茨城・鉾田の74歳 井川さん 病に屈せず高校卒業 水戸南通信制成績トップ 「夢かなえられた」

卒業証書と皆勤の表彰状を手にする井川恒男さん=鉾田市内

茨城県鉾田市大和田の井川恒男さんが、74歳で県立水戸南高通信制普通科を今春卒業した。在学した4年間、悪性リンパ腫など、さまざまな病気に見舞われながらも、勉学への意欲は衰えることなく、月1、2回登校する面接指導に全て出席。トップの成績を収めた。井川さんは「心の奥に思い続けていた『高校卒業』の夢をかなえられた」と喜びをかみしめている。

「70歳を過ぎてこんなに病気になるとは思わなかった」。入学から3年目、高校生活を謳歌(おうか)する井川さんを、次々と病魔が襲った。右網膜の血管に脂肪が詰まる疾病に始まり、濾胞性(ろほうせい)リンパ腫や肩の良性腫瘍摘出、前立腺と膀胱(ぼうこう)のがん疑いなどで、卒業までに7度も入退院を繰り返した。

それでも、学ぶことを諦めなかった。体調を考慮しながら課題レポートの作成に取り組み、検査日や入院日を調整して面接指導は一度も欠席しなかった。「遅れを取り戻すのは大変だったが、頑張りが結果として出るのが楽しかった」と病に屈せず、ほとんどの教科でトップの成績を取った。

教員だった両親の影響で、小さい頃から勉強が好きで「小学校の成績はオール5だった」。ただ、同級生から「神様」などと優等生ぶりをからかわれ、次第に机に向かわなくなった。

鉾田北中を卒業後、本当は高校に進学したかったが、両親に「勉強嫌い」と誤解されたことや家庭の事情もあり、都内の天ぷら店に就職。働きながらラジオの高校講座を受けようと準備を進めるも、午前9時から午後10時半までの長時間勤務では、断念せざるを得なかった。

その後、飲食業を中心に、都内や茨城県内でさまざまな仕事に従事する中でも「いつかは高校に行きたい」との思いは消えなかった。最後に勤めた郵便局を定年退職後、井川さんの思いを知る長男(45)から通信制高校への入学を勧められ、入学を決意した。

今年3月19日の卒業式では、長年の夢を支えてくれた妻のたか子さん(70)や息子家族が見守る中、生徒を代表して「感謝の言葉」を読み上げた。関わった人たちへの感謝とともに、若い同級生や後輩たちに向け、学ぶことの楽しさを伝えた。

病の治療に専念するため大学への進学はしないという。「生まれ変わったら大学に行きたい」と、晴れやかな表情で語った。

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