【九州4紙子育てアンケート】熊本大・倉田賀世教授に聞く

国民要求と隔たり/支援ニーズ 所得関係なく

 九州4紙の合同アンケートから、子育て世帯が今どんな支援を求めていて、国はどう対応すべきだと読み取れるのか。子育て支援に詳しい熊本大学法学部の倉田賀世教授(社会保障法)に分析してもらった。

 少し前まで子育て支援策としては、保育サービス充実などの「現物給付」の方が、金銭給付よりも有効であるとされていた。しかし今回は金銭給付を求める声が多い傾向にあった。
 一つにはここ数年、待機児童が減り、保育の需要が供給を大きく上回る状況が改善されてきたことがあるだろう。また、日本は相対的に金銭給付より現物給付への財政支出の割合が高い国だが、保育など現物給付は必要な世帯が限定的なのに対し、金銭給付にはより普遍的なニーズがあるという食い違いも影響したのだろう。
 ただ、金銭給付の場合は使途を制限できないため、各家庭で確実に子どものために支出されるとは限らないという難点もある。
 重視する政策としては「教育費支援」を望む声が突出していた。近年は幼児教育・保育の無償化や高校授業料に対する就学支援金の支給など、教育費用の軽減策が講じられてはいる。それでもニーズが高いのは、所得制限などから、これらの支援が「全て」の子育て世帯を対象としたものにはなっていないことがあると考えられる。
 例えば幼児教育・保育の無償化は、施設の種類や子どもの年齢によって有償世帯がある。義務教育の就学援助も、生活保護世帯などに限定されている。
 アンケート結果では、教育費支援のニーズは所得階層に関係なく高かった。子どもが複数いたり、進学時期が重なったりすると、世間一般では高額所得といえる家庭であっても負担感は重いといえる。
 子育て支援を所得再分配や貧困対策とは切り離すことだ。教育を「未来への投資」と捉え、私的な負担から社会的な負担へと転換する必要性は以前から指摘されている。転換には、投資によってどんな社会的な効用が期待できるのかを数値化し、国民に示して理解を得る過程が必要になる。
 「異次元の少子化対策」とは何かを尋ねる質問には、従来と全く異なる対応を求める声は少なく、むしろ既存の政策を前提に不足部分を充実してほしいとの声が多かったようだ。国に求められているのはこれまでの政策を確実な予算確保で拡充することだ。
 「異次元でなくていいんです」という声もあった。国が「異次元」という表現の下で現在検討している「産後パパ育休」の取得増などと、国民が実際に求めている支援策との間には隔たりがあるようだ。
 子育て支援はすぐに結果が出るものではない。中長期的なビジョンを示し、それを具体化するような政策を変わらず継続していく姿勢が必要だ。その意味で、子育て支援を「政争の具」や政権の一時的な人気取りには利用してほしくない。

 くらた・かよ 長野県出身。法学博士(北海道大学)。専門は社会保障法。熊本大学法学部准教授などを経て2016年から法学部教授。著書に「子育て支援の理念と方法-ドイツ法からの視点」。熊本市在住。53歳。

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