福井県民なぜ方言を恥じる?コンプレックスの背景 加藤和夫名誉教授が解説書、一因は「無アクセント」

「方言への嫌悪感は方言の衰退につながる。コンプレックスの原因を解きほぐしたい」と語る加藤和夫さん=福井県福井市の福井新聞社
加藤和夫さんが執筆した「福井県の方言」(岩田書院)。金沢大学での教え子2人もコラムの一部を寄稿している

 福井県民、とりわけ嶺北の人は方言へのコンプレックスが強いとされる。方言の正しい理解が誤解や偏見を解く第一歩になるという思いから、第一人者の一人である金沢大学名誉教授の加藤和夫さん(68)=福井県越前市出身=が長年の研究成果を分かりやすく集成。福井県郷土誌懇談会(事務局・福井県立図書館)のブックレットシリーズとして「福井県の方言 ふるさとのことば再発見」のタイトルで出版された。

 方言の定義に始まり、方言の成立過程、嶺北と嶺南の方言の違い、特徴的な語彙、世代別にみた方言の変化まで5章構成。

 興味深いのが、方言の嫌悪感と好感度調査の結果。NHK放送文化研究所の全国調査で「恥ずかしい」と答えた割合が最も高かったのは福井県の26.9%。嶺北に限れば28.9%とさらに高い。一方、加藤さんらによる全国16都市の調査で「方言が好き」と答えた割合が最下位だったのが福井市で、わずか20%だった。

 「地方ごとに生まれた独特の汚い言葉」との誤った認識がコンプレックスの一因と指摘。方言の多くは京都の言葉をベースとし、地方に伝播する過程で変化したという正しい理解が偏見をなくす第一歩とする。

 もう一つの要因が「無アクセント」。福井、坂井、鯖江、越前の各市に共通する方言の特徴で、単語や文節にアクセントのルールがない。例えば「橋が」「端が」「箸が」。意味の違いに応じた音の強弱や高低の違いを意識せずに同じように発音するため、メリハリのない平板な話し方になる。それゆえ、語尾が伸びるイントネーションも余計に際立つ。

 進学や出張で県外に出た際、共通語を用いて方言を矯正しているつもりでも、無アクセントによる平板な話し方はそのままなので「なまっている」と指摘される。言われた方は無アクセントを自覚していないがゆえに「いわれなきコンプレックス」を抱えて萎縮する。テレビのインタビューに答える地元の人の発音を気恥ずかしく感じるのもそのためだ。

 方言は「地域の大切な文化であり、個々人の言語的アイデンティティーの基盤」と加藤さん。正しい理解がコンプレックスを解消し、方言の継承や共通語との上手な使い分けにつながるとする。

 福井県郷土誌懇談会が岩田書院(東京)を通じて出版した書籍の第3弾。懇談会編集委員の学芸員や民俗学者ら6人が編集や助言をした。171ページ。1650円。勝木書店や福井県立図書館、福井県立若狭図書学習センターで取り扱っている。

 ◇かとう・かずお 1954年、福井県越前市出身。武生高校、福井大学卒。東京都立大学大学院修了。専門は日本語学、社会言語学。北陸3県を中心に方言のフィールド調査を続けてきた。金沢大学教授を経て2020年に同大を定年退官。石川県金沢市在住。

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