続く快進撃

 〈…当時の私はと言えば、タイトルどころか挑戦者になったことすらなかった〉-だから、21歳の谷川浩司・新名人は「実力より地位が先行していますので、タイトルは1年預からせていただきます」と、とても謙虚に喜びを語った▲今からちょうど40年前、1983年のことだ。それから今年の春まで、将棋の名人戦には“勝てば最年少”の若い挑戦者が登場したことさえなかった。その記録に藤井聡太六冠が挑んでいる▲もし藤井さんが「実力より地位が-」などと言い出したら、謙虚が美徳なのは分かるが、いくら何でもどの口が…と言ってしまうかもしれない。誰もが認める20歳の第一人者▲安定感が段違いだ。2020年に「棋聖位」を獲得して以来、藤井さんは登場した13回のタイトル戦を全て制している。この“ノンストップ”がどれほどすごいか…というと▲96年2月に当時の七冠を独占した羽生善治さんは、初めてタイトルを獲得した後、防衛に失敗して4カ月間だけ無冠だったことがあるし、七冠ロードの途上でも「5冠→4冠」の足踏みを経験している。あんなに勝ちまくっていたあの頃の羽生さんなのに、である▲そろそろ止まるか、そのまま歴史を書き換えてしまうか。名人戦も、並行して行われる叡王戦も、藤井六冠の白星で始まった。(智)

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