東証が問題視する【PBR1倍割れ企業】に動き、背後にいる「物言う株主」の狙いとは

3月27日(月)、岡三証券(8609)がストップ高まで買われました。理由は、同社が3月24日(金)に発表した、新中期経営計画と新たな株主還元策を好感したものです。

内容は、新たな株主還元策として来期から28年3月期までの中期経営計画期間中に、PBR(株価純資産倍率)が1.0倍を超えるまで、年間10億円以上の自己株式取得を実施する事、及び今期末における記念配当の実施でした。

ここで注目されるのが、「PBR1.0倍を超えるまで」という文言の記載です。


東証のメスが入った「PBR1倍割れ企業」

2023年1月、東証は「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」の中で、上場企業に資本コストや株価への意識改革を促す目的として、継続的にPBR1.0倍が割れている企業には、開示を強く要請するとしました。また、実施時期を2023年春と明記し、早期の開示を求めた格好となっています。

東証の要請に対し、先駆けて岡三証券が開示したように感じます。PBRとは、当該企業について市場が評価した時価総額が、会計上の解散価値である純資産(株主資本)の何倍であるかを表す指標であり、株価を一株当たり純資産(BPS)で割ることで算出できます。

東証が2022年12月に公表した資料によると、プライム市場の50%(922社)、スタンダード市場の64%(934社)がPBR1.0倍割れ、主要株価指数の構成企業のうちPBR1.0倍割れの企業の割合は、米国(S&P 500)が5%、欧州(STOXX600)が24%に対して、日本(TOPIX500)は43%と非常に高い状況です。こうした状況の是正に東証が乗り出した形です。

2023年1月後半から3月上旬まではこの東証の改革を好感し、外国人投資家は日本株を約3兆円買い越しました。しかし、米国のシリコンバレー銀行の破綻を契機に、PBRの低い銀行株などを中心に売りが広がり、3月第3週目に海外投資家は約2兆3,000億円売り越しとなりました。

しかし今後、岡三証券のようにPBR1.0倍割れの企業が株主還元策を発表する事で株価上昇も期待されそうです。4月、5月の決算発表と同時に公表する企業も出てきそうです。

活発化する「物言う株主」

また昨年、2022年からアクティビスト(物言う株主)の動きも活発化しています。

日本に参入しているアクティビストの数は2022年末に68となり、2014年の8から約8倍となっています。また、2022年のアクティビストによる日本企業への株主提案件数も、58件と過去最高を記録しました。2014年は4件でしたので、14倍となっています。

アクティビストが大株主に登場した企業の、中期経営計画の発表も目立ちます。

コスモエネルギーHD(5021)は、村上世彰氏が関わる投資会社のシティインデックスイレブンスが大株主です。2023年2月、再生可能エネルギー事業についての説明が不十分であることを指摘し、同時にPBR1.0倍以上を求めました。この提案を受け、同社は在庫影響を除いた純利益に対する3ヵ年累計の総還元性向を60%以上とする他、年間配当について200円を下限とする方針を打ち出しました。

東洋建設(1890)は、大株主の任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)から、自らが推す取締役候補の選任を求める旨の株主提案する方針を明らかにしました。6月に開催される株主総会前に、東洋建設は5ヵ年計画を公表しました。2028年3月期の連結営業利益目標を150億円以上(2023年3月期予想は80億円)。配当性向倍以上と発表しました。

大日本印刷(7912)は、2023年1月にエリオット・マネジメントが大株主として登場しました。同社は2023年3月上旬に3年間の新中期経営計画の骨子を公表し、資本効率の向上に向けて、3,000億円程度の自己株取得を最大5年かけて実施するとしました。

今後もアクティビストが大株主に登場している企業が、中期経営計画などで株主還元策を発表する可能性が高いように感じます。最後に、主なアクティビストの保有銘柄を紹介します。

・シティインデックスイレブンス
アルプスアルパイン(6770)、ホシデン(6804)、東亜建設工業(1885)、三井住友建設(1821)、コスモエネルギーHD(5021)、大豊建設(1822)など

・エフィッシモ・キャピタル・マネジメント
川崎汽船(9107)、タムロン(7740)、関東電化工業(4047)、UACJ(5741)、富士紡HD(3104)など

・オアシス
北越(3865)、内田洋行(8057)、ツルハ(3319)、デジタルガレージ(4819)、フジテック(6406)、サン電子(6736)、サンケン電気(6707)など

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