レコーディングはゴールが見えないからこその面白さ
──最初に言っちゃいますが、今作、凄く良いです! フルアルバムとしては『Gerato』(2018年)から5年ぶりですが、その間にメンバーチェンジがありました。新メンバーが決まった流れを教えてください。
大川順堂(Drum):まず去年の春にアコーディオンのよっちゃん(yossuxi)が辞めることになり、オーディションで募集かけて、それで朋ちゃんに決まりました。メンバーも決まった、スタジオ入るぞーってなったら、今度はベースの上原子Kが辞めることになりまして。
──Kさんの脱退は急だったんですね。
順堂:そうなんですよ。次のベースを決めないといけなくなり、最初は何人か交替でヘルプで弾いてもらって。その中で鹿児島君が正式にメンバーになりたいって言ってきてくれて。
──アコーディオンのオーディションはどんなふうに?
順堂:課題曲の2曲を弾いてる動画を送ってもらって。
スージー(Guitar):朋ちゃんは、自撮りの動画で曲を弾く前に礼をして、終わってからも一礼していて、礼儀正しかったんですよ。それが決め手ですね(笑)。それだけじゃなく本当に演奏も上手いし。
順堂:技術面は申し分ないよね。あとは慣れてくれば。いやもう既に慣れてノビノビやってくれてます。
──朋子さんはオールディックに入ろうって思った理由は?
三隈朋子(Accordion, Keyboard):オールディックのことは前から知っていてライブもずっと観に行ってたんです。私はこれまでいくつかバンドをやっていて、最初のバンドはラスティック界隈でライブしてたバンドで、アコーディオンを始めたきっかけもラスティックっていうジャンルを知ってからなんです。ラスティックならアコーディオンだ! って。一番モテそうだなって(笑)。
順堂:バエるからでしょ(笑)。
朋子:そうです(笑)。
──いいメンバーですね~(笑)。鹿児島さんは?
鹿児島大資(Bass):僕もオールディックのライブにはよく遊びに行っていて、仲良くさせてもらってたんです。で、ベースが辞めるからヘルプとして弾かないかと誘ってもらって、やります! やらせてください! って。ヘルプは僕の他に何人かいて、こんな楽しいこと譲りたくないなってだんだん思ってきて。メンバーになりたいって自分から言いました。
──もともとオールディックは聴いていたんですね。
鹿児島:オールディックは聴いていたんですけど、実はラスティックはほとんど聴いてなくて。ずっとパンク、ハードコアを聴いていたんで。僕はオールディックはパンクバンドだと思ってるんです。
三隅朋子(Accordion, Keyboard, Vocal, Chorus)
鹿児島大資(Electric Bass, Chorus)
──その通りですよね。オールディックに入って、どうですか? 思った通りとか、こんなはずじゃなかったとか(笑)。
朋子:ずっと楽しいです。練習するのも楽しいし、毎週のスタジオも楽しみだし。仕事しながら曲のことを考えてたり。ここはこうやって弾くのがいいかな? とか。レコーディングも楽しかったです。何度かレコーティングしたことあるんですけど、こんなに楽しいレコーディングは初めて! って。
──アコーディオンのアレンジは自分で考えるんですか?
朋子:こういう感じでって言ってもらったときは、それを意識しながら自分なりに考えてやってます。
──鹿児島さんはレコーディングはどうでした?
鹿児島:楽しくやらせてもらいました。やればやるほどオールディックはカッコイイなって思って、そこについていくのに必死で。こんなはずじゃなかったって、自分自身に対して思ったことは何度もあって。もっと頑張りたいと思います。
──ベースの低音と、バンジョーやマンドリンとの音の落差というか、立体感があってとてもいいです。
鹿児島:ありがとうございます。レコーディングは、前にやっていたバンドはイメージを固めてから臨むことが多かったんですけど、オールディックは作っていく中で出来上がっていくっていうやり方で。そういう作業は初めてで、わからないことのほうが多かったんで必死でした。だから出来上がったときは感動しました。こうなるんだ! スゲェ! って。
──ゴールが見えないからこその面白さ。
鹿児島:あ、ゴールが見えてないのは僕だけだと思います。みんなは見えてたんだと思います。
順堂:『Gerato』の前ぐらいからプリプロを録ってやるようにしていて。その理由は、曲を固める時間がないから、プリプロやりつつ、細かい所は考えようというスタンスですね(笑)。僕らも、ゴールは見えてないんです(笑)。
若い2人が引っ張ってくれるのでおじさんたちも頑張らないと
──『Gerato』も今作『残夜の汀線』もバラエティ豊かですが、趣はだいぶ違いますよね。今作、ポップだし、勢いや疾走感があるし、唄えるし。そこにオールディックの独特なムードが貫かれてる。例えば、明るいのか暗いのかわからないような曲がオールディックにはあって、それが今作にとても感じる。明るいけど妙にシリアス。
伊藤雄和(Vocal, Mandolin):芸風が固まってきたんじゃないですかね。
──ホントそうだと思います。演奏もダイナミックになって。
スージー:演奏は新メンバーによるところが大きいです。ベースのグルーヴとか。
鹿児島:あんまり淡々としたベースを弾かないから。
スージー:そこはデカいよね。ウネリも出せるし。ベースが面白いことやってくれて、アコーディオンが乗っかっていって。こっちがそこに乗っかるみたいな。だから2人の存在は大きいです。おじさんたちも頑張らないと。若い2人に引っ張られて、若い2人が引っ張ってくれてます。
──最初に作った曲は? あと軸になった曲はありますか? やっぱアルバムのタイトルチューン「残夜の汀線」かな。
スージー:最初に出来たのは朋ちゃんが唄う「ゆらゆら」だよね。
伊藤:最初に手を着けたのは「ゆらゆら」。最初から朋ちゃんが唄うのを想定してました。「残夜の汀線」は最後だったかな。歌詞を準備してなかったんで、レコーディングの初日と2日目だけはスタジオに行って、そこから1週間、俺は行かなくて良くて。その間に歌詞を毎日延々と書いてました。
──レコーディングに入ってから1週間?
