多くの困難を乗り越えたデフ・レパードの現在「炎のターゲット」リリース40周年!  2023年5月にはニューアルバム「ドラスティック・シンフォニーズ」がリリース!

サードアルバム「炎のターゲット」で大ブレイク

1983年1月20日、デフ・レパードはサードアルバム『炎のターゲット(Pyromania)』をリリースした。何と今年、リリース40周年を迎えたのだ!本作は、ビルボードのアルバムチャートで最高位2位を獲得し、最終的には1000万枚を超える売り上げを記録した。

デフ・レパードは、イギリス出身で、NWOBHM(ニューウェーブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)シーンから登場した。デビュー間もないデフ・レパードは、ポップなメロディの楽曲を抜群の疾走感で演奏していた。

しかし、本作では超売れっ子プロデューサーのロバート・ジョン・マット・ランジを起用し、ポップな楽曲はそのままに、大陸的で抜けの良いサウンドプロダクションを手に入れている。また、リードシングルとしてリリースした「フォトグラフ」のトップ20ヒットもデフ・レパードの魅力を分かりやすく多くのリスナーに届ける役割を果たした。

それまでのNWOBHMシーンでの堅実な人気に満足することなく、ネクストレベルを目指したバンドの方針は、結果的に本作の大ヒットを呼び込み、80年代ハードロックの名盤中の名盤という評価を獲得した。

しかし、音の抜けを良くして、アメリカンナイズされた音作りは一歩間違えればセルアウトと捉えられ、「デフ・レパードはアメリカに魂を売った…」と批判される可能性も多分に孕んでいた。それでもバンドは今までのハードロック / ヘヴィメタル・シーンでの安定した人気や評価からもうワンランク上を目指した挑戦をし、『炎のターゲット』というキャリアを決定づける傑作を手に入れることに成功したのだ。

オルタナ隆盛によりデフ・レパードは冬の時代へ

さて、私がデフ・レパードやハードロックを聴き始めたのは、中学1年生の頃なのだが、中学2年生になると、人生を変える大きな衝撃を1枚のアルバムから受けることになる。その作品はザ・スミスの『ザ・クイーン・イズ・デッド』だった。

スミスは、繊細で悩んでいて、全然強そうではなかった。マッチョイズムを廃したバンドイメージは、クラスの中で地味な存在な私のことを認めてくれているように感じた。

スミスと出会ってからの私は、ニューウェーブやインディーロック、オルタナティヴを聴き続けた。こうなってくると、ヒットチャートの華やかなポップスターやスタジアムロック、マッチョイズムがムンムンのロックバンドに対して興味を失ってしまう。もっと端的に言ってしまうと、嫌悪