無資格の帝王切開、70回の行政指導を無視…相次ぐ逮捕に感じるペット流通の仕組みの見直し【杉本彩のEva通信】

警視庁が確認した犬の多頭飼育の現場(警視庁提供)

またもや犬の繁殖事業者による動物虐待が、2月3月と立て続けに報道された。1件目は、獣医師免許がないにもかかわらず、犬の帝王切開やマイクロチップの埋め込みなどの医療行為をしていたとして、獣医師法と動物愛護法違反の疑いで京都府京丹波町の夫婦が逮捕された。逮捕容疑は昨年10月、夫が代表を務めていた事業所で、フレンチブルドッグ3頭とボストンテリア3頭に帝王切開、フレンチブルドッグ2頭に個体認証用のマイクロチップを装着した疑いだ。

この事件は、当協会Evaが刑事告発し現在公判中の長野県松本市の事件と同じく、獣医師免許のない繁殖事業者による帝王切開という医療行為だ。また、この容疑者と松本事件に共通するのは、「帝王切開はしたが、みだりに傷つけていない」と容疑を否認していることだ。松本市の事件では、起訴事実の頭数以上の多くの犬に、長期に渡り帝王切開をしていたことが公判で明らかになった。この事業者もおそらく、起訴事実以上の頭数の犬に帝王切開をしていたと推測できる。 2019年の動物愛護管理法の改正による環境省令に、「獣医師以外の帝王切開を禁止する」とわざわざ当たり前のことが明記された背景には、コストをかけたくない繁殖事業者が利益を求め、無資格の帝王切開など違法な医療行為が横行しているからだ。

■70回の行政指導無視

そしてもう一件は、劣悪な環境で甲斐犬と柴犬を飼育していた東京都八王子市の繁殖事業者の逮捕だ。東京都から飼養管理基準に反した飼育に対し改善命令を受けていたが、それに従わなかった。狭いケージに100頭あまりを1~3頭入れ、立ち上がったり首を伸ばしたり、正常な行動ができない状態で管理されていたため、足が曲がって歩けない犬もいたという。世話は行き届かず栄養不足などで痩せ細り、あばら骨が浮き出ているほど飼育状態が悪かった。明らかに動物虐待だ。元ブリーダーの男は「劣悪な環境で飼育し、虐待と言われても仕方ない」と容疑を認めているという。中には逮捕されても容疑を認めず素直に取り調べにも応じない往生際の悪い事業者がいるが、この容疑者は「自分で管理できる範囲を超えていた」と供述していることから、多頭飼育崩壊に陥っていたことも自覚していた。犬が施設から脱走し、車にひかれることもあったようで、こうした管理の悪さに対し、東京都は2020年4月以降の3年間で約70回ほどの指導を繰り返していたという。改善命令の無視を動物愛護管理法違反で摘発したのは全国初だ。

しかし、別の劣悪事業者の通報があっても、これまでの東京都の対応は酷いものだった。都に限らずだが、こうした劣悪事業者に行政は指導を繰り返すばかりで必要な措置を取らず、結果、不適正飼養を長年放置している。こうした行政の不作為や体質を、当協会は問題視し指摘してきたが、今回の対応には一定の評価をしている。近年、動物虐待事件が社会的に注目されるようになり、行政の姿勢も少しずつ変わり始めたのだろうか。そう願いたい。今後は行政処分や摘発に3年もの時間をかけるのではなく、速やかに行政の責務を遂行してほしいものだ。そうでなければ、いたずらに動物たちの苦しみを長引かせ、多くの動物を死なせてしまうことになる。また、被害犬猫を行政が一時保護すること。その上で適正な保護団体のサポートを受け、保護すべき犬の処遇にも責任を持つこと、これも今後の改善すべき行政の課題だ。

■ペット流通、望まれる許可制

しかしながら、根本的な問題の改善が必要である。このコラムでも度々取り上げているが、ペット流通の仕組みや業態を見直す必要がある。なぜなら、劣悪事業者を罪に問い、罰金以上の刑事処分となっても、屋号と代表者を変えれば今まで通り事業ができてしまうからだ。それどころか、その後こっそり繁殖させ知り合いのブリーダーに販売していることもある。何のための刑事告発で、科された処分なのだろうか。また、ペットの移動販売においては、移送環境をきちんとチェックすることもなく、また冷暖房のない不向きな施設であっても、行政自ら施設を貸し出していることさえある。こうしたことから、動物の健康や命に無配慮な事業者でも、簡単に商売ができてしまう。どれだけ事業者への規制が強化されようが、法の抜け道が多数にある。そもそも一度登録した事業者に対しては、行政は登録取消しをするどころか、まともに指導さえしないことが頻繁にある。

ペットの生体展示販売という業態そのものを変えなければ、どんなに細かい縛りを設けても今後も悪質な事業者は撤退せず、裏で利益をむさぼり続けるだろう。では、どうしたらいいのか。やはりそれを止めるためには、動物を取扱う事業を営む者を、登録制から許可制へと、事業を始める時に厳しいハードルを設けるしか方法はない。許可制は事業を行うことが原則禁止だが、許可を得られれば行うことができる。それに対して登録制は、書類に不備がなければ誰でもできる。もちろん完全に放任状態だと適切ではないということだが、現状を見ると、さまざまな事業者の問題や事件が深刻な社会問題となっている以上、許可制にすべきなのは至極当然の流れだと思う。

さらには、衝動買いに繋がる幼齢動物の販売禁止も、次期法改正の機会に訴えていかなければならない優先度の高い課題である。現状の悪質事業者への行政の対応と、現行法の限界を考えれば、まず簡単に事業を始められないようにすることが必要だ。また、幼齢犬猫の販売は、大量流通を目的とした乱繁殖を誘発している。こうした動物福祉に反する根本的な問題解決に向けて法改正すれば、一気にさまざまな問題がクリアになるはず。少なくとも、悪質事業者のこれ以上の参入は防げるだろうし、行政処分や刑事処分を受けた事業者が、再び簡単に許可を得ることも、裏で違法に利益を得ることも難しくなるだろう。「厳格な許可制」と「幼齢動物の販売禁止」、時期法改正で実現することを願っている。 (Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

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