社説:大阪IRを認定 日本にカジノ、本当にいいか

 ギャンブル依存症の増加や生活環境の悪化など、多くの課題は残されたままだ。そもそも日本にカジノが必要なのか、根本的な違和感は拭えない。

 カジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)の開発に向け、政府は大阪府・市が提出した整備計画を認定した。今後の手続きが済めば、カジノ開業が正式に決まるという。

 IRを推進する大阪維新の会が府・市のW首長選、議会選で圧勝した結果も受けての認定となった。

 ただ、共同通信の出口調査でIRに賛成の府民が52%、反対は45%と、ほぼ拮抗(きっこう)した。多くの負の側面や事業の妥当性について、なお懸念があることには十分留意してもらいたい。

 市民からは住民投票を求める直接請求が提出されたが、維新などの反対で条例案は府議会で否決された。大阪都構想で2度も実施したのとは対照的だ。

 府・市議会とも維新が圧倒的な議席を占め、2029年秋―冬を目指すという開業路線に一気に拍車がかかりかねない。疑問や課題を置き去りにして突き進んでは危うい。

 とりわけ心配なのは依存症である。大阪だけの問題にとどまらない。整備される人工島の夢洲(ゆめしま)は京都・滋賀からも近い。

 海外のカジノでは生活が破綻したり、事件や自殺につながったりしたケースが社会問題となっている。IR整備法は日本人客の入場を週3回、月10回までに制限することなどを規定するが、日付をまたげば週6日通うことも可能とされる。

 政府や自治体は対策を徹底するとしているものの、実効性は心もとない。

 収益や公費負担の問題もある。年間約2千万人の来場を予想するが、他の観光地や海外カジノとの競合もあり、約5200億円の売り上げ見込みは過大だと疑問視されている。

 そうした曖昧さを残したまま整備用地の対策費に計約790億円の公金がつぎ込まれる。地盤沈下対策など負担が増える可能性もあり、住民が納得できるかが問われよう。

 カジノ構想は1999年に当時の東京都知事が表明し、政府・与党の推進で2018年にIR整備法が制定された。当初から賭博の収益で観光や経済の振興を図る手法は、副作用が大きいと批判されてきた。

 新型コロナウイルス禍もあって誘致熱は冷めている。国が認定する3枠に対し、整備に立候補したのは2地域のみだった。

 一方で自民党衆院議員が絡むIR汚職が摘発され、中国企業を含む「利権の闇」が浮き彫りとなったのも記憶に新しい。

 岸田文雄首相は「日本の魅力を世界に発信する観光拠点に」と期待するが、外国人を引きつけるのは日本ならではの文化や自然だろう。逆に魅力を損なうことにならないか。

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