金光学園音楽部吹奏楽団創部100年記念演奏会 ~ 倉敷芸文館で楽団のあゆみと音楽の歴史を楽しむ特別な時間

浅口市金光町にある私立中高一貫校、金光学園中学・高等学校の音楽部吹奏楽団が、2019(令和元)年に創部100年を迎えました

海外演奏訪問で活躍の経歴を持ち、定期演奏会が50回の節目を迎えた金光学園音楽部吹奏楽団。

記念演奏会には、OB・OGによる吹奏楽団・金光ウインドアンサンブル、卒業生有志も加わり、100年の歴史を振り返ります。

記念演奏会に向けた準備のようすや思いを紹介します。

金光学園音楽部吹奏楽団創部100年の歴史

金光学園音楽部吹奏楽団のホームページには、創部から今日までの部のあゆみがつづられています。

100年といえば、一世紀。

吹奏楽団として一世紀続いた歴史を振り返ります

創部

1919(大正8)年、当時6人のメンバーでスタートした吹奏楽団。

体育会を機に組織された楽隊は、小学校や金光教青年部に招聘(しょうへい)されました。

写真提供:金光学園音楽部吹奏楽団

創部当時を振り返って(松井 為吉郎 初代部長)

楽器は学校当局が整えて下さったように覚えています。当時中学校には音楽の時間はなく、従って専門の先生はおらず、まったくの素人ばかりの集まりで”君が代”のほか数曲の小学校唱歌を演奏できる程度、それでも秋の運動会に初出演して、競技用の早いテンポのたった一曲を、朝から晩まで繰り返し演奏しました。

戦後の活動から転換期へ

戦争により活動できない時期もありましたが、戦後まもなく活動が再開されます。

校内に残っていた古い楽器をつかった楽団員15名による活動は、地元の小学校にとどまらず、活躍の場を岡山後楽園や博覧会へと精力的に広げます。

1949(昭和24)年、戦後初めて、東京の皇居前広場で開かれたボーイスカウト全国大会。

戦後長らく禁止されていた、国旗を掲げてのブラスバンドパレードが解禁されたこの大会で、総勢3,600人、全長1,200mにおよぶ戦後初の公式なパレードを率いたのが、金光学園音楽部吹奏楽団のブラスバンドでした。

