静岡県西部の山あいの町・浜松市天竜区水窪町では、お年寄りたちが日常の買い物でスマホをフル活用しています。この町で長く暮らしたい…。デジタルの活用は高齢者の生活を劇的に変えています。
<ビデオ通話で買い物>
「お惣菜のところでね、イワシのかば焼き」
「よく知ってるね」
「さっき見たから。それを4枚ください」
浜松市天竜区の水窪町門桁(かどげた)地区。彼女たちは3年ほど前から週に一度車庫に集まり、スマホのビデオ通話で買い物をしています。通話は水窪の商店街にある「スーパーまきうち」とつながっています。
<ビデオ通話で買い物>
「お魚はきょうは…ブリとかある?」
「ちょうどさっき切ったばっか!ほらブリ。天然ブリね」
「おいしそうだね」
浜松の中心市街地から車で約2時間かかる水窪町。スーパーは2軒。コンビニもありません。新鮮な食材が並ぶ「スーパーまきうち」は水窪のライフラインです。
門桁地区は水窪町の中心からさらに峠を越えて、車で40分ほどかかります。彼女たちは自分で車を運転するほか、週に2回だけ走るバスに乗ることで商店街まで行きます。
<門桁地区の女性>
「なかなかバスで行ってバスの時間まで、一応14時に向こう出るんだけど。お刺身買ってこれないじゃん。あちこち寄ったり用事足してくると」
「私らは慣れとるもんで、これを当たり前としてるもんで特別大変とは思わないけど」
彼女たちにとって買い物のための険しい道のりは、もはや普通のこと。しかし、安定した食料の確保は生きる上でもっとも大切です。
<NPO法人まちづくりネットワークWILL 平澤文江理事長>
「他人事で、ああ気の毒にねって言って素通りできるような状態ではないですよね」
解決を図ったのは同じ水窪出身の平澤文江さん。NPO法人まちづくりネットワークWILLの理事長です。2016年には門桁地区に向け、スーパーまきうちの商品を車に積み移動販売も行いました。しかし、売れ残りが出るため採算が合わず4年で断念。低コストで買い物難民を支援するため思いついたのが、スマホのビデオ通話でした。平澤さんは1年ほどかけ、門桁のお年寄りたちとスマホの勉強会をしました。
<NPO法人まちづくりネットワークWILL 平澤文江理事長>
「本当に店に行ってるのと一緒って」
<スーパーまきうち 牧内基さん>
「それ聞くとうれしいです」
<ビデオ通話>
「映ったよ」
「見える?映ってる?」
「映っている(笑)」
努力の甲斐あって週に一度、何の変哲もない車庫はスーパーまきうち・『門桁支店』に早変わり。
<利用者>
「リモートも結構面白い。自分で予定してなくても、他の人が買うと『あら、私も買う』って」
ビデオショッピングは店の協力があってこそです。
<スーパーまきうち 牧内基さん>
「あれが欲しいって言われても、あぁあれねって通じちゃうんで、そういうところは楽です。自分がやれる限りはサポートしていきたい」
通話が終わると「スーパーまきうち」のスタッフが商品を車に積み込み、WILLのスタッフにバトンタッチします。
<NPO法人まちづくりネットワークWILL 平澤裕一さん>
「純然たるボランティア。お金が出てくるところがないので。金銭的なことだけ考えれば、なかなかやめるとも言えないし。向こうの人たちが困ってるのは分かってるんで」
善意で成り立つ現状は今後の課題と言えます。
<利用者>
「来た、平澤さん来たよ」
商品が到着。会計を済ませます。
<買い物客>
「便利ですよね。食べたいものを買って食べられる」
「みんなの顔が見られるしね。それが楽しみもありますね」
スマホ支援で目指すのは、水窪の住民が過疎化が進む山あいのふるさとで目いっぱい暮らせること。
<NPO法人まちづくりネットワークWILL 平澤文江理事長>
「これからもできるだけ長くお付き合いしたいんですよね。長く住んでてほしいんですよ。気が済むまで水窪に住んでおれて良かったよって言ってくれる人が出れば、たぶん20年先30年先、私もそういうことが言えそうな気がするじゃん?」
過疎・高齢化が止まらない水窪町。デジタルを活用したより住みやすい町づくりで水窪の暮らしをつなぎます。