市場再編から1年、上場維持基準を満たしていない企業の課題と変化の兆し

2023年に入り、東証の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」が注目を集めています。前回もお伝えしましたが、東証は上場企業に資本コストや株価への意識改革を促す目的として、「継続的にPBR1.0倍を割れている企業には、開示を強く要請する」としています。

PBR1.0割れの企業へ注目が集まる中で、東証のフォローアップ会議ではもう一つ、開示をしている事があります。それは2022年から市場再編が行われ、「市場第一部」「市場第二部」「マザーズ」「ジャスダック」の4市場を再編し、新たに「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場を発足させました。その際、上場維持基準を満たしていない企業でも、新市場にとどまることができる「経過措置」を設けましたが、この措置を2025年3月以降順次終了する事を2023年1月に明記しました。


1年経った東証の市場再編

改めて市場区分の基準内容を見てみましょう。

プライム市場は株主数800人、流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上など、スタンダード市場は株主数400人以上、流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上など、グロース市場は株主数400人以上、流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上などです。

東証の資料では、新市場の上場維持基準に適合せず、経過措置を適用している企業数は、全体で510社にのぼり、内訳はプライム市場が269社(上場企業数比14.6%)、スタンダード市場が200社(同13.8%)、グロース市場が41社(同7.9%)となっています。

こうした企業は、「2025年3月以後に到来する基準日から、本来の上場維持基準を適用され、基準に抵触し、1年以内(改善期間)に改善できなかった場合は、監理銘柄・整理銘柄(原則として6か月間)に指定する。ただし、施行日の前日において、2026年3月以後最初に到来する基準日を超える期限の計画を開示している会社については、明確な期限の定めがない中で策定された計画であることや、計画に基づき着実に進捗している会社もあることを踏まえ、計画期限における適合状況を確認するまで監理銘柄指定を継続する」としています。

改善し、上場維持基準をクリアした企業例

ここで、市場再編が行われるまでは基準未達だった企業で、現在基準をクリアした例などを紹介します。

プライム市場の高千穂交易(2676)は、2021年12月の時点で流通株式時価総額が64.3億円と、基準の100億円に届いていない状況でした。同社は、時価総額向上に向けた取り組みとして2025年までの新中期経営計画をまとめ、注力する事業に人員をシフトし、最適な人員構成を図り、DXの推進などを掲げました。また、自己資本利益率(ROE)が3期平均8%を達成するまで配当性向100%を維持する、創業70周年記念配当15円を実施するなどの株主還元策を発表しました。

この発表後は決算も順調で配当も増配し、株価が堅調に推移しました。そうした事を受け、同社は2022年12月末時点で全ての項目でプライム市場の基準をクリアしました。

また、ゆうちょ銀行(7182)は、同社株の約9割を日本郵政が保有しており、クリア条件の流通株式比率が35%以上が未達となっており、経過措置の適用でプライム市場に上場していました。しかし、2023年3月に日本郵政がゆうちょ銀株約10億8,900万株を売り出す事で、日本郵政の保有比率は6割に下がり、基準に達する見通しでプライム基準をクリアできる見込みです。

現在、市場ではPBR 1.0 倍割れが注目されますが、東証のフォローアップ会議では、市場再編が上場会社の企業価値向上へ寄与することを目的としていることを踏まえるならば、 全上場会社の約半数がPBR 1.0 倍割れの状況にメスを入れない限り意味がないとしています。2022年に実施した市場再編が、無意味にならない対策を打ち出したようにも感じます。

海外市場と比較してもPBR1.0倍割れの企業が多い日本市場で、企業が株価を意識する姿勢に変化が出てくるのであれば、海外投資家が日本市場に資金を振り向ける可能性は十分にあると感じます。また、2024年からはNISAの枠も拡大される見込みです。そうした事を踏まえ、日本の上場企業の変化に期待したいところです。

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