<社説>こども家庭庁発足 大局的な少子化対策示せ

 こども家庭庁が発足した。首相直属の内閣府の外局として、省庁に横串を通す形でこれまで対策が不十分だった問題に対応する。「こどもまんなか」社会の実現を理念とする「こども基本法」も同時に施行された。 岸田文雄首相が掲げる「次元の異なる少子化対策」の司令塔ともされる。しかし、少子化対策は小手先の対応では不十分だ。直面する課題の解決を急ぎつつ、大局的、長期的に考えるべきである。

 こども家庭庁は、重要政策を定める長官官房と、保育や妊娠・出産の支援、子どもの居場所づくりを担う「成育局」、虐待防止、子どもの貧困、日常的に家族の世話や家事をする「ヤングケアラー」などの課題に対応する「支援局」の2局からなる。

 2021年に、当時の菅義偉首相に自民党議員有志が提言したことから議論が始まった。厚生労働省の子育て関係部局と教育分野を担う文部科学省を統合する案もあったが、文科省の抵抗で大きな組織統合は見送られた。結局、内閣府と厚労省の一部を統合し、担当大臣が他官庁に勧告する権限を持つというところに落ち着いた。

 名称は「こども庁」だったが、自民党の保守派が「子どもの育ちは家庭を基盤にしている」と強硬に主張して「こども家庭庁」になった。公明党や立憲民主党が主張した、子どもの相談を受ける第三者機関「子どもコミッショナー」の設置は、自民党内で「子どもの権利が強調されすぎる」などの意見が出て、採用されなかった。

 こども基本法は、1989年に国連で採択され、日本が94年に批准した「子どもの権利条約」を踏まえている。同条約は「生命、生存および発達に対する権利」「子どもの最善の利益」「子どもの意見の尊重(意見表明権)」「差別の禁止」の4原則を掲げる。日本は取り組みが不十分だとして国連から勧告を受けてきた。基本法施行に向けて子どもの意見を聞く取り組みも始まっている。権利条約履行への第一歩になりそうだ。

 こども家庭庁では、性犯罪防止や、保育園などに通っていない「無園児」の対策にも力を入れる。省庁や自治体とのデータ連携もうたうが、個人情報の扱われ方に懸念が残る。検証しながら見直していく必要がある。世界で70カ国以上、国内で約40自治体が設置している「子どもコミッショナー」も導入すべきだ。

 たたき台が示された「次元の異なる少子化対策」は、財源もさることながら、根本的な少子化対策とは言いがたい。一番の問題は、若い世代が、経済的事情で結婚できない、子どもを持てないということだ。非正規雇用の多さ、賃金の低さ、高等教育費の負担が背景にある。

 少子化対策は、25年以上先を見据えて、経済政策、社会政策を根本から見直すものでなければならない。

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