石積み工の仕事を

 一人の石積み工の仕事ぶりを、哲学者の鷲田清一(わしだきよかず)さんがエッセーに書いている。その職人は語ったという。「ときに経費の関係で手を抜くと、大雨の降ったときは崩れはせぬかと夜も眠れぬこともある」▲粗末な仕事はできない。そう言った職人の話を引いて、鷲田さんは〈わたしたちは未来の世代に対し、この石積み工のように胸を張って言えるだろうか〉と問いかける▲石材を積み上げ、橋の土台や垣を造る。それが私たちの暮らしやすさにつながり、未来への礎になる。思えば、石積みの仕事はどこか政治に似ている。先の世代に胸を張れるよう、大いに汗をかいてほしい。統一地方選の前半戦、県議選の当選者が決まった▲「産みやすく、育てやすく」の子ども政策、人口減少対策、1次産業の下支え、離島の振興…。この選挙での多くの候補者の訴えは、そのまま県の宿題でもある。目指す目的地は変わらない▲ひと頃の県議会には、その人の一声に皆が従う「重鎮」や地域代表の「顔役」がいて、一部に「政策通」と呼ばれる議員がいた。これからはどうだろう▲前に挙げた宿題に、行政はこれという答えを見つけていない。おのおの答えを考え抜き、行政に指し示す。その腕前が要るに違いない。政策という石材を積み上げる職人の仕事ぶりが試される。(徹)

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