「被爆クスノキを現代音楽に」作曲家・倉地佑奈さん 演奏動画をユーチューブで公開

倉地佑奈

 国内外で活動する作曲家の倉地佑奈(27)=愛知県立芸術大大学院在学=が長崎市の山王神社(坂本2丁目)にある被爆クスノキを題材に現代音楽を作曲。演奏の動画を動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開している。明確なメロディーや歌詞はなく、クスノキの葉擦れの音や、被爆体験談などから得たイメージを約4分の弦楽三重奏で表現している。
 曲名の「形而上(けいじじょう)へ誘(いざな)うはクスノキの葉擦れ」について「葉擦れの音が、物事を俯瞰(ふかん)的に考える視点へと導いてくれる意味合い」と説明する。バイオリン、ビオラ、チェロを用いて「葉擦れや鳥の声など音の風景」「戦争や原爆」「クスノキの再生、怒りや悲しみの昇華」「平和公園の鐘の音」などを表している。

被爆クスノキをモチーフに倉地が作曲した音楽の演奏録画より=昨年12月、フィンランド・ヘルシンキ

 弓で弦を静かにこすって葉擦れを表したり、弦をはじく音で原爆を表現したり。黙とうのサイレンや鐘の音も聞こえてきて、物言わぬクスノキの体験や日常の様子が時の流れとともに伝わってくる。
 この曲が初めて演奏されたのは昨年12月。世界20カ国から選ばれた7人の作曲家による演奏会がフィンランドで開かれ、倉地もその一人として参加。この演奏会のために作曲した「形而上-」が演奏され、そのときの録画を配信している。
 祖父母の戦争体験から戦争に強い関心があり、曲のモチーフを探すうち環境省の「日本の音風景100選」にある被爆クスノキの葉擦れの音と出合った。コロナ禍のため、同神社を訪れることはできなかったが、集めた葉擦れの音や環境音の周波数を基に音の特徴を捉えたり、被爆者の体験談を聞いて音のモチーフを作ったりしたという。
 倉地は「若い世代が自分のこととして戦争を考えることが難しい今、非当事者、傍観者の立場からのアプローチを考えてみたかった。長崎でも演奏会を開催してみたい」と語った。

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