地球外生命の痕跡は年間10万個も降り注いでいる!? 新たな探索方法を提案

生命が見つかっている天体は、現在のところ地球だけです。地球以外にも生命が存在するのか否かは自然科学における大きな疑問のひとつですが、解決するのは容易なことではありません。

解決法の1つとして、太陽系で生命が存在していそうな天体を直接探査するという方法がありますが、生命の探査は容易ではなく、実際に生命が存在する可能性も未知数です。別の解決法として、太陽系外惑星の生命を探索する方法もありますが、系外惑星は最も近いものでも数光年先と非常に遠く、直接探査できるようになるまでにはさらに時間がかかるでしょう。

こうした直接的な探査に代わり、生命の存在を示しているかもしれない大気分子やスペクトル線を探す光学的観測や、地球外文明に由来する可能性のある電波信号の探索が進められています。しかし、これらの方法では生命の存在を間接的にしか証明することができず、生命の存在とは無関係な自然現象で発生した可能性を否定することも容易ではありません。一度は生命の痕跡であると思われた観測データなどが、後に自然現象に由来するものであると判明した事例は、実際に数多くあります。では、地球外の生命の痕跡を見つける方法は他にあるのでしょうか?

東京大学の戸谷友則氏は、異なる角度から生命の痕跡を見つける方法を考案しました。戸谷氏が注目したのは「天体に別の天体が衝突する」という現象です。例えば、地球では火星から飛来した隕石が見つかっていますが、これは火星に別の天体が衝突し、その勢いで火星から宇宙へと飛び出した破片が地球まで飛来して落下したものであると推定されています。

このような現象は、火星以外の惑星でも起きている可能性が高いと考えられます。例えば地球でも、6600万年前の中生代白亜紀末に起こった大量絶滅のように、巨大な小惑星が衝突する現象は何回か起きたと考えられています。こうした衝突が起きた時、岩石とともに地球の生命が宇宙空間へと飛ばされた可能性もあるでしょう。

天体衝突で飛び出した岩石とともに、ある天体から別の天体へと生命が移動する現象は「パンスペルミア説」として検証されたこともあります。しかし、真空の宇宙空間に放り出された生命が放射線などから保護されるには、1kg程度の大きな破片が必要だと考えられています。また、太陽系内ならともかく、破片が他の星系に到達するためには、恒星の重力を振り切れる速度と極めて長い移動期間が必要です。このような条件を満たし、生命が他の星系に辿り着く確率は、文字通り “天文学的に” 低いと予測されます。そのような事例を実際に発見し、研究するとなれば、気が遠くなるほどの低い確率を引き当てる必要があります。

しかし、探索の条件を「生きた生命そのものを見つける」のではなく、「生命の痕跡である化石や岩石などを見つける」に緩和するとしたらどうでしょうか。条件を緩和する場合であれば、発見する破片は先述の1kgよりもっと小さくても構わないということになります。そうすれば破片の数は単純に増えるため、他の星系から地球の付近に到達する数も増えるでしょう。

また、粒子のサイズが小さい場合、地球の大気圏に突入してもそれほど高温にならずに減速し、地表へと降り積もることができます。実際に、宇宙から降り注いだ極めて小さな粒子の存在は確認されています。では、そうした粒子の中に生命の痕跡を含むものが存在するとしたら、一体どれくらいの数が地球に到達しているのでしょうか?

戸谷氏は、そのような粒子の最適なサイズを1µm(1000分の1mm)と仮定しました。このサイズは、恒星の放射が粒子を押し出す力と恒星自身の重力が釣り合う大きさであり、惑星の重力といった他の力が関与することで容易に星系を飛び出すことができます。

また、粒子のサイズが小さすぎると生命の痕跡が判別しづらくなってしまいますが、1µmあれば微生物の化石が判別可能な形で残る可能性があります。

【▲ 図: 太陽系外の地球型惑星から粒子が飛び出し、地球まで到達する様子の想像図(Credit: Totani Tomonori (全体) ; NASA/Don Davis (隕石衝突の想像図) , NASA, ESA and G. Gilmore (University of Cambridge) ; Processing: Gladys Kober (NASA/Catholic University of America) (背景の宇宙画像))】

戸谷氏は、地球と同じような惑星から生命の痕跡を含む粒子が放出され、星系を飛び出して地球まで到達するプロセスについて、粒子が星系を離脱する確率や、移動する間に失われる粒子の数などを考慮して計算しました。その結果、生命の痕跡を含む粒子は地球に年間約10万個降り注いでいると推定されました。

10万個と聞くとかなり多い数字に思えますが、年間数万トンも地球に降り積もっている惑星間塵 (※) からすればずっと少なく、実際に見つけようとすれば砂漠から特定の砂粒を見つけるような大変な作業が必要です。また、その粒子が地球に由来するものではないことを確実に証明する必要もあります。

※…惑星間塵: 太陽系の天体から放出された細かい粒子のこと

このような粒子は地球上でも南極大陸のように清浄な環境であれば見つけられるかもしれませんが、より可能性が高いのは宇宙空間です。宇宙空間を漂う小さな粒子を採集する技術は既に確立されています。アメリカ航空宇宙局(NASA)の探査機「スターダスト」は彗星の塵を採取し、別の探査機「ジェネシス」は太陽風の粒子を採集して地球に帰還することに成功しました。

また、塵の軌道や速度といった情報は、その塵が太陽系の中に起源を持つのか、それとも太陽系の外からやってきたのかを推定するのに役立ちます。探査機に搭載する検出器の配置や数を工夫すれば、検出器に衝突した塵がどこからやってきたのかを探ることも可能です。年間約10万個という数は、地球から離れた場所の塵を採集し、生命の痕跡を見つける可能性が十分あることを示しています。

アインシュタインによって提唱された重力波が100年後に直接観測できたことを戸谷氏が引き合いにしているように、今回の探査方法は全くのSFや夢物語であるとは言えないでしょう。基盤となる技術は実現しているものが多いため、近い将来、この方法で生命の痕跡を探る探査機が打ち上げられることもあり得るかもしれません。

Source

  • Tomonori Totani. “Solid grains ejected from terrestrial exoplanets as a probe of the abundance of life in the Milky Way”. (International Journal of Astrobiology)
  • 戸谷友則. “太陽系の外から降り注ぐ微粒子に生命の痕跡を探す ――地球外生命の新たな探査法――” (東京大学)

文/彩恵りり

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