【酒井一馬さん(セレクトショップ id / オーナー)】長岡からファッションの潮流を発信

酒井一馬さん(セレクトショップ id / オーナー)

プロフィール
酒井 一馬(さかい かずま):長岡市出身。アイロンプレス業を営む家庭で育つ。高校生の時にファッションにハマり、卒業後は東京の文化服装学院へ進学する。在学中に“裏原宿(裏原)エリア”の名店「NOWHERE(ノーウェア)」に入社し、アパレル業界へ。約7年間勤務した後、中越地震と中越沖地震をきっかけに長岡市へUターン。2016年、長岡市内に「セレクトショップ id」をオープンする。

ガタチラスタッフ:『新潟人144人目は、「セレクトショップ id」オーナーの酒井一馬さんです!酒井さんがファッションにハマったきっかけや憧れの存在、お店へのこだわりなどをたくさんお聞きしました。素敵な笑顔で取材に応じてくださり、ありがとうございました!』


ファッションにハマった高校時代

──ご実家ではアイロンプレス業を営まれているんですね!

酒井さん:そうなんです。中越地域は縫製の産地でもあるんですよ。実家は祖父の代からアイロンプレス業を営んでいて、幼い頃から洋服に囲まれた環境で育ちました。代表的なコレクションブランドの製品を実家でプレスすることもあったので、パリコレに出展するような最先端のファッションに触れる機会も多く、とても刺激的でしたね。

──ファッションにハマったきっかけは何だったのですか?

酒井さん:高校生の時、ヴィンテージブームだったんです。当時はまだ現行でアメリカ生産の洋服やスニーカーがあったり、アメリカ製の古着も楽に手に入る時代だったので、欧米のファッション文化に興味を持つようになり、洋服の面白さに目覚めました。自分に似合うデザインの服を一生懸命探していましたね。

──高校時代はとことんファッションに染まっていたのですね!

酒井さん:私服の高校に通いたくて進学先を選んでいました(笑)。そこで洋服好きの友達と出会えたのも今に繋がっていますし、友達とファッションの話をする楽しさを知りましたね。高校生の頃は「ムーンライトえちご」という夜行快速列車に乗って東京へ行き、ショッピングを楽しんでいました。懐かしいですね(笑)。

──高校卒業後はもちろんファッションの分野に?

酒井さん:雑誌「asayan」が大好きで、「UNDERCOVER(アンダーカバー)」のジョニオ(高橋盾)さん「A BATHING APE(アベイジングエイプ)」のNIGO®さんに憧れ、お二人が卒業した文化服装学院への進学を目指すようになりました。名立たるファッションデザイナーのほとんどが文化服装学院卒だったので、“ファッションの東大”というイメージでしたね。

──大いに刺激を受けられたのですね。

酒井さん:憧れの気持ちが強かったですね。文化服装学院でファッションの勉強をしながら、憧れのお二人がオープンしたショップ「NOWHERE」で働きたいという一心でした。そのお店は求人募集が滅多に出ないお店で、たまたま求人が出た時に応募したのですが、1名の募集に何十人も応募するという狭き門でした。

──結果はどうだったのですか…?

酒井さん:ご縁をいただき、採用をいただいたのですが、卒業まで4ヵ月というタイミングだったので、卒業前に中退するか悩みました。両親にも反対されたのですが、どうしても「NOWHERE」で働きたかったので、NIGOさんから了承を得て卒業までは学生との二足のわらじをはくこととなりました。

──そこで働きたいという想いが強かったのですね。

酒井さん:「NOWHERE」は国内外のトップアーティストが多く訪れるお店なのですが、どんなに有名人が来店しても、一般客と分け隔てなく対応するんです。スタッフである僕らも、そういう接客を教わりました。ショップでの経験は、大人になってからの人格形成に大きな影響を受けたと思います。相手が誰であれ、態度を変えることなくフラットな姿勢であること自分が平常心でいるメンタルコントロールはそこで培われましたね。価値のある学びができたと思います。

2つの地震をきっかけにUターン

──地元にUターンしたきっかけは何だったのですか?

酒井さん:中越を2度襲った地震(2004年中越地震、2007年中越沖地震)が大きな理由です。当時、家業は両親だけで営んでいたのですが、地震で祖母に介護が必要になり、両親だけでは厳しくなったんです。両親をサポートするという意味で、一旦帰って数年後には東京へ戻ろうと思っていました。

──しかし、気持ちが変わられたのですね?

酒井さん:そうですね。地元の良さを再認識したのと、インターネットの普及で東京にいなくても困らない環境だと感じ、長岡に残ることを決めました。それからは文化服装学院の恩師の紹介で見附のニットメーカーに入社し、産地のPRや営業活動で海外にも行かせていただいたり、良い経験をさせていただきました。

──「セレクトショップ id」をオープンしたのはいつですか?

酒井さん:2016年にオープンし、当時はニットメーカーおよび見附商工会が運営する「MITSUKE KNIT」に所属し、見附ニットの素晴らしさも伝えながらダブルワークで続けていましたが、現在は県内の大学と高校でファッションやアートに携わる仕事をしています。

──「セレクトショップ id」で大切にしていることを教えてください!

酒井さん:商品の背景にあるストーリーを語ること。そして、ヴィンテージはもちろん、コレクションブランドやメンズ、レディースの幅広い商品を扱い、オープン当初からmixスタイルをコンセプトにしています。Instagramはかなり早い段階で導入していましたが、新型ウイルス禍になってからは、オンラインで商品をリアルタイムに紹介できることが強みになりました。

──新型ウイルス禍だからこその強みを活かしたのですね!

酒井さん:商品を自分の感覚で揃えることで店に色がつき、「『セレクトショップ id』で買いたい」というお客様がいてくださることで本当に助けられています。「私が目指したのはそういう店なんだ」と感じています。一貫性を追求するだけでなく、常に進むことを考えてきました。それは新型ウイルス禍でも変えなかった部分です。

本質を見極める目を育てる

──最後に今後の目標を教えてください!

酒井さん:長岡造形大学の非常勤講師をさせていただくなど、教育に関わる機会もいただいています。自分の中では、次の世代にアパレルの楽しさだけでなく、選択肢を伝えたり、サポートをしたいと考えています。デザイナーだけでなく、販売員や企画、営業、生産管理、品質管理など、色々な選択肢がありますからね。「カッコいい」「かわいい」といった感覚だけではなく、「本質的なもの」や「クオリティが高いもの」を見極める目を持つのが大切だと思っているので、そういう提案もしています。

──ご自身と同じように憧れを持って、アパレル業界に携わっていく人を増やしたいという思いでしょうか?

酒井さん:そうですね。文化服装学院時代の同級生で、今もアパレル業界にいる人は半数も満たないと思います。そこには様々な理由があると思いますが、それでもこの業界にずっといようと考える人は多くないですね。外的要因もありますが、アパレル業界という職種の勉強をきちんとしていなくて、適性よりも憧れだけで選んでいる人も多いんじゃないかと思います。

──学び続けることも大切ですね!

酒井さん:実はアパレル以外では考古学者になりたかったんです(笑)。進学時も考古学かアパレルで悩みました。今はその流れで、ストリートアートの歴史を研究したいと思っています。回りまわって元に戻ってきた感じですね(笑)。もっと学びを深めて、本質を大切にしたいです。そこがブレなければ、いろんな方とのいい出会いが待っていると思います。

セレクトショップ id
住所:長岡市笹崎1丁目4番8号 笹崎ファーストビル1F
電話:0258-77-2026
営業時間:火曜14:00~18:00、土日祝日12:00~18:00

© 株式会社新潟日報メディアネット