心身ともに“極限状態”だった山下健太、涙の復活表彰台。レース後半には怪我の影響も/SF第2戦

 4月8日に行われた2023年全日本スーパーフォーミュラ第1戦。スタート直後の接触に巻き込まれリタイアとなった山下健太(KONDO RACING)は、レース後のミックスゾーンで、いつになく怒りを露わにしていた。

 その表情や口調から、ただならぬ感情があることは感じられたのだが、その背景には、本人にしか分からない苦悩の日々があった。

■味わったどん底。「フォーミュラに向いていないのかな」

 2017年にスーパーフォーミュラデビューを果たした山下。参戦1年目でポールポジションを奪うなど、その速さに周囲からの注目も高まっていた。しかし、なかなか結果を残すことができず、3年目となった2019年第6戦岡山で悲願の初優勝を飾った。

 翌年、コロナ禍で開催された2020年の開幕戦もてぎでは2位表彰台を獲得したが、当時WEC世界耐久選手権にも参戦していた山下は、帰国後の自主待機期間の兼ね合いで表彰式に参加することができず、近藤真彦監督が代わって登壇した。

 それ以降は、予選Q1で敗退するなど下位に沈むことが多く、スーパーフォーミュラのパドックではほとんど笑顔が見られることはなく、昨年まで6シーズン参戦して、表彰台は3回という結果に終わっていた。

 その一方で2018年にはニック・キャシディ、2022年にはサッシャ・フェネストラズが活躍し、同年でともにランキング2位を獲得。チームメイトにスポットライトが当たる一方で、山下への注目度は薄れていった。

「スーパーフォーミュラでは、苦労をしている期間がすごく長くて、何をやってもうまく行かなくて、『フォーミュラに向いていないのかな?』と思ったりもしました」

 特にここ数年、山下はネガティブな感情になることが多かったという。そこに追い討ちをかけたのが、今年1月に鈴鹿サーキットで行われたスーパーGTのメーカーテストで大クラッシュだ。脊椎を圧迫骨折し、約1カ月は安静に過ごさなければいけない日々が続き、山下のストレスは限界を迎えていた。それが、ある意味で爆発したのが、第1戦でのアクシデントだった。

「あの時は、8分間ウォームアップでセット変更したことが、うまくきているなという感じがありました。それが、ああいうふうな感じで終わってしまったので。普段はぶつけられてもそんなに怒らないんですけど、情緒不安定になっていました」

2023スーパーフォーミュラ第1戦&第2戦富士 山下健太(KONDO RACING)

■「いろいろありすぎた」オフ

 そんな中で迎えた4月9日の第2戦。予選Q1・Aグループで3番手タイムを記録すると、Q2でも力強い走りをみせて山下は6番グリッドを獲得する。

 決勝でも終始安定したペースを披露していたが、怪我の影響でレース後半は痛みを感じていたという。

「骨の周りについている筋肉が、折れた部分を庇おうとして、すごく張っちゃって、普通の状態ではなかったです。今まで『痛い』と言ったことはなかったんですけど、レースで周回を重ねていくことで、どんどんキツくなってきて、支えるのが大変でした」

「レース真ん中くらいで『まだ残り20周もあるのか』みたいな感じでした。これは予測していたことで、こうなるだろうなと思っていたので、気合いで乗れて良かったなと思います。後ろにいた宮田(莉朋)選手が速かったので、抜かれるわけにはいかなかったですけど、なんとか耐えれて良かったです」

 最後はリアム・ローソン(TEAM MUGEN)のタイムペナルティもあって、3位に上がった山下。4年ぶりの表彰台でトロフィーを受け取ると、感極まっている様子で、レース後の記者会見でも、珍しく涙が溢れていた。

「スーパーフォーミュラに乗っている人ならみんな分かると思うんですが、理解できないことがすごく多いので、そこに対していくらやっても結果が出ない……そういう時期が僕としては長かったです。3年間、いろいろやりましたけど、感度もなくて、フォーミュラとか向いていないのかなと思ったんですけど……」と記者会見で吐露した山下は、秘めていた思いを堪えきれず、涙が溢れていた。

「(SFで苦労していたところに)そこに怪我が重なってしまいましたが、その辛い時期をいろんな人が支えてくれました」と山下。このシーズンオフは、どん底のような状態だったそうだが、改めて療養期間中にサポートしてくれたすべての人に感謝していた。

「チームもそうですし、トヨタの皆さん、あとは身内とか家族とか。もちろんKONDO RACINGの皆さんも支えてくれました。特に今年は体制が変わったところもあって……いろいろありすぎて、きちゃいましたね」

 記者会見を終えた山下は、前日の怒りに満ちた表情から一点し、肩にのしかかっていた重荷から解放されたような、リラックスした表情をみせた。

「現状だと野尻選手とTEAM MUGENが強いので、チャンピオンを彼らに獲られてしまいそうですが、その中でも一矢報いる走りをしたいです」と山下。長いトンネルから脱し、今後は上位争い加わる姿が見られそうだ。

2023スーパーフォーミュラ第1戦&第2戦富士 山下健太(KONDO RACING)

© 株式会社三栄