上場来高値から半値になったIPOラッシュの注目株…トリプルサプライズで株価はどう動いたのか

ここのところ株式市場では、IPOラッシュが続いております。IPOというのは、企業が初めて株式を一般公開して、株式市場で取引可能にすることで、IPO株は株価が上昇しやすいこともあり、個人投資家にとても人気です。ただし、熱しやすく冷めやすいこともあり、投資するタイミングはなかなか難しいものです。

わたしは、IPO直後は指をくわえて見ているだけで、IPO後、半年から1年経って株価が落ち着いたあたりで物色することにしています。IPO直後は、人気が加熱して連日ストップ高していたような銘柄が、ウソみたいにそっぽをむかれ放置されていることがあり、そんな銘柄にこそ投資妙味を感じたりするのです。


高値から半額以下まで落ちたANYCOLOR

2022年6月にグロース市場に上場したANYCOLOR(5032)は、2022年のIPO株の中でもとびきり注目度が高く、人気がありました。上場した2022年6月8日(水)はストップ高で値がつかず、翌日、公開価格1,530円に対して3倍以上の4,810円で初値がつきました。その後も勢いはおさまらず、上場7日目で8,820円と、公開価格の6倍近い株価まで駆け上がりました。

ANYCOLORは、VTuberグループ「にじさんじ」を運営しており、2017年の創立からたった5年で上場するほどの急成長企業です。

上場前の業績を見てみると、創立からの売上利益がえぐいほどに伸びています。グロース市場に上場する銘柄には、赤字企業も多いなか、しっかり利益を稼いでいるところも人気化した理由のひとつでしょう。

上場してからの決算発表の推移

2022年9月14日(水)に発表された2023年4月期第1四半期決算は①売上高5,930(百万円)、②営業利益2,122(百万円)。前年と比べられないので増減率は分かりませんが、営業利益率35.7%とかなりの高利益率企業だと分かります。

画像:ANYCOLOR「2023年4月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」より引用

ちなみに通期予想は③売上高19,000~21,000(百万円)、④営業利益5,510~6,510(百万円)とレンジで出しています。

画像:ANYCOLOR「2023年4月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」より引用

2022年12月15日(木)に発表された第2四半期決算は、①売上高11,973(百万円)、②営業利益4,310(百万円)、同時に通期予想を上方修正し、③売上高22,500(百万円)、④営業利益7,700(百万円)に引き上げました。

画像:ANYCOLOR「2023年4月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」より引用

画像:ANYCOLOR「2023年4月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」より引用

もともとの予想のレンジ上限より上振れているので、一見ポジティブサプライズに感じますが、第1四半期の5-7月で営業利益をざっくり20億円、第2四半期の8-10月でざっくり20億円と同じペースで利益を稼ぐとしたら、通期予想の営業利益は80億円と見込んでもおかしくありません。その数字を頭に描いていた投資家からすると、ちょっと物足りない印象です。

続いて直近3月15日(水)に発表された第3四半期決算は、①売上高19,4071(百万円)、②前年同期比91%、③営業利益7,509(百万円)、④前年同期比139.5%。

画像:ANYCOLOR「2023年4月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」より引用

そしてここで通期予想の2回目の上方修正を行いました。⑤売上高25,000(百万円)、⑥増減率11.1%、⑦営業利益9,200(百万円)、⑧増減率19.5%。

画像:ANYCOLOR「2023年4月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」より引用

Vtuberグループ「にじさんじ」と、海外Vtuberグループ「NIJISANJI EN」の業績が想定を上回る好調っぷりであることが修正の理由です。

5-7月、8-10月と営業利益20億円ちょっとだったところから、11-1月は約32億円と1.6倍に伸びています。第4四半期でも、30億円程度稼ぐなら、通期の営業利益予想は100億円としてもよさそうですが、業績賞与の支払いを見込んでいることより、92億円としているようです。

ついに東証プライム市場へ変更!?

第3四半期決算発表では、もうひとつおまけのお知らせがありました。2023年3月15日付で、東京証券取引所プライム市場への市場区分変更申請を行ったというもの。第2四半期の決算発表のタイミングで市場区分変更に対する準備を行なっているという旨のリリースを出していましたので、いずれ変更するとのは分かってはいましたが、グロース市場上場から1年未満での市場変更は素晴らしい!

プライム市場に変更するには、それなりの費用がかかりますし、開示内容の基準も厳しくなります。それでもプライム市場に変更するメリットは以下の3つが考えられます。

(1)外国投資家を含めた認知度の向上

東証プライム市場で戦う投資家の7割が外国人投資家と言われています。そのためプライム市場に上場することで、外国人投資家に対して認知度が高まることが期待できます。また、企業ブランディングの強化にもつながるでしょう。

(2)TOPIX指数への組み入れ

指数に組み入れられることで、NISA口座やiDeCo、また年金運用機関などの中長期的に安定した買い需要が見込まれます。長期保有されることで、株価の変動率が穏やかになり、緩やかに上昇することが期待できます。

(3)資金調達しやすくなる

プライム市場への昇格で信用度が高まり、金融機関から融資を受けやすくなります。また、増資をおこなった場合でも流動性があるため、株価の変動をカバーしやすいのも利点です。

半値まで下げた株価は上昇に転じるのか?

上場直後は好調だった株価ですが、2022年10月27日(木)に上場来高値13,790円をつけたのち、一気に急落。今年、2023年3月15日(水)には上場来安値3,930円まで下落しています。

そこから好決算、上方修正、市場変更というトリプルサプライズで、2日連続ストップ高。3月24日(金)現在では7,100円まで回復しました。とはいえ、上場来高値まではまだまだ遠く、このまま上昇トレンドを描いていけるのでしょうか?

ANYCOLORがふたたびスター株になるには?

営業利益が毎年2倍に伸びるほど業績好調のことから、Vtuber市場の成長がめざましいことは分かります。ただ、先日3月27日(月)、同じくVtuber事業を手がけるカバー(5253)がグロース市場に上場しました。

画像:カバー「東京証券取引所グロース市場への上場に伴う当社決算情報等のお知らせ」より引用

2023年3月期の予想は①売上高18,056(百万円)、②営業利益2,169(百万円)と、ANYCOLORの事業規模にはまだ及びませんが、今後、強力なライバルとなる可能性は否めません。市場が大きくなれば、ほか大手の参入なども考えられるため、同社がオセロゲームの角をとれるかどうかがキモになりそうです。

もうひとつ受給的な面から言えば、将来の売り圧力となる信用の買い残が積み上がっていることが気になります。2022年12月に大株主のロックアップ(180日間の売却禁止期間)が解除されたことによる需給悪化で、株価が大きく下落。その際にリバウンド目的で信用買いした投資家が多く、その後もずるずる株価は下げたため、評価損を抱えたまま耐えていると思われます。株価が上昇してくれば、評価損が小さくなってくるため、耐えていた投資家は”やれやれ”と売ってしまいがちです。それらの売りをこなしていければ、株価は上昇しやすくなるのではないでしょうか?


華やかなデビューからの転落。そして、そこから這い上がってくる真の王者となれるのか−−おもしろい展開になりそうです。

© 株式会社マネーフォワード