そしてバス路線はなくなった 広島市内でも減便… 背景に物流業界のあの問題も

先月末、1本のバス路線が、89年の歴史に幕を閉じました。広島市と北広島町・大朝を結んだ路線です。

路線の減少は、広島市内を走る便でも…。今月から341便が減便されました。

路線バスに今、何が起きているのか? 利用者減少だけが理由ではありません。ここにもあった、“あの問題” とは…

鉄道の存廃問題が各地で議論される中、路線バスについてもこれからどうなっていくのか、少し不安になる動きがあります。今月から▽広島バスが7路線、▽広島電鉄が2路線、▽広島交通も1路線など、あわせて12路線がダイヤ改正によって減便されました。路線バス減便の理由は、利用客の減少だけではないようです。物流業界でささやかれる “あの問題” も影を落としています。

3月31日。広島・北広島町の大朝車庫に最終便が入ってきました。

到着予定が30分以上遅れたにもかかわらず、地元の有志が開いたセレモニーには、およそ130人が駆けつけました。

バスが遅れた理由…。それは、沿線にいつもとは違う風景があったからです。

お礼に訪れた人
「お礼だけ言いに。待っていて良かった。大朝の者です。長い間、ありがとうございました。小さいときから、ずっとお世話になりました。さみしいです」

慣れ親しんだバスにひとこと、お礼を言うために最寄りのバス停で待っていた人…。最後の思い出にと、バスに乗車した人…。

最後の思い出にと乗車した人
「冬はスキー。大朝にスキー場があって、中学生のときは、スキーの板を乗せてもらって行っていました」

この路線は、「広浜(こうひん)線」と呼ばれていました。広島市と浜田市を結ぶ便として1934年(昭和9年)に開業。80年代には1便当たり平均で15人ほどの乗車がありましたが、最近では5人前後にまで落ち込み、赤字路線となっていました。

それでも沿線の人たちにとって広浜線は、通学や通勤など多くの思い出が詰まった路線で、最終便を迎えるセレモニーは盛大なものになりました。

最終便のハンドルを握った乗務員は、感慨深そうでした。

最終便に乗務 中国ジェイアールバス 寺下哲 さん
「めちゃめちゃ緊張しました。手を振られる方やおみやげを持って来られる方、本当にうるっときました」

この会を発案した酒造会社の社長・福光寛泰 さんです。

わさまち会 福光寛泰 さん
「このバス路線から多くの思い出が生まれました。これらの思い出は人生の宝物です」

中国ジェイアールバスの支店長は、自身も学生時代、通学で利用していたということです。

中国ジェイアールバス 広島支店長 空田弘 支店長
「子どもの数も減り、コロナ禍の影響もあり、なかなか厳しい状況でありますので。このような状況になり、非常に残念です」

住民
「わたしは嫁いできたんですが、小さい子どもを連れて、1回だけ乗ったことがある。お世話になりました」

わさまち会 福光寛泰 さん
「今回、このようなセレモニーで今までの感謝の気持ちを伝えることができて、ほっとしています。本当にこの地域が発展するために欠かせないバス路線。大切なバス路線でした」

89年のバスの歴史にピリオドが打たれました。

広島市中心部でも減便 相次ぐ…

バス路線の変化は、広島市中心部のデルタ内を走る便にも現れています。たとえば、広島駅を出発して八丁堀・旭町を経由し、再び広島駅へ向かう広島バスの旭町線。

平日の便数は上りと下り合わせて82便あったものが、今月のダイヤ改正でわずか7便に減便しました。

旭町バス停前の吉田薬局 吉田桂子 さん
「八丁堀に行くのは26番・旭町線しかない。だから重宝していて。少ないと言っても26番・旭町線が一番利用が多いと思います」

広島バス 運輸課 平岡祐介 課長
「26号線が、ほかの路線とかなり重複している区間が多くて。ほかの路線で26号線の代替を考える余地がかなり大きかった」

減便は旭町線だけではありません。宇品線・横川線・吉島線・草津線…。広島バスでは、7つの路線に上る、過去にないダイヤ改正に踏み切りました。

背景にはコロナ禍による新しい生活様式の浸透によりバスの利用客がコロナ前の6割にまで減少したことがあります。さらに、物流業界でささやかれる “2024年問題” が、バス業界も直撃しています。「運転手の働き方改革」です。

広島バス 運輸課 平岡祐介 課長
「今後、2024年の4月1日から勤務間インターバルを9時間以上取りなさいと。現状のダイヤ、8時間基準で組んであるダイヤでは、今の便数・運行頻度というのは、どうしても維持することができなくなってしまう」

運転手不足が指摘されている来年の春を見すえて、一足早く対応に乗り出したわけです。

今後、バス業界は、どうなっていくのか?

広島修道大学 商学部 橘洋介 准教授
「やはり選択と集中というところをやっていかないことには、現状の規模を維持していくのは、なかなか難しいのかなという現状にあります」

海外では、「公共交通は営利で運営できるものではない」として、税金や自治体などによる運営になっていると橘准教授は指摘します。

広島修道大学 商学部 橘洋介 准教授
「これまでと同じ交通網、利便性をということは、どう考えても今後は難しいだろうと。その中で自分たちで自分たちの地域を守っていくことが必要になるんじゃないかなと思います」

広島バス 運輸課 平岡祐介 課長
「どうやってお客さまの利便に対して公共交通そのものを維持していくかっていう形を考えていかなきゃいけないとは思っています」

わさまち会 福光寛泰 さん
「自分たちがどういう交通路線が、交通手段があれば便利なのか。これからは自分たちで考えて、みんなで相談しながら考えていきたい。そういうきっかけにしたい」

新しい生活様式と働き方改革…。バス事業者と利用者の双方に新たな対応が求められています。

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