夜の岸壁沿いを散歩中、愛犬のトイプードルが海に転落…救出に飛び込んだ飼い主、体温29度の窮地【敦賀海保日誌】

事故があった現場(2023年3月・福井県小浜市)

「犬も歩けば棒に当たる」ということわざ。何か行動を起こすと思わぬ幸運が訪れることがある、つまり積極的に動かなければ幸運も訪れることはないという意味合いで使われることが多いですが、実はこのことわざにはもう一つの意味があり、何か行動を起こすと時に思いがけない災難に遭う、つまり余計なことは極力しないほうが良いという全く反対の意味の戒めでもあるんです。動くべきか動かざるべきか・・・。結局、幸も不幸も来るときには向こうからやって来るということでしょうか。今回は、そんな「犬も歩けば・・・」な出来事が“不幸にも”起こってしまったというお話です。

2023年3月上旬、50代の男性が海に転落して病院に救急搬送されるという事故が発生しました。

この日、男性は自宅で晩酌をした後、愛犬のトイプードルと散歩に出掛けました。時刻は夜の8時ころ、選んだ散歩コースは近所の漁港の岸壁沿いで、漁港内にはほとんど明かりがなく人気もありません。そんな中で、男性は愛犬にリードなどを付けず漁港内を自由に歩かせていたそうです。

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すると、このワンちゃん、暗闇で岸壁の境目に気付かなかったのか「ボチャン!」と突然海に落ちてしまいました!岸壁は海面からの高さがかなりあって、小型犬が自力で這い上がれるようなものではありません。愛犬が海に落ちたことに気付いた男性はパニック!助けるため慌てて海に飛び込みました!

男性は、なんとか犬を抱きかかえ岸壁に開いていた排水口の穴に上らせて海から引き揚げることに成功しました。と、ここまでは良かったのですが、今度は男性自身が岸壁に上がることができなくなってしまったんです・・・。辺りは真っ暗で人気もなし。3月上旬の海はまだ10度を下回る水温で、男性の体力をどんどん奪っていきます。当然、散歩に出てきただけなのでライフジャケットなどの浮力になるようなものは身に付けておらず、海中での体勢も不安定です。男性は恐怖にかられながらも、「おーーーい!」と叫び周りに助けを求め続けていました。

こうして男性が海に飛び込んでから10分ほど経過したころ、たまたま漁港の近くに車を止めて車内で休憩していた男性が、その悲痛な叫び声に気付きました。この男性は、その叫び声からただ事ではないと車を降りて声のする方へ向かうと、暗い海の中に浸かるその男性の姿を発見したのです。

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駆け付けた男性は、近くにあったロープを使って、海の中から男性を引き揚げ救助することに成功しました。ですが、冷たい海の中に浸かり続けていた男性の体温はすっかり奪われてしまっており、通報により駆けつけた救急隊が処置に当たったときには、男性の体温は29度まで下がっていて危険な状態。直ちに病院に搬送され、その後の治療の結果、無事に回復したということでした。

今回の事故、まさに「犬も歩けば“海に落ちる”」

わざわざ夜の海の近くで散歩をしなければ、このような不幸は訪れなかったでしょう。今回は、たまたま気付いてくれた人がいたから良かったものの、夜の海は人気がないことがほとんど。それに、暗く見通しが悪いので、ただでさえ障害物が多く注意が必要な港の中を歩くことは大変危険ですし、ましてやお酒を飲んだ状態ではさらに危険度が高まります!

愛犬を助けようと必死になる気持ちは分かります。ですが、飛び込んだ後の登り口の確認や他の救助方法を冷静に判断できなかったことは、多少なりお酒の影響があったのかもしれませんね。

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「犬も歩けば棒に当たる」 この戒めに習えば、海で事故に遭うリスクも少なくなるはず。海に行くなということではなくて、“棒”に当たらない“歩き方”が重要なんだと思います。今回は冒頭にお話しした2つの意味のうち、“災難”に当たってしまったようです。いや、結果として男性も犬も無傷で助かったということは、“幸運”に当たったということでしょうか?(敦賀海上保安部・うみまる)

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