3冠男ダニエル・セラがオープニング制覇で首位発進。トヨタのチアゴ・カミーロも勝利/SCB開幕戦

 今季がシリーズ創設45周年の記念すべき年となったブラジル最大の“ティントップ”選手権、2023年SCBストックカー・ブラジル“プロシリーズ”が3月31〜4月2日にゴイアニアで開幕を迎えた。

 導入された新要素により、予選こそ“伏兵”ブルーノ・バプティスタ(RCMモータースポーツ/トヨタ・カローラ)が通算3度目のポールポジションを奪ったものの、決勝では実力者たちが躍進。レース1はシリーズ3連覇を記録する盟主ダニエル・セラ(ユーロファーマRC/シボレー・クルーズ)がオープニングヒートを制圧し、続くレース2は直前のオートバイ事故で親類を亡くしたチアゴ・カミーロ(イピランガ・レーシング/トヨタ・カローラ)が、元ドライバーの叔父に捧げる涙の勝利を飾っている。

 2020年より南米大陸が誇るストック・シリーズに参入したTOYOTA GAZOO Racingブラジルと、シボレー・クルーズ勢による対決構図となっているSCBは、今季よりハンコックとの契約を発表し、新たなワンメイクタイヤを採用。併せて「より大きなダウンフォース獲得を狙った」新型リヤウイングも導入され、グリッド上のパワーバランスも仕切り直しの可能性が高まった。

 その探り合いとして金曜に実施された2回のフリープラクティスでは、同国を代表する元F1ドライバーら豪華ドライバー陣によるレベルの高さを象徴するように、午前は27名が、午後は22名が秒差圏内にひしめく超接近戦となり、今季も年間を通じて緊迫のシナリオを予感させた。

 ここで午前のトップタイムを刻んだのは、セラの僚友で自身も“3冠”を記録するリカルド・マウリシオ(ユーロファーマRC/シボレー・クルーズ)で、クルマは「FP1からバランスが取れていて、とても安定している」と、幅が従来の660から680mmに拡幅された新たなタイヤにもポジティブな手応えを得た。

 一方、3月中旬のオートバイ事故で叔父のセルジオを亡くしたカミーロは、自身のNo.21を叔父が現役中に使用していたNo.16に変更して週末を戦うことを決め、さっそく午後のセッションで最速のドライバーとなった。「セット全体とチームワークから得たメリットは大きかった。新要素の機能についてはまだ学習中だが、理想にかなり近いパッケージにできた」と、シリーズ最多勝タイの通算37勝を誇るカミーロ。

「ベースセットが今季に向け非常にうまく構築されており、それが重要だった。(僚友の)セザール(・ラモス)とも理解と信頼関係の非常に良い連携が取れている」と、ダウンフォースを得るためドライバー全員から要望が挙がっていた幅100mm増、翼弦14mm増の新型リヤウイングの効果も気に入ったことを明かした。

 迎えた土曜には全31台が今季最初の予選に挑むと、Q1では上位18台が0.5秒差にひしめく大混戦に。その煽りを喰ったのがディフェンディングチャンピオンのルーベンス・バリチェロ(フルタイムスポーツ/トヨタ・カローラ)で、ここ“アウトドローモ・インテルナシオナル・アイルトン・セナ”で無類の強さを誇る『ゴイアニア・キング』は、まさかの22番手で早々の敗退となってしまう。

 その雪辱に燃えたのは同じトヨタ陣営に所属する26歳のバプティスタで、Q2も制した勢いそのままに、続くQ3でマウリシオをわずか0.062秒差で破っての今季初ポールを獲得した。

「とくにタイヤの変更に対処するのは挑戦であり、セッティングは昨季とまったく異なる。でも僕らは予選に向け『完璧なヒット』を生み出すことができた。でも決勝はレースペースとライフ管理という、まったく別の未知なるゲームになるだろう」と語ったバプティスタ。

