「動物虐待は“少年”の犯罪」先入観の危うさとは? 犯罪プロファイリングで見えるリアルな“犯人像”

埼玉県戸田市で3月に発生した、17歳の少年が刃物を持って中学校に侵入し男性教員を切り付けた事件で、少年の精神状態や身体に関する鑑定を行う鑑定留置が始まった。報道によれば、少年は調べに対して「誰でもいいから人を殺したかった」と容疑を認めているほか、2月に戸田市に隣接するさいたま市で相次いで猫の死骸が見つかった事件についても関与をほのめかしているという。

かつて世間の関心を集めた“サカキバラ事件”(神戸連続児童殺傷事件)や、佐世保女子高生殺害事件でも犯人は犯行以前に猫を虐殺していたことがわかっており、今回の事件でも、その発生前の2月頃から、現場付近で猫の死骸が見つかる事件が報道され、「サカキバラ事件の模倣か?」「嫌な事件が起きなければいいけど…」 とSNSを中心に不安の声が上がっていた。幸いにも人命が奪われることはなかったが、動物虐待がエスカレートした末の事件のように感じた人も多かったのではないか。今回の事件に限らず、実際に動物虐待と対人暴力はどのような関連があるのだろうか。

“動物虐待”があったら犯人は殺人をするか?

富山県警でプロファイリングを担当していた経歴を持つ、目白大学准教授の財津亘氏(犯罪心理学)によれば、「動物から人へと加害がエスカレートする犯罪者が多いのではないか」という仮説は海外で「Graduation Hypothesis(卒業仮説)」と呼ばれているという。ただ、財津氏はこの仮説について次のように話す。

「今回の事件で、また卒業仮説の見方が強まってしまうと思うのですが、殺人犯を調べたら過去に動物虐待が見られたからといって、動物虐待があったら犯人が殺人をするかというと、ロジックが逆です。たとえば、多くの人はインフルエンザになると高熱が出ますが、だからといって高熱が出たらインフルエンザかと言われると、それは違いますよね。

この種の主張は1970年代のFBIによる研究などから端を発しているのですが、それはすべて殺人犯を調べたものです。本当であれば動物虐待をしている人の追跡調査をしないとならないのですが、現在までにそのような研究はほとんどありません」(財津氏)

卒業仮説には、自分の考えや仮説に合う情報を無意識に集めてしまう「認知バイアス」が働いているという。とはいえ、動物虐待と対人暴力が無関係というわけではない。

「『LINK』という考え方で、欧米では動物虐待と児童虐待とDV、この三つは密接に関係すると言われています。動物虐待が起きた場合、犯人が“エスカレートして人を襲う”可能性もありますが、周辺で虐待を受けている子どもがいるとか、DVの家庭があるという“潜在的に犯罪が行われている”可能性を考えなければならないと言われています」(財津氏)

動物虐待をするのは“成人”が多い

今回の事件や“サカキバラ事件”から、動物虐待は少年が行っているというイメージを持っている人は多いのではないだろうか。しかし財津氏は県警時代、ポリグラフ検査などの現場にいながら「成人が多い」との印象を持ち「実際にデータを集めてみたら、やはり成人の方が多かった」という。

財津氏が2018年までに行った調査(※)から、動物を殺害した虐待犯には成人、特に30~40代の男性が多いことが明らかになった。財津氏によれば、成人の場合、仕事などのストレス発散として動物虐待を行っていた例が多かったと話す。

(※)「動物殺害犯罪における犯人像の分析」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/82/0/82_1AM-047/_pdf)

発達的な問題に“適切な対応”をしないリスク

未成年が起こす動物虐待について、財津氏は海外の研究をもとに次のように説明する。

「海外の研究では、未成年の動物虐待犯は大きく2パターンに分けられています。ひとつが非行型。『非行少年が複数人で虐待するケース』です。そして、もうひとつが『心理的・発達的 な問題などを抱えて単独で犯行に及ぶケース』です」

障害のひとつである「素行症」の特徴には、人の物を盗む、火遊びをする、器物損壊などの「犯罪に関連するような問題行動」があり、そのひとつに動物虐待も含まれる。

「たとえば、ADHDの特徴として多動や衝動性がありますが、教師が机に無理やり座らせたり、大声で叱責したり、また周囲の理解がなくいじめを受けたりする「二次障害」がきっかけで素行症に進んでいくということがあります。

今回の事件について、詳しいことはわかりませんが、周囲の大人がしかるべき機関に相談したり、少年をカウンセラーなどにつなげるなど適切な対応ができていれば違っていたかもしれないですね」(財津氏)

日本で動物虐待が「研究されない」理由

日本では現在、動物虐待に関する研究がほとんど行われていない。諸外国でも、児童虐待と比べれば研究はかなり少ないという。その要因について財津氏は次のように語った。

「動物虐待は野良猫などに対してだけではなく、家庭内でも児童虐待と同じく起きています。ただ、動物は被害を訴えられないため、被害の認知がしにくいというところが非常に大きな要因だと思います。

そして、日本では動物虐待が犯罪であるという意識が一般的に低いことも要因のひとつかもしれません。児童虐待というと重く受け止められますが、動物虐待はまだ社会的にそこまで認知されてないのではないでしょうか。今回のような事件が起きて『人に被害が及ぶかも』という恐れから注目する人が多いのが実情です。動物虐待そのものが反社会的な行動であり、『犯罪』『事件』だということがきちんと認識されて広まってほしいと思います」

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