「だとすれば、誰が…」“袴田事件”現場付近の住民は言葉少な 翻弄され続けた57年

いわゆる「袴田事件」で再審=裁判のやり直しが確定し、無罪の公算が大きくなった袴田巖さん(87)。袴田さんと過去に触れあった人からは、ねぎらいの声が寄せられる一方、事件現場近くの住民からは「だとすれば、誰が犯人なのか…」とやり場のない嘆きが聞かれました。

3月22日午後の静岡市清水区。57年前の事件の面影を残すのは、いまや石造りの蔵だけです。

1966年、旧清水市(現静岡市清水区)でみそ製造会社の専務一家4人が刃物で刺され、火を放たれて殺害されました。事件の犯人として逮捕されたのが袴田巖さん、当時30歳。無実を訴え続け、57年の時を経て再審=裁判のやり直しが決まりました。

<渡辺昭子さん>

「おなかちゃん…おなかちゃんって言っていた。いまでも、おなかちゃんって呼ぶ癖がついちゃってる。全然、そんなバカなことはないと、みんな反対していた。主人もそんなことない(袴田さんが犯人ではない)と怒っていましたね」

静岡市清水区に住む渡辺昭子さん(89)。渡辺さんは2021年に亡くなった夫の蓮昭さんとともに、袴田さんと家族ぐるみの付き合いがありました。おなかが出ていたから「おなかちゃん」。そう呼ぶ渡辺さんのことを袴田さんは「母さん」と呼んでいたそうです。

<渡辺昭子さん>

「とにかく無実で帰ってきてほしい」

3月21日に静岡市内で行われた再審決定の報告会。渡辺さんも参加していました。

<渡辺昭子さん>

「おなかちゃん」

<袴田巖さん>

「・・・」

<支援者>

「巖さん、渡辺さんですよ」

袴田さんが「母さん」と返すことはありませんでした。袴田さんは死刑執行の恐怖と48年間に及ぶ拘留によって、精神的に不安定な状況が続く「拘禁症状」といまも闘っています。

再審=裁判のやり直しが確定し、無罪の公算が大きくなった袴田巖さん。祝勝ムードが高まる一方、事件現場近くの住民からはやり場のない嘆きが聞かれました。

<事件現場近くの80代住民>

「もしもだよ、この人(袴田さん)でないと言ったらさ、誰がやったの?ってことだよね」

現場周辺の住民は事件のことを聞いても、ほとんどの人が口をつぐみました。袴田さんが犯人でないとすれば、誰が犯人なのか。半世紀近く事件に翻弄されたのは袴田さんだけではないのかもしれません。

© 静岡放送株式会社