57歳会社員、継続雇用を利用せず60歳定年でリタイアしたいけど可能?

現在、多くの会社が60歳での定年と65歳までの継続雇用制度を実施しています。一般的に年金をもらい始めるのは65歳からという環境の中、定年の60歳でリタイアすることは金銭面で可能か、実際の相談事例から考えてみたいと思います。


まずは60歳でリタイアした時のイメージをつかむ

会社員の場合、会社によっては55歳で役職定年などもあります。実際のところ、50代後半になると「定年」を意識し始める方も多いのではないでしょうか。

筆者はファイナンシャル・プランナーとして活動していますが、特に50代の会社員の方からご相談いただく機会が多々あります。今回、オンラインでお話ししたのは、57歳、食品メーカー勤務の男性です。ご相談いただいた内容は、ズバリ「リタイアしても大丈夫か」でした。詳しく状況をお聞きしたところ「単身赴任の期間が長く、持ち家があるものの住宅ローンを支払うばかり、定年の60歳以降も単身赴任が続くのであれば退職しようと考えている」とのことでした。ただし、一番の不安は金銭面。というのも住宅ローンの返済が67歳まで続くため、いっそのこと退職時に返済した方が良いのではないかとお考えです。そこで3年後の60歳で完全リタイアし、住宅ローンの完済をできるかについて順を追って確認することにしました。

1.必要な老後資金を算出する
リタイア後の収入は退職金や金融資産などに頼ることになりますから、念のため100歳までの収入を計算します。
・退職金:約2,500万円
・金融資産(個人年金など保険資産含む):1,500万円
・公的年金(65歳~):1億1,900万円(年額約340万円(夫婦合計)x 35年分)
収入の合計は1億5,900万円ほどになります。

次に100歳までの支出を計算します。
・生活費(60歳~):1億4,400万円(年額約360万円x 40年分)
・住宅ローンの残債:1,200万円
支出の合計は1億5,600万円ほどになります。

以上から収支は300万円ほどのプラスになりますが、これらの支出は単純に生活費のみです。万が一病気や介護になった時の備えや住まいのリフォーム、大型家電の買い替え、旅行など趣味にかかるお金を合わせると300万円で足りるか不安が残るところです。

2.住宅ローンを退職金で一括返済しても大丈夫か確認する
退職後にローン返済を続けるのは精神的なストレスになるので、できれば返済を完了してスッキリしたいとご希望ですが、これについても注意が必要です。なぜなら公的年金の受給は原則65歳開始だからです。60歳からの5年間の生活費は合計で1,800万円ほど、住宅ローンの残債と合わると3,000万円の支出となります。いっぽうで退職金は2,500万円ですから、500万円ほどを金融資産から持ち出すことになります。金融資産は1,500万円ほどありますが、半分は個人年金などの保険資産になっています。現金化するために保険を解約、あるいは、年金受け取りではなく一括で受け取ると減額されてしまいます。つまり750万円の預貯金から500万円を返済に回すと現金の手残りは250万円ほどです。万が一、大きなお金が必要になった時に不安が残るところです。

このように、概算ではありますが、具体的な数字にしたことで60歳にリタイアした場合のイメージを持っていただけました。

キャッシュフロー表を作成してお金の知識を身につけること

なお、ここまでの試算は、単純に一生涯の収支を算出しているだけです。例えば、途中で金融資産がマイナスに転落してしまったとしたら、家計が破綻してしまいます。一生涯にわたって金融資産の額をマイナスにしないためには、キャッシュフロー表を作成して確認するのが有用です。キャッシュフロー表とはお金の流れを表にしたものです。日本FP協会のホームページでは「将来の収支が予想できる 家計のキャッシュフロー表」をエクセル形式でダウンロードできますので参考にしてください。

キャッシュフロー表を作成することと同様に重要なことがお金に関わる知識を身につけることです。具体的には、退職金にかかる税金や公的年金の知識についてです。退職金は一括で受け取る時と年金形式で受け取る時は税金のかかり方が異なります。

また、公的年金は制度が複雑なので、特に注意が必要です。例えば60歳での退職に合わせて年金を60歳から繰上げして受け取ればなんとかなる、と考えることもあるかもしれません。その場合、年金の減額率が一生涯続くことで年金額がかなり少なくなることや、万が一ケガや病気で障害状態になっても障害年金の請求ができない、などマイナスの影響もあります。正しい知識がないばかりに安易に判断してしまうと後悔してもしきれません。

そのために知識をつける、あるいは、適切な判断ができるか不安がある時は、正しい知識を持つ信頼できる専門家に相談することも有用です。誰が信頼できる専門家であるかを判断することも難しいかもしれませんので、普段から雑誌やインターネットで発信している専門家の記事などを参考にして相談相手を探しても良いでしょう。

以上のことをお話ししたところ、60歳でのリタイアが必ずしも実現不可能ではないことが分かり安堵されたようです。また、早急に退職金の制度や受け取り方、個人年金保険を含めた保険資産の詳細、夫婦の公的年金の受給見込額を確認してキャッシュフロー表を作成したいとご依頼をいただきました。これから60歳完全リタイアを目指して課題や対策を一緒に考えていくことになりました。

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