牛乳が余っているのに… 値段は上がる 赤字続く酪農家 “悪循環” との戦い

2015年3月が199円、ことし1月が232円と最も高くなっていて、およそ16パーセントも値上がりしています。これは、牛乳1リットルの価格推移です。

価格は上がっているのに、広島県内の酪農家は9割以上が赤字といわれる状況だといいます。その理由を取材しました。

牛乳の価格について、街で聞きました。

街の人たち
「値上がりしていますね、以前よりは」
「高いです。すごく上がったなと思います。安いのを少しでもと思ったりもしますし、量が減りますね」
「あまり飲まなくなるとたいへんだと牧場に行って聞いたので、消費は続けていく」

広島・安芸高田市 高宮町の田島牧場です。この牧場では乳牛を29頭飼っています。経営するのは、田島あゆみ さん。6年前まで農林水産省の牛乳・乳製品を扱う部門に所属していました。

酪農家 田島あゆみ さん
「農水省に入って、酪農家へ見学に行くことがあったんですけど、そのときにやっぱり楽しそうだったのと、牛がやっぱりかわいいと思ったのと、やはり牛乳って本当に生活に欠かせないものだと思うので、そういう生産に携わってみたいというので酪農を選びました」

今は夫と二人三脚で牛を育てています。酪農家の1日は、朝4時のエサやりと牛舎の掃除から始まります。牛の乳しぼりは早朝と夕方の2回です。夕方6時、子牛の世話をして、ようやく1日の仕事が終わります。休日もない酪農家ですが、今、田島さんをはじめ酪農家が窮地に陥っています。

田島あゆみ さん
「エサ代が去年の1月、130(万円)ぐらい。だんだん5月あたりに上がってきて、12月は一番高かったかもしれない」

去年12月には200万円を超えました。主な理由は、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響です。

三次市の広島県酪農業協同組合を訪ねました。こちらでは、酪農家にエサや資材などを提供しています。

広島県酪農業協同組合 温泉川寛明 組合長
「酪農家のみなさんに少しでも安い国産自給飼料を利用したエサを使った物を供給して、生産費を下げてくださいという努力をしている」

酪農家を苦しめているのは、エサ代の高騰のほか、もう1つあります。

2014年、バター不足となったときに原料となる生乳の生産量を増やすため、国が補助金を出しました。これに応えるかたちで酪農家は増産に踏み切ったのだといいます。

ところが2020年、新型コロナの影響で一斉休校となり、学校給食が止まります。牛乳の消費は落ち込みました。それでも牛は乳をしぼらないと病気になってしまうため、毎日、定期的にしぼる必要があります。県内のスーパーでも救済策として学校給食用の200ミリリットルの牛乳がずらりと並んだこともありました。

学校給食は再開したものの、生乳の供給過多は解消されず、バターなど日持ちする商品に加工してきましたが、限界が来ています。

広島県酪農業協同組合 温泉川寛明 組合長
「バター・脱脂粉乳も倉庫にいっぱい山積みになって、もうこれ以上はどうにもならん」

田島あゆみ さん
「牛乳が余る。バターが足りなくなる。作ったら、また余る。足りなくなるって、もう2~3回以上繰り返していて、余ったときに捨てるとか牛を淘汰する以外の輸出するなり、何か別の需給調整の政策を作ってからでないと。もう酪農家も闇雲に増産するのは、やっぱりリスクだなっていうのは思っています」

県酪農業協同組合によりますと、生乳を出荷する酪農家の戸数は年々、減少。25年前と比べると300戸近く減っています。

田島さんは、今の酪農家の混乱の打開策は、エサを国内で作ることではないかと話します。

田島あゆみ さん
「国内でエサを作っていかないと、いつ、またエサが高くなるかわからないですし、そのたびに苦しい、苦しいと言っていても、それこそ繰り返しなので、ゆくゆくは国産飼料や自給飼料というか、やっぱり、そういうのに輸入飼料から置き換えていかないと、やはり生き残れないなと思います」

もともと農林水産省で安定したキャリアを築いていた田島さん。窮地に陥った今、酪農家になったことに後悔はないか、聞いてみました。

田島あゆみ さん
「(後悔は)全然していないというか、やはり現場に来て、役人時代にできなかったこととか、見えていなかったこともありましたので。ピンチはチャンスとまで言ったらなんですけど、やはり、こういう危機を乗り越えた先はたぶん強い経営ができるような気もしているので、なんとか乗り越えていきたい」

酪農家の闘いは続きます。それを支える環境は整うのでしょうか…。

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