2周目の1コーナーでの坪井と牧野の大クラッシュ。SF23での初走行富士、いきなり本番の難しさと予想以上のスリップストリーム

 スーパーフォーミュラ第1戦富士スピードウェイの決勝、4台がストールして、1〜2コーナでマルチクラッシュが起こった直後、2周目のTGRコーナー(1コーナー)で大きなクラッシュが発生した。7番手を争っていた坪井翔(P. MU/CERUMO・INGING)のスリップに付いた牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が、ブレーキングで坪井に激しく追突。坪井はリヤ、牧野はフロントを大破し、セーフティカーが導入された。レース後、ふたりにその状況について聞いた。

「2周目の1コーナーで追突されてしまったのですけど、帰ってきて(牧野の)オンボード映像を見ても、あの追突はないなと思いました。タイヤをロックしてしまって突っ込んできたのはわかるのですけど、ロックするにしてもそれまでが危険なスピードでしたし、乗り上げられるくらいの速度差で完全にリヤウイングがすっ飛ぶくらいの勢いでした」と話す坪井。

「僕はインをブロックしていたので、アウトから仕掛けて来る分には全然問題なかったのですけど、向こうはなぜか一度右(イン側)にクルマを振って、また左(アウト)にクルマを振っている。その時点で判断ミスをしていると思いましたし、そもそものブレーキ位置もおかしい。接触にも納得できる接触はあると思うのですけど、ちょっと今回のは納得できない接触の仕方でしたね。せっかくいいポジションで2台で争っていたのに、お互いにとってもったいないレースになってしまいました」と続ける。

接触後、マシンを降りる坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)

 一方、追突してしまった牧野は結果的に5秒ストップペナルティを科せられた。自らの非を認める牧野だが、その見方は坪井とは違った。

「かなり速度差はありました。スリップもかなり手前から効いていたのですけど、結果的に僕が後ろからタイヤロックさせてしまったので僕が悪いと思います。ペナルティも出ていますので、それは理解できます。ただ、それまでの過程として、僕がインに行ったタイミングで前のクルマも動いてイン側に来ているので、それで左(アウト)に逃げようと思ったのですけど、あの速度域のブレーキングで一緒に動かれてしまうと、僕としてはどうしようもない部分があって、逃げられませんでした」

 あまり見られないような速度差の大きかった坪井と牧野のクラッシュ。その背景には新車両SF23で初めて富士スピードウェイを走ったその日にレースを行ったことの影響も見られた。今回はクルマのセットアップもチームによって大きく異なり、リヤウイングの角度の違いがこれまで以上に大きく、ストレートスピードの差がワンメイクレースとは思えないほど、大きかったのだ。

「後ろからスリップにつかれてきているのはもちろん分かっていましたけど、正直、バトルすることになる距離感だとは思っていませんでした。僕のクルマのストレートが遅かったと言うのもあると思うですけど、牧野選手のストレートが速くて、すごい勢いで追いついて来ていたのは見えていました。ブレーキを踏んだ瞬間の感触としては10km/hくらいの速度さはあったかなと思いますが、それでも、レースとして競争するような距離感ではなくて、並ばれるくらいの距離感だと思っていました」と坪井。

 牧野も「今回、各車でダウンフォースレベルの違いは出ているなという印象を受けました。特に僕らはレースで直線がすごく速かった。セルモはダウンフォースを付けぎみで、お互いにOTSを押していたのですけど、それでもすぐに追いついてしまうくらいの差がありました。あんなに速度差があるんだ、と。思っているよりその差はありましたね」

 牧野にとっては、タービュランスが減ってスリップがききやすくなったSF23で、OTSを効かせた状態でいきなり富士のストレートエンドでスリップに入った時の感覚の難しさはあったのかもしれない。

 いずれにしても実質、ここでレースを終えてしまった坪井と牧野。今回の大波乱となったレース展開、そしてSF23の新車両と、前日の練習走行が雨でキャンセルになっていきなり本番走行となってしまった難しさを、奇しくもこの2台が象徴するような形になってしまった。

スターティンググリッドでの牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)

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