写真提供 : 金光学園音楽部吹奏楽団

昭和30年代になると、楽器の数や種類も充実し、コンクールに出場するなど、活動はより活発かつ洗練されたものになりました。

1973(昭和48)年になると、活動の中心は定期演奏会に変わります

当時の記録には、顧問に就任した佐藤正俊(さとう まさとし)氏からの提案を受けて、定期演奏会実施について話し合ったようすが残されています。

創部から100年

2007(平成19)年、園田泰之(そのだ やすゆき)氏が顧問に就任

楽団員数は100名を超え、吹奏楽団史上初のアメリカ合衆国での演奏活動を実現します。

長年の積み重ねが飛躍に結びついた時代であり、2019(令和元)年に創部100年を迎えた節目の時代でもあります。

一方で、2020(令和2)年はじめから流行しはじめた新型コロナウイルス感染症の影響で、演奏活動の延期・中止を余儀なくされる苦難の時代のはじまりでもありました。

苦境にあっても音楽部吹奏楽団のあゆみは止まらず、新しい演奏会のスタイルを模索し、演奏活動を進化させます。

その結果、顧問をはじめとした学校側の支えや楽団員それぞれの熱意もあり、2022(令和4)年5月、50回目の定期演奏会が開催されました

写真提供 : 金光学園音楽部吹奏楽団

2019(令和元)年3月の開催を目前に、延期せざるを得なかった記念演奏会も、この度の開催に向け着々と準備が進められています

これまでのおもな活動紹介

長い歴史のなかで受け継がれてきた活動には、どのようなものがあるのでしょうか。

これまでのおもな活動を紹介します。

定期演奏会

写真提供 : 金光学園音楽部吹奏楽団

おもな活動の一つが定期演奏会です。

1973(昭和48)年9月15日に玉島公民館で第一回定期演奏会がおこなわれました

それまでおもな活動であったコンクール出場とは異なり、金光学園音楽部吹奏楽団の音楽を楽しんでもらうための催しです。

会場の選定を含め、看板やチラシづくり、あらゆるものすべてが手づくりからのスタートでした。

試行錯誤をしながらも次の世代へと受け継がれ、今では主要かつ大きな規模の演奏会に成長しました。

現役の楽団員だけでなく、卒業生やたくさんのかたに支えられ、愛され続けている演奏会です。

海外での演奏活動

金光学園音楽部吹奏楽団の活動として外せないのが、海外での活躍です。

写真提供 : 金光学園音楽部吹奏楽団

顧問の園田泰之(そのだ やすゆき)さんには、ショービジネスの本場を経験させたいという思いが以前からあったといいます。

その思いが2017(平成29)年、アメリカ合衆国での初めての演奏活動を実現させました。

定期演奏会、海外での演奏活動以外にも、地域と密接につながり、たくさんの訪問演奏やふれあいコンサートに積極的に取り組む吹奏楽団。

数々の活動からは、単に演奏を上達させること以上の体験が得られることでしょう。

金光学園中学・高等学校が大切にしている「心の教育を土台にした人間教育」という教育方針が、まさに実現されていると感じました。

記念演奏会は、長らく受け継がれてきたことをまとめ上げ、表現する場なのかもしれません。

これまでの活動を振り返りつつ、準備のようすや記念演奏会に向けた思いについて、金光学園音楽部吹奏楽団顧問・園田泰之(そのだ やすゆき)さんと、同OB会会長・藤井一男(ふじい かずお)さんにお話を聞きました。

金光学園音楽部吹奏楽団顧問・園田泰之(そのだ やすゆき)さんとOB会会長・藤井一男(ふじい かずお)さんにインタビュー

創部から100年目にあたる2019年に開催を予定していた記念演奏会ですが、新型コロナウイルス感染症の影響で直前で延期することになりました。

延期から3年。記念演奏会に向けた準備のようすや込められた思いを紹介します。

創部100年記念演奏会にたずさわるひとたち

──記念演奏会は、OB・OGによる金光ウインドアンサンブルとの合同演奏とお聞きしています。メンバー構成について教えてください。

園田(敬称略)──

在校生による現役の楽団員が30名います。

金光ウインドアンサンブルのメンバーを主軸に、卒業生有志が加わってくれる予定です。

すでに練習をはじめていますが、実は全体数が把握できていなくて。

80人くらいとは聞いていますが、卒業生有志が増えているようです。

金光ウインドアンサンブル

1982(昭和57)年に発足。
金光学園を卒業したOB・OGを中心とする社会人吹奏楽団。
岡山県浅口市をベースに、岡山県内外の構成員でファミリーコンサートを催すなど、活動中。