伊藤:はい。全曲。
──えぇー! 「残夜の汀線」だけじゃなく、全曲?
伊藤:はい。曲はあったんですよ。でも歌詞はプリプロまでまったく出来てなくて。
スージー:仮歌で唄ってましたね。
伊藤:仮歌で、なんとなく出てきた歌詞とか誰かの歌詞とかを適当に面白おかしく唄って。
──もう一回聞くけど、1週間で全11曲の歌詞を書いたんですか?
伊藤:そうですって(笑)。あ、9曲だったかな。
──凄い。周りは焦らなかった?
スージー:だいたいいつもそんな感じですから。
──大変ですね(笑)。
伊藤:最初、仮歌では適当な歌詞をつけて唄うんですけど、ふざけた歌詞なんですよ。そういう歌詞がしっくりくることもあるんですが、今回は、「残夜の汀線」なんかも唄ってるうちにふざけた歌詞に違和感というか。邪魔になってきちゃったんですよね。
──より自然体になったっていうことでしょうか?
伊藤:そうなんでしょうね。なんかね、疲れちゃうんですよ、ふざけるのって。
スージー:「残夜の汀線」は曲調が明るくはないからね。
スージー(Electric Guitar, Acoustic Guitar, Gut Guitar, Maccaferri Guitar, Chorus)
四條未来(5 String Banjo)
──「残夜の汀線」の歌詞はスケール感があって同時にリアリティもある。音に反映されて出てきた言葉ですか?
伊藤:それはありますね。
──自然に出てくる感じ? 自分の中から引っ張り出す感じ?
伊藤:引っ張ったかな? 引っ張ったら出てきたのかな? 引っ張ってはいないかも。いや、引っ張り出したか。
──引っ張ったって言葉にこだわらなくても…(笑)。「残夜の汀線」はレゲエで、間奏で途中からウワーッと音が集まってくるとこがあって、生きてる! って感じで凄くいいです。アコーディオンがメインにきてるのも凄くいい。
朋子:ありがとうございます。
──イキイキとしつつ、何が起きるかわからない不穏さがあるんですよね。
順堂:やったことない曲調なんだけど、ポリス風だよね。
スージー:そうそう。
──なるほど。でも音数の多さが良かった。いい感じの雑多感。
順堂:抜きと射しが。ダブ的な。
──そうそう。静と動。レゲエ、スパニッシュ、アイリッシュパンク…。バラエティあるアルバムなんだけど、バラエティをどう意識したのか……。例えば『Gerato』は、こんなことやったら面白いだろう、こんなことやったらびっくりするだろう、そういう発想があったと思うんですよ。でも今作はそれとは違いますよね。
四條未来(5 String Banjo):『Gerato』は90年代のバンドのような曲を、ウッドベースやアコースティックの楽器でやったら面白いかなっていう。メタルをウッドベースでやったらどうなるだろう? とか。ちょっと実験的なことをやろうって意識でしたね。今回はそういうのは全く考えずに。なんていうか、ストレートに作ってみようって。やっぱりベースがエレキになったのはデカいですね。昔の話になりますが、最初の頃はバンド自体にラスティックって意識があって、対バンもそういうバンドが多くて。そうすると他と差をつけたいって、工夫していろんなことやってたんです。ライブでは生楽器が聴こえないって言われて、はみ出してでも聴かせたいって余計な音も出してました。今はライブもレコーディングも環境が良くなって、アコースティックの楽器もちゃんと音を出してもらえるんで。奇をてらった感じはなくなり、曲、音楽にストレートに向かってる感じです。
──うん。ストレートですよね。
四條:僕はアンダーグラウンドのものばかり聴いてきたので。より多くの人に聴いてもらうにはどうすべきか、だんだんと考えるようになって、雑音になりがちの音はカットしていって、そうやって今回に辿り着いたかなって、個人的には思ってます。
ポツンと孤独な歌詞、ポップだけど決して軽くないアルバム
──うん。今作の「満月とポイズン」や「さよならセニョリータ」は、今までだったら遊んでるタイプの曲ですよね。こんなことやっちゃって~って笑える曲。でも今回はそういう曲でありながら、アルバムの中で違和感なく治まってるっていうか。いい曲だなってうっかり思っちゃうんですよ(笑)。
伊藤:いい曲ですけどね(笑)。
順堂:遊んではいますけどね(笑)。
伊藤:馴染んでるってことですよね。