今季よりハンコックタイヤを採用。併せて新型リヤウイングも導入されるなか、予選では“伏兵”ブルーノ・バプティスタ(RCMモータースポーツ/トヨタ・カローラ)が通算3度目のポールポジションを奪った
「決勝はレースペースとライフ管理という、まったく別の未知なるゲームになるだろう」と語っていたバプティスタ
その予言どおりレース1はシリーズ3連覇を記録する盟主ダニエル・セラ(ユーロファーマRC/シボレー・クルーズ)が制した
3位にバプティスタを従え、僚友リカルド・ゾンタ(RCMモータースポーツ/トヨタ・カローラ)が2位に入った

■レース2優勝のカミーロに現地ファンから大合唱が贈られる

 明けた日曜の現地11時40分に開始された30分+1ラップ勝負は、そのポールシッターの予言どおりにまったく別の展開を見せ、グリッド上で5番手から出た“スリー・タイムス・チャンピオン”ことセラが老練な技術を披露。戦略とピットでの優れた作業を組み合わせたWEC世界耐久選手権レギュラーは、義務ストップウインドウの後にリードを奪い、バプティスタの僚友リカルド・ゾンタ(RCMモータースポーツ/トヨタ・カローラ)を2位に従え、ゴイアニア4勝目、キャリア通算22勝目を飾った。

「そのポジションから勝てるとは思ってもいなかった。5番手から1位なんて本当に難しいことだからね。でもマシンのフィーリングはとても良かったし、エンジニアは僕の要求を隅々まで把握し理解している。チームはピットストップでもセンセーショナルな仕事をしたし、これらすべてがチームの能力を示している」と、盤石の開幕勝利を収め満足げなセラ。

 続いて午後に開始されたリバースグリッドのレース2では、一転してTGRブラジル陣営が攻勢を掛け、こちらも5番手発進となったカミーロが躍動。さらに14番手スタートのバリチェロも失地挽回の勢いを見せ、わずか6周で6番手にまで浮上してくる。

 午前の再現とばかりに義務ピット一巡で首位を奪ったカミーロは、序盤の接触で幅広リヤウイングにダメージを負いながらも食い下がった、FP1最速マウリシオを振り切りトップチェッカー。3位にはバリチェロが続いたものの、レース後の審議で2021年王者ガブリエル・カサグランデ(A.マティス・フォーゲル/シボレー・クルーズ)との序盤のアクシデントで5秒加算となり、惜しくも6位降格となった。

 フィニッシュライン通過直後にマシンを停め、スタンドの観衆を前に跪いて喜びを表現した勝者に対し、事情を知るファンからは「カミーロ」の大合唱が贈られることに。この瞬間、現役ドライバー史上最多の通算38勝とし、カカ・ブエノ(KTFスポーツ/シボレー・クルーズ)の記録を更新するとともに、その“帝王”ブエノもキャリア通算333回目と334回目のレース出走を果たし、伝説のインゴ・ホフマンを上回る歴代最多出走ドライバーとなった。

「僕がモータースポーツに携わっていられるのは、最初から支えてくれたサポーターである父と叔父のおかげだ。彼らがいなかったら、僕もここにいなかった。開幕まで1週間でその叔父を亡くした事実は、僕を本当に傷つけた。取り返しのつかない損失なんだ。だからこそ今日は、僕の人生で最もエキサイティングなレースであり、最も象徴的な勝利であり、だからこそ史上最多勝記録を作れたんだと思う」と、振り絞るように語ったカミーロ。

 週末の結果で、レース2でも8位を記録したセラが43ポイントで首位発進を決めた2023年のSCBストックカー・ブラジル“プロシリーズ”は、約3週間後の4月21〜23日にインテルラゴス、ホセ-カルロス・パーチェで第2戦が争われる。

午後に開始されたリバースグリッドのレース2では、一転してTGRブラジル陣営が攻勢を掛ける
セラの僚友で自身も“3冠”を記録するリカルド・マウリシオ(ユーロファーマRC/シボレー・クルーズ)はレース2で2位に
愛息“ドゥドゥ”を僚友に迎え、ディフェンディングチャンピオンとして挑んだルーベンス・バリチェロ(フルタイムスポーツ/トヨタ・カローラ)はペナルティに泣く
「今日は、僕の人生で最もエキサイティングなレースであり、最も象徴的な勝利であり、だからこそ史上最多勝記録を作れたんだと思う」とレース2勝者チアゴ・カミーロ(イピランガ・レーシング/トヨタ・カローラ)

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