──現役のかたが多いのでしょうか。

園田──

卒業生有志のかたは、記念演奏会を機にあらためて楽器をタンスから出して、練習に臨まれているかたがほとんどではないかと思います。

あとは、金光ウインドアンサンブルで活動しているOB・OGとプロで活躍しているかたが参加してくれるという話も聞いてはいます。

僕の教え子の世代はちょうどお子さんが生まれるひとも多いので、参加者のほとんどは前顧問・佐藤正俊(さとう まさとし)先生の教え子です。

記念演奏会では、佐藤先生が指揮をするんです。

演奏会の練習中も、部活動での練習を懐かしがったり、楽しんだりしているひともいるんじゃないでしょうか。

記念演奏会の練習で指揮をつとめる佐藤正俊氏

──どのように練習されていますか。

園田──

2019(令和元)年に記念演奏会を企画したときに、練習は何回かはしていました。

ただ、延期になってしまったので。

今回は昨年(2022年)の夏ごろから実行委員会を立ち上げ、練習をはじめたのが、12月末です。

以降は月に1回から多いときは2回、練習をしていて、本番までに6回ほど練習ができればと思っています。

延期を余儀なくされた100年目の記念演奏会

──延期のお話がでましたが、当時はどんな状況だったんでしょうか。

園田──

当初、2019(令和元)年3月29日に創部100年記念演奏会を計画していましたが、同年の1月中ごろに東京で新型コロナウイルス感染症が発生しました。

2月の時点で、ちょっとこれは無理だなということで中止、延期を決定したんです。

翌年にはできるかと思って、毎年タイミングをはかりながら3年経ってしまいましたね。

今年度(2022年度)になり、定期演奏会が50回の節目を迎えました。

実は、定期演奏会と記念演奏会を一緒にしようかという話もあったんですが、そこはやっぱり別でやりましょうと決まったんです。

正直今年(2023年)も、このあとどうなるかはわからない気持ちはあります。

──100年への思いを教えてください。

藤井(敬称略)──

吹奏楽団は1919(大正8)年に発足しました。

第二次世界大戦の影響で活動できない時期もありましたが、戦後に活動を開始した際には地域や小学校で演奏会をしていたようです。

そしていろいろなかたとの出会い、紆余曲折を経て、今の吹奏楽団になったと思います。

楽団員の数も変化するなか、いろいろなかたの支えや先生がたの指導によって吹奏楽団をつないでこられたことへの感謝があります。

一つの区切りとして、ぜひとも成功させたいと思います。

卒業生有志による練習風景

たくさんの思いがつないだ金光学園音楽部吹奏楽団

──部活動としての吹奏楽団について教えてください。

園田──

現在、30名の楽団員がいます。

多いときからすると減ったといわれますが、たくさんいれば欠席する子も出ますし、そういう意味でも演奏会でも人数の少なさを感じたことはないですね。

今の人数でいいものを追求して、それができていると思っています。

大なり小なり、いちばん心が成長する時期にいろいろなことがあるなかで、自分が学生のときもそうでしたけど、折り合いをつけながら演奏会を目標にして結束を深めてくれていると感じます。

──園田先生にとって、吹奏楽団はどんな場所ですか。

園田──

難しい質問ですね。

部活動は教育の一環なので、日ごろ教室では学べないことを学ぶ時間なんじゃないかなと思っています。

社会人になるときに、苦労も含めた吹奏楽団での活動が支えになって、今の仕事も大丈夫というか。

社会に通用するものを学ぶのが部活動の意味なのかなと。

今回もそうですが、結果うんぬんより今の活躍や活動を聞くのが楽しみですね。

教室の座学では教えてあげられないことを教えてあげられる場なのだと思います。

現顧問・園田泰之氏

──楽団員とOBのかかわりを教えてください

藤井──

実は日ごろの接点はあまりなく、合宿や定期演奏会の裏方としてのかかわりがおもです。

おもな活動として定期演奏会をするようになったことで、ステージの裏方が必要になりました。

現役のときにステージ上できらびやかに演奏ができるのも、裏方がいるおかげです。

卒業してOB・OGになったら今度は支える側として、いろいろなステージマネジメント、会場設定のことなどを学んでいくんです。

現役で演奏しているときから裏方のことを見ておいて、卒業してからは裏方として手伝うことで社会とのつながりを経験することが、社会人になったときにいちばんプラスになるんじゃないかと思っています。

そうして、あとは年齢を重ねて、本当の裏方になっていくという。

音楽部吹奏楽団OB会会長・藤井一男氏

園田──

大学3年間を含めて、吹奏楽団は9年で卒業といったりもしますね。

大学生になったら、まず吹奏楽団の合宿の生徒指導をし、翌年には中心になって合宿をおこない、最後は定期演奏会を企画・運営をするんです。

定期演奏会は、今でこそ照明などは会場のかたがすることが多いですが、それ以外の受付やドア係、舞台のセッティングも、今までお世話になってきたから、じゃあ協力しようかという思いがスタートです。

自分たちがしてきてもらったことを、後輩にちゃんと還元してやろうという思いで、脈々と受け継がれてきていることだと思います。

創部100年記念演奏会の見どころ

──記念演奏会の見どころを教えてください。

園田──

現役楽団員による演奏の部、金光ウインドアンサンブルと卒業生有志によって構成されたCentury Band(センチュリーバンド)による演奏の部に続き、両者が合同演奏する三部構成になる予定です

当初は二部構成だったんですが、記念演奏会でもあり、同じステージに立つことが大事だとアイデアが出ました。

「100年」があるから集まれるんだと思います。

私も卒業生ですが、曲目を見ると自分が学生時代に演奏していた曲もたくさんあります。

それぞれの世代に演奏会を聞きに来てくださったかたが、楽しんでもらえるような演奏会になっていると思います。

吹奏楽団としても、創世記から部の転換期など、100年を振り返ってぜひ紹介したいエピソードを交えながら、歴史をめぐっていくような演奏会の構成になっています。

金光学園の卒業生のかたからすると、在校時によく練習しているのが聞こえたなぁという曲もあるかもしれませんね。

今までつくってきたものをここまで続けてこられた感謝を、聞きに来てくださったかたに届けられる演奏会にしたいと思って、練習しています。

演奏予定の曲目紹介

取材時の情報です。
当日の曲目は変更される場合があります。

おわりに

「まだまだアイデアが出ていて、予定の時間内に終わるのか心配なんです」

そんなふうに話の終わりを締めくくりつつ、園田さんも藤井さんも笑顔でした。

たくさんのひとがかかわり、思いを持ち寄るからこそ、決して簡単な準備ではないと思いますが、学生時代の経験があるからこそ乗り越えられるのかもしれません

記念演奏会の準備そのものを、心配も含めて楽しんでいるのかもしれないと感じました。

インタビューを通じて語られていたのは、感謝をつたえたいという思い

普段吹奏楽にふれることがないひとも、ぜひ100年の節目に立ち合い、歴史のハーモニーを楽しんでほしいと思います。

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