──そうそう。馴染んでるし、遊んでる曲を真面目にやってるなって。
スージー:あぁ、けっこう「さよならセニョリータ」は真面目にやっちゃってたかも。
──ボーカルはスペイン語みたいな唄い方で。
伊藤:空耳アワー的な(笑)。
──歌、上手くなりましたよね。
伊藤:そこで言う(笑)。
スージー:この曲で褒める(笑)。
伊藤:でも得意なものを見つけたって感じはします。
スージー:実際、真面目にやっちゃいましたね。メチャメチャ高いクラシックギターを借りてやっちゃいましたから。
──幅が広がったともいえるし、軸が定まって太くなったともいえるし。今までの雰囲気も出てるしね。1曲目の「消えて行く前に」は「いなくなったのは俺の方だったんだ」(2013年)に近いし、「エンドロール」は「いいえ、その逆です」(2012年)に近い。
スージー:近いですね。「いいえ、その逆です」と「エンドロール」の曲は俺で、単調なバラードが好きなんですよ。
──いいですよね~。私も好きです。あとスウィングの曲もあったり。
スージー:朋ちゃんが得意で。前のバンドでやってたんだよね。
朋子:スウィングとかカントリーっぽいものをやっていたんです。今回、曲を聴いて、めっちゃやりたい! めっちゃ合いそう! って思って。
スージー:朋ちゃんはシンセも弾いてるし。ジャズも好きだからね。イヤらしい音を弾いてます(笑)。
大川順堂(Drum, Chorus)
伊藤雄和(Vocal, Mandolin)
──で、1週間で書いた歌詞についてですが、どういうふうに作るんですか? 曲から呼ばれる感じ?
伊藤:呼ばれないですね、全然(笑)。世界観のイメージは浮かぶんですけど、そこから言葉が、しっくりくる言葉が全然降りてこない。だから探しに行くんです。夜の街を、聴きながら歩く。歩いてるとだんだん妄想が…。男なんて子どもの頃から妄想してますからね。(鹿児島に向けて)な。
鹿児島:え? 妄想って下ネタをですか?(笑)
──伊藤さんの歌詞ってどこか孤独じゃないですか。ポツンとしてる。今回の「消え行く前に」も以前の「いなくなったのは俺の方だったんだ」も、誰かが消え行くのか、自分が消え行くのか。ポツンと一人で立ってる感じで。
伊藤:あぁ、はい。もうこの世界観しか書けなくなってるのかもしれない。いやそんなことはないけど。
──深くて面白い歌詞だと思います。今作、バラードはないですね。どの曲もポップ。でも決して軽くないアルバムだと思うんですよ。
伊藤:なんででしょう。馴染んできたんでしょうかね。
──今日ここに来る前に「夜光虫」のMVがちょうどアップされて。川口潤監督のカッコイイMV。かなり孤独ですよね。
伊藤:実際、俺が駅前の通りで倒れてるシーンがあるんですけど、みんな心配もせず、スマホで普通に撮るし、俺の上を跨いでいく奴もいるし。都会はみんな冷たいですよ(笑)。
スージー:でも一人、おばさんが声をかけてきたよね。
伊藤:そうそう。「荷物とか何も持ってないけど大丈夫なの?」って。置き引きにあった酔っ払いだと思ったみたいです(笑)。
──撮影してるのは気づかれずに。
伊藤:歩道橋の上で撮ってるから。たぶんね、川口監督はわざとだね。俺が倒れてる時間をわざと長くしてた(笑)。
──MVを見て、西村賢太さんを思い出しました。
伊藤:野垂れ死に感が?(笑)
──影響は受けてますよね?
伊藤:それが自分の曲に出てるかどうかはわからないけど、読んでたし好きでした。今も好きです。
──孤独も西村さんの世界観に通じるんじゃないかと。なんか、孤独を否定してないというか。
伊藤:でもあの人は本当に孤独でした。俺はそこまで辛い思いをしてないですよ。
──あぁ、そういう歌詞、ありますね。どれだっけな…。
スージー:「エンドロール」ですね。
──そうそう。“世界を裏返すほど強くはなくて 誰も救えないほど弱くはなくて 僕はあの日のまま”。いいですよね~。やっぱポツンと孤独ですよね。
伊藤:やっぱりそういう世界観しか書けなくなったんですかね(笑)。
──でもとても自然で正直だと思います。
伊藤:そうなのかもしれないですね。
──妄想は現実に着地してると思うし。とにかく今作、私はとても好きです。
スージー:今作がダメなら引退します。
──えー、引退しないでください。
スージー:それほど自信作ってことです(笑)。