スーパーマンの先輩にしてド派手ヒーロー映画の元祖! カルトSF『フラッシュ・ゴードン』が4Kでスクリーンに帰ってくる

『フラッシュゴードン 4K 』© 1980 STUDIOCANAL

『フラッシュ・ゴードン』が4Kで復活

2023年3月31日(金)から公開される『フラッシュ・ゴードン 4K』。本作は1980年に公開されたSF冒険活劇映画『フラッシュ・ゴードン』を、昨今の流行である4Kバージョンで公開するものです。

この『フラッシュ・ゴードン』なる作品、『テッド』シリーズ(不良のクマのぬいぐるみが活躍するアダルト・コメディ)で主人公たちがリスペクトしていたり、あのQUEENが主題歌を手掛けたことでも有名。カルト映画としても人気です。僕は公開当時に劇場で観たのですが、その時の状況をご説明しましょう。

鳴り物入りで映像化されたスーパーマンの先輩

1977年に『スター・ウォーズ』が大ヒットし、世界的なSF映画ブームが起こります(日本公開は1978年)。そして同78年にはアメコミ映画超大作『スーパーマン』が公開(日本公開は1979年)。SF映画やアメコミについての情報が日本にどっとやってくる時期でもありました。

次々と新作SF映画の製作発表が行われ、様々なメディアを通じて新作が紹介されます。そうした中、ついにあのフラッシュ・ゴードンが映画化されるとのニュースが。当時SF少年だった僕は歓喜しました。

なぜ僕がフラッシュ・ゴードンを知っていたのか? このフラッシュ・ゴードンというのは、1934年にアメリカの新聞漫画としてデビューしました。地球人の若者でポロの選手のフラッシュ・ゴードンが惑星モンゴに旅立ち、そこで残酷な皇帝ミンと戦うというストーリー。アレックス・レイモンドという素晴らしいアーティストが、ファンタスティックなモンゴの世界やフラッシュの優雅かつカッコいいシーンを描いています。コミックというより素敵な絵物語といった感じです。

スーパーマンがコミック誌でデビューするのが1938年ですから、アメコミ・ヒーローとしては先輩になります。1936年に連続活劇として映画化されます(日本でも公開され、『超人対火星人』というタイトルだったそうです)。そして、この映画版が50年代にはアメリカのTVで放送されるようになる。それを食い入るように観ていたのが少年時代のジョージ・ルーカスだったのです。

そしてルーカスは、いつかフラッシュ・ゴードンを作りたいと思うようになる。その願いが形になったのが『スター・ウォーズ』でした。だから多くのメディアが『スター・ウォーズ』について語る時、そのルーツは『フラッシュ・ゴードン』にある、みたいに教えてくれたわけです。『スター・ウォーズ』と『スーパーマン』に魅せられ、当時のSF本を読みまくっていた僕が、フラッシュ・ゴードンという存在を知るのは当然の流れなんですね。

チープな『スター・ウォーズ』✕『スーパーマン』?

1980年版は、やはり映画『スター・ウォーズ』『スーパーマン』の大ヒットがあったから製作されたと思うのですが、安直な便乗企画かというと、そうでもない。本作のプロデューサーであるディノ・デ・ラウレンティスは、かなり前からフラッシュ・ゴードンの映画化権を押さえていました。従って『スター・ウォーズ』のヒットがなくても、いつかフラッシュ・ゴードンの映画を作っていたと思います。

興味深いのは、このラウレンティスがフラッシュ・ゴードンの映画化権を持っていたため、ジョージ・ルーカスは自身でフラッシュの映画を作ることが出来なかったこと。それで完全オリジナルの『スター・ウォーズ』に着手したわけです。昔の『フラッシュ・ゴードン』映画が『スター・ウォーズ』を生み、その『スター・ウォーズ』が80年の『フラッシュ・ゴードン』を後押しします。――なんという巡りあわせでしょうか!?

というわけで満を持してのフラッシュ・ゴードン登場です! のハズだったのですが、正直、当時映画館で観た時はちょっと唖然としてしまいました。要は『スター・ウォーズ』×『スーパーマン』的なすごい映画を期待したのに見事に裏切られた(笑)。要は“ちゃちい”んですね。『スター・ウォーズ』『スーパーマン』がきちんと真面目にヒーロー神話を描いているのに対し、軽いというか。

そもそもフラッシュの設定をポロ選手からアメフト選手に変え、宇宙でアメフトさせるし、ウェディング・マーチがかかったりする。ただしコメディではないんです。登場人物たちは大マジメにこういうことをやっている。

そして、この世界観がとにかくけばけばしくて、派手派手! ただ一周回って、これは「あり」だと思うようになりました。『スター・ウォーズ』『スーパーマン』と差別化を図るのであれば、この方法しかないのだろうと。例えるなら、60年代の『バットマン』のTVドラマ・シリーズのようなアプローチなのです。いわゆる“キャンプ(Camp)”に作ってあるんですね。

キャンプとは「不自然なまでに誇張されていて、派手で人工的な振る舞いやファッション/わざとらしく大仰で、俗っぽさを意識した芸術的表現」のこと。まさに“キャンプ”なヒーロー活劇としてフラッシュは蘇ったのです。この映画がカルト映画化したのは、まさにそういう要素があったからでしょうし、そのテイストはタイカ・ワイティティの『マイティ・ソー バトルロイヤル』にも受け継がれています。

『アバター』との意外な共通点

とにかく、このノリや世界観を楽しむつもりで臨むと、本当に面白い映画です。ところでこの映画を観ていくと、ある映画に筋が似ていることに気づきます。それは意外や意外『アバター』なんですね。

『アバター』も地球から来た男が、遠い星の異世界の中で活躍するお話ですよね。それもそのハズ。そもそもこのフラッシュ・ゴードンは、アメリカ人の男が火星で冒険する「火星のプリンセス」というSF冒険小説にインスパイアされて生まれました。『アバター』も「火星のプリンセス」から着想を得たそうです(同作は『ジョン・カーター』というタイトルで映画化されています)。同じ小説から派生したのですから、似ていて当然ですね。

映画『フラッシュ・ゴードン』のハイライトは、翼を持ったホークマン軍団とミン皇帝の空中軍艦との大バトルです。ここは『スター・ウォーズ』のドッグ・ファイトの興奮と、『スーパーマン』の空飛ぶ人間の楽しさが見事に融合した見せ場です。先ほど、この映画は“けばけばしい”と書きましたが、だからこそ4Kの美しい映像がスクリーンに映えます。

また、忘れてはならないのがオープニング。QUEENによるテーマ曲と、アレックス・レイモンドのアートを絡めた冒頭シーンは、ヒーロー映画史に残るカッコよさです(正直ここだけで気分があがる)。

というわけで伝説のフラッシュ・ゴードン、これを機会にぜひ体験してみてください。劇場を出る時、絶対に「フラッシュ! アーア~♪」とテーマ曲を口ずさんでしまいますよ。

文:杉山すぴ豊

『フラッシュ・ゴードン 4K』は2023年3月31日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか公開

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