長崎の濱辺さん 父の戦争体験出版 「餓死寸前の地獄の底」 比ルソン島で従軍

出版された本(左)と政雄さんの手記が載った体験記集

 戦時中、旧日本陸軍の衛生兵としてフィリピン・ルソン島の病院に勤務した男性が自身の体験をつづった手記がこのほど、「陸軍衛生二等兵 ルソン島生還記」(長崎文献社)として出版された。男性は、故濱辺政雄さん=長崎市出身、1990年に68歳で死去=。解説や英語翻訳を加え出版した息子で医師の淳一さん(66)=同市在住=は「どんな人でも興味深く読んでもらえる本になった」と語る。

病院に勤務していた当時の政雄さん(濱辺淳一さん提供)

 政雄さんは1943年9月に入隊。第139兵たん病院ムニオス分院に勤務し、46年1月に帰国した。当初は同僚や患者と「楽しく軍務に励んでいた」が戦況は次第に悪化。米軍の砲弾の雨やマラリア、深刻な食糧不足による「餓死寸前の地獄の底」を生き延びた。 息子の淳一さんは2016年ごろ、フィリピンで看護師をした人の手記を遺族が投稿していた雑誌を見て、政雄さんが1974年と86年に戦友会の体験記集に出していた2本の手記を読み返し、時系列に整理してこの雑誌に送った。手記は2019年に掲載された。
 手記を時系列に読み進めると、情景が鮮明に浮かび上がり、まるで父の話を聞いているように感じた。「アメリカにいる親戚や世界の人に読んでもらおう」と思い立ち、3年間、約2千時間かけて翻訳し、政雄さんの100歳の誕生日となる2月8日に出版した。
 英訳は英語教師やアメリカ出身の知り合いなどに添削を頼んだ。作業が進むにつれ、使命感が芽生えていったという。淳一さんは「あまり知られていないフィリピンでの戦争体験。父の体験を通してぜひ多くの人に読んで学んでほしい」と話した。
 A5判、見開きの左ページを日本語、右ページが対応する英語で各67ページ、1210円。書籍は長崎市の好文堂書店など県内の主な書店で販売している。

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