坂本龍一さん 映画館「109シネマズプレミアム新宿」にオリジナル楽曲「鑑賞前に耳を洗う」初の音響監修も

3月28日に71歳で死去した音楽家、坂本龍一さんが劇場オリジナル楽曲を制作し、全シアターの音響を監修した映画館「109シネマズプレミアム新宿」(東京都新宿区)の内覧会が11日に行われ、同劇場の廣野雄亮支配人(33)は、坂本さんに「この恩返しをしなければ」と感謝、決意を口にした。

2014年に58年の歴史に幕を閉じた「新宿ミラノ座」の跡地に建設され、14日に開業する東急歌舞伎タワー。地上48階の9、10階に展開される映画館は、全席プレミアムシートが設置され、最高級の最新映写・音響設備を備える。

坂本さんは新宿高校時代、新宿のジャズ喫茶、映画館に通い多彩な感性を育んだ。廣野支配人は「ミラノ座の跡地につくる映画館を特別なものにしたかった。音にもこだわりたいと考えた時、新宿に縁があり、映画音楽に多大な貢献をされた坂本さんのことが浮かんだ」と依頼。2020年に引き受けた坂本さんにとっては、自身初となる映画館の音響監修がスタートした。

打ち合わせで坂本さんが口にした話を、廣野支配人は鮮明に覚えている。

「映画を鑑賞する前に一度耳を洗うべき、と話していました。素晴らしい音響設備をつくっても、人間の耳は都会のノイズで汚れている。鑑賞前に耳を洗う空間をつくるべきだ、と。抽象的で我々には理解できなかったのですが、映画館が完成して、あの思想に一貫したものだと分かりました。鑑賞前に耳がリセットされるようです」

坂本さんが制作した同劇場オリジナル楽曲は3曲。本編前に流れる約30秒の「109Shinjyuku-Clarrifier(浄化)」、全8シアターの開場を告げる約5秒のチャイム「109Shinjyuku-Chime」、ラウンジのBGM「109Shinjyuku-Lounge」。闘病の中、昨年末に映画館側に届けられた。

音響監修は坂本さんが信頼する音響システムのエンジニアたちと進めた。「スピーカーの前に、ケーブル、アンプ、電流は安定しているか、そういうところからこだわってほしいとアドバイスされました。英国製のアンプは、おそらく日本で初めて導入するものです。これまでの映画館では考えられない投資額です」と廣野支配人。スクリーン等も最高級の設備で並べた。

109シネマズプレミアム新宿のシアター7
109シネマズプレミアム新宿、正面と両面スクリーンが270度3面ワイドビューを実現させる「ScreenX」が設置されたシアター6

坂本さんは完成した映画館に来場できなかった。廣野支配人は「日取りまで決まっていたのですが…」と無念の表情を浮かべ「闘病で大変な中、本当に多大な協力をいただきました。この恩返しをしなければ」と語った。

同劇場のプレミアムシートは通常料金でクラスAが4500円、クラスSが6500円。14日からは坂本さんが音楽を手がけた「戦場のメリークリスマス」、「トニー滝谷」、「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022+(プラス)」などの特別上映が実施される。廣野支配人は「これまでにない鑑賞体験になると思います。過去に一度見た作品でも、全く違った印象を持たれるでしょう。新しい企画も考えていますので、来場お待ちしています」と呼びかけた。「恩返し」の内容は聞かずとも、答えは明白。映画の魅力をさらに広めていく。

109シネマズプレミアム新宿の廣野佑介支配人
109シネマズプレミアム新宿の「CLASS S」シート
109シネマズプレミアム新宿の「CLASS A」シート

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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