「熟練漁師」そばに オーシャンソリューションテクノロジー 操業日誌も自動作成 <長崎の新興企業 ②>

トリトンの矛を展開するオーシャンソリューションテクノロジーの水上さん=佐世保市三川内新町

 既存事業と異なる新分野に挑戦する「第二創業」のスタートアップもある。
 艦船などに搭載される航海・光学機械の保守整備を手がける佐世保航海測器社(佐世保市)の社長、水上陽介さん(42)は2017年、人工知能(AI)で漁業者を支援する新会社オーシャンソリューションテクノロジー(同市)を設立した。
 佐世保航海測器社は1950年創業。「事業は安定しているが、防衛分野に依存している。第二の柱を作っていかないといけない」。水上さんは3代目に就くタイミングでそう考えた。同じ頃、漁船の機材メンテナンスで取引先を訪ねると「若手漁師に引き継いだが、漁獲量が半減して困っている」と相談を受けた。
 「恩返し」をしようと、熟練漁業者のノウハウや経験を継承するサービスを2018年に開発、「トリトンの矛」と名付けた。手書きされた過去の操業日誌をデータ化。これを学習したAIが、出漁当日の潮流や水温などの衛星情報も反映させ、同様の条件下で熟練者が行った漁場を示す。「ベテランの分身がそばにいてアドバイスしてくれるような」(水上さん)機能だ。
 AIが過去の実績から漁獲が見込めるかどうか助言するため、効率よく出漁判断ができ、燃料などのコスト削減にもつながる。和歌山県の協力で実証実験し、1船団当たり年間約400万円の削減が見込める可能性を引き出した。
 水産庁が同年から漁獲可能量の制限など水産資源管理を強化し、漁業者は漁獲量の報告が義務化されて負担が増えた。漁協や自治体も報告書類作成の事務作業が煩雑となり、全国的に課題となった。
 そこで、水上さんは22年、「トリトンの矛」に、出港から帰港まで操作不要で航跡を自動記録し、電子操業日誌を自動作成できる機能を加えた。漁協のシステムと連携させ、いつ誰がどこでどんな魚をどれくらい取ったかも分かる。水上さんは「(新機能は)われわれの今最大の強み。これまでは正確なデータが残らず、水産資源減少の原因が乱獲か環境変化か分からなかった。評価や管理に役立つ情報を自動収集できるので、研究機関にも好評」と胸を張る。
 流通業者や消費者がQRコードで漁獲情報を確認できる機能も追加。産地証明で信頼性を高め、魚のブランド力を上げて漁業者の所得向上を図っている。水上さんは「資源だけじゃなくて、現場の人たちの生活も持続可能にしていかないといけない。水産業界の課題を包摂的なイノベーションで解決していきたい」と理想を描く。

 【企業プロフィル】 オーシャンソリューションテクノロジー 本社は佐世保市三川内新町の佐世保航海測器社の社屋内にある。「トリトンの矛」はギリシャ神話の海神ポセイドンが息子トリトンに引き継ぐ武器で「漁具の継承」という意味を込めた。従業員は14人。


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