました」
射撃部は全国的にも珍しい部活であったことから、県外から生徒が入学してくるようになり、今度は彼ら自身が国際交流やボランティア活動などの魅力の発信を始めました。その結果、生徒数も徐々に増え、ついに定員割れを解消したのだといいます。
片岡巧 教諭
「まず、うれしかった。もう1つは自分たちのやってきたことや、生徒たちががんばってきたことが確実に結果に結びついたなと」
加計高校に東京や大阪など全国各地から進学してきた1年生です。午後6時半すぎ、部活動などを終え、歩いて帰宅します。
生徒たちが暮らすのは、人材交流センター「黎明館」です。この学生寮は、県外から入学する生徒の数が増えたことなどに伴い、去年4月に新設されました。安芸太田町の木材も使用されているという、この建物の建設費はおよそ5億円。
多くの生徒を少子高齢化が進む安芸太田町に誘致し、地域の人たちとの交流を図ってもらおうと国の補助金も活用して町が建設しました。
寮では用意された夕食を1人ひとりが自由な席で食べます。愛知から加計高校に進学した 橋本寧々 さんです。初めての寮生活に最初は不安も大きかったといいます。
愛知出身 橋本寧々 さん
「初めは親元を離れるのがすごく不安で、ちゃんと1人でできるかなって感じだったんですけど、すごく楽しくて、毎日、友だちの部屋で遊んだり、お泊りみたいな感じですごく楽しい」
東京からやってきた 山畑飛緒 さんも寮生活を満喫しています。
東京出身 山畑飛緒 さん
「ぼく、一人っ子なんですけど、家だったら親と自分しかいないじゃないですか。ここだったら、みんないるので、兄弟じゃないですけど、そんな感じでめっちゃ楽しいです」
食事後には寮生同士でカードゲームをしたり、勉強を教え合ったりして過ごすそうです。
広島市出身 小川泰樹 さん
「時間があれば、もうみんな、友だち同士で集まってワイワイしてます。それは絶対、寮じゃないとできないことなので、やっぱり寮ならではの過ごし方っていうのをしていると思います」
兵庫出身 加治木蓮斗 さん
「テスト勉強とかあったら、みんなでここでできる。男女で仲いいんで、『来週、何の課題あったっけ?』とか」
橋本さんは、沖縄出身の 西平瑛美 さんとインスタグラムを使って、高校や寮生活の魅力発信も始めました。
沖縄出身 西平瑛美 さん
「2人で写真を選んで編集してやっています。生き物とか、こういう広い空とかは、いなかにしかないので、でっかいクワガタとか、このサイズ、都会じゃ、なかなかいないじゃないですか。すごくお気に入りです」
二川一成 校長は、生徒が主体となって魅力を発信する今の雰囲気こそが、加計高校の最大の魅力だと話します。
加計高校 二川一成 校長
「さまざまな活動を通して子どもたちが本当にここの学校に入ってよかったと思う気持ちがあって、積極的にPRしてくれて、志願に結びついてるかなという感じはします」
そのうえで、全国から集まった生徒たちが、人口減少が進む町を支える「ひとり」になることを期待しているといいます。
二川一成 校長
「(卒業後、)安芸太田町にずっと住み続けるかどうかは本人の選択ですけれども、少なくとも安芸太田町を応援しようとか、何かあったら助けようとかいう気持ちを持って卒業してくれている。そういう応援する生徒を育てたいと思っています」
統廃合の危機を若い生徒たちの発信力で脱し、ますます進化を続ける加計高校。この春、40人に合格の知らせが届きました。