拭えない違和感、スプリントレースの功罪/MotoGPの御意見番に聞く開幕戦ポルトガルGP

 3月24~26日、2023年シーズンが開幕して、MotoGP第1戦ポルトガルGPが行われました。今季からレースウイークのフォーマットが変更され、土曜日にスプリントレースが追加されたことに注目が集まりました。また、週末は5人のMotoGPライダーが怪我を負い、次戦は4人が欠場することが決まっているなど荒れたレースが展開されました。

 そんな2023年のMotoGPについて、最前線の現場で働いていた経験を持つ“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラムがスタートします。第1回目は、転倒が多かったことの違和感、スプリントや各メーカーの勢力図についてです。

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■拭えない違和感

さっそくですが開幕戦のポルトガルGPはどんな感想を持たれましたか?

 正直なところ、このコラムを始めるにあたって久しぶりにMotoGPのレースをP1から全部ライブで見たんだよね。ホントに久しぶりなんで驚くことばかりで、何からコメントしていいか迷うけど、ひとつ言えるのは「バイクってこんなに簡単に転ぶものなの!?」ってことだね(笑)

 ほとんどはフロントからのスリップダウンで、マシンもライダーも大きなダメージを負ってはいなかったけど、ポル・エスパルガロだけはハイサイド食らってかなり深刻なダメージを負ってしまった。こんなに転倒が多いとバイクそのもののイメージが悪くなりはしないかと心配だよ。そろそろ速く走ることだけを追求するのではなくて、先進技術を安全性の向上のために使って欲しいと思うね。

転倒が多いことに何か思い当たることはありますか?

 フロントからのスリップダウンについては、いともあっけなく転んでるからライダーも対処しようがないだろうね。タイヤなのか路面の状態なのか要因はいろいろ考えられるけど、このサーキットの特徴も関係あるかもしれない。僕の現役時代はポルトガルといえばエストリルだったから、このサーキットを実際に見たことは無いんだけど、コーナーのカント(横勾配)が少ないのとアップダウンがかなりあって、荷重が抜けやすいポイントがあるような印象だね。

 その他に荷重が抜ける要因としては、これは全くの独断と偏見なんだけど、ウイングレットなどの空力パーツの影響も無視できないのかなと思ってる。空力パーツを前提としたマシンのセットアップをしているはずだから、基本的にはそれが効いてくる中・高速域が重要視されるわけで、効果が低い領域ではその代償として何かネガがあるんじゃないかと。

 それに、集団で走ってる時の空力パーツが相互に与える影響ってちゃんと検証できてるのかも気になる。

 そもそも350km/hも出せる実車風洞ってなかなかないだろうから、最近の空力開発はコンピュータによる流体シミュレーションが主流だと思うんだけど、集団の中での相互作用をシミュレーションするにはスパコンレベルのパワーが要るんじゃないかと素人は思うわけ。

 そういうのをメーカーレベルでやるのはなかなか難しいから、ドルナがお金出して中立的な研究機関に研究委託するとかしたら良いと思うんだけどね。

2023MotoGP第1戦ポルトガルGP スプリントレース スタートシーン

■スプリントレースの功罪

ところで今シーズンから始まったスプリントレースをどう思います?

 まあ力が衰えたとはいえバレンティーノ・ロッシの存在は偉大だったから、その抜けた穴をレースそのものの魅力を向上して埋めようという気持ちは理解できる。今回マルク・マルケスが3位に入ったのには驚いたけど、結果的に速いライダーとマシンが勝ったのも事実。ただしファビオ・クアルタラロみたいに貰い事故でノーポイントってケースもあるわけで、チャンピオンシップがより混沌とする要因になるかもしれないね。

 早い周回でアグレッシブに前に出ようとするライダーが多いからクラッシュが多発する懸念は大いにあるし、それで本戦に影響が出たらまさに本末転倒だからライダーもスプリントの走り方ってのを学習していく必要がありそう。これがMotoGPの魅力向上につながるかどうかはもう少し様子見だね。個人的には過去のレースの盛り上がりは、力の拮抗したふたりのライバル関係を軸にしていたと思うんだよね。

ところで、本戦はやはり昨年チャンピオンのフランセスコ・バニャイア選手が強かったですよね

 スプリントレースでも危なげなく勝ったけど、昨年の後半から一皮むけたというか、速さ+安定感が出てきたのは事実。アプリリアのマーベリック・ビニャーレスにずっとプッシュされてたけど集中力を切らさず一度も隙を見せなかったし、今シーズンはこのまま突っ走るのかもしれないね。

 ただしドゥカティ一強だった勢力図も、アプリリアやKTMが本当に速くなってきたことで去年のようには行かないだろうから、バニャイアを軸にして実力の伯仲したライバルが、日替わりで鎬を削るみたいな構図ができるとレースは面白くなりそうだね。

ポルトガルのファンにアクシデントを謝罪するM.マルケス

マルク・マルケス選手は他の選手を巻き込んで転倒してしまいましたね……

 たしか昨シーズンも怪我から復帰した際に、スタートでアクシデントを起こしてふたりのライダーを巻き添えにしてたよね。そのひとりがチャンピオン争いをしているクアルタラロだったから良く覚えてる。(※2022年第15戦アラゴンGPの1周目にクラッシュ。クアルタラロと中上貴晶も怪我を負った)

 今回はスプリントレースで良い結果がでたので、本戦もと欲をかいたのかな。スタートから危なっかしい走りで、負けん気だけは強いルーキーみたいな振る舞いだったのでハラハラしてたけどやっぱりねって感じ。今彼に必要なのはフィジカルトレーニングじゃなくて、メンタルトレーニングじゃないかと思う。当然、次のレースには重いペナルティが科されるべきだし、このままにしていると彼のキャリアも傷つくし、MotoGPにとっても良いことはないだろうね。カルメロ・エスペレータ(ドルナのCEO)も頭を抱えているんじゃないかな。

最後に全体を振り返って一言お願いします

「どうした、日本メーカーがんばれよ!!」の一言に尽きるね。
このままだと、日本人としてはレースを見るモチベーションが湧かないね。

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