社説:物流の人手不足 効率化へ知恵と協力を

 物流業界で人手不足の深刻化が懸念されている。

 トラック運転手の時間外労働の上限規制が、来年4月から適用されるためだ。輸送能力が低下し、荷物の配送遅れなどの混乱が起きる恐れがあるという。「2024年問題」と呼ばれる。

 全産業の中でも労働時間が長いとされるトラック運転手の健康や生活向上のため、働き方改革を進めるのは当然だ。その上で、安定した物流を維持するには、事業者だけでなく、荷主側の産業界や消費者、行政をあげての取り組みが欠かせない。

 人口減少や脱炭素も見据え、過度に鮮度を優先した頻回な商品配送や指定時間の必達など、従来の商習慣や生活スタイルの全般を見直すことも求められよう。

 民間試算によると、トラック運転手の残業規制により、25年には全国の荷物総量のうち約28%、30年には約35%が運べなくなるという。農水産物などの食料や日用品、医薬品などが、必要な時に入手できなくなる恐れがある。

 人材確保のため、物流会社は採用を強化しているが、運転手の求人倍率は2倍前後が続き、慢性的に不足しているのが現状だ。

 「おうち時間」の定着でインターネット通販市場が拡大し、国土交通省の調べによると、21年度の宅配便は49億5300万個に上る。5年前より23%増えているといい、輸送力は逼迫(ひっぱく)しつつある。

 政府は、荷物の積み降ろしの際にドライバーが待機する時間や納品回数の削減など、改善計画の策定を荷主などに義務づけることなどを検討している。

 一部の事業者は、長距離荷物を中継地で別のトラックに移して運ぶなどの対策を始めている。複数荷主による共同輸送、鉄道や船など大量輸送手段の活用、貨客混載も含め、効率化へさまざまな知恵と方策を取り入れてほしい。

 消費者にもできることがある。政府は今月、「再配達削減PR月間」を初めて設けた。宅配便ドライバーが何度も訪問を強いられる再配達は時間と手間がかかり、年間で運転手約6万人分の労働力に相当するという。

 まとめ買いによる配送回数の削減をはじめ、宅配ボックスや玄関前に荷物を置く「置き配」の利用など、各自で工夫したい。

 残業規制による収入減で離職が増えるのは望ましくない。健全な労働環境とともに、適正な賃金水準が得られるよう荷主側の協力も必要だ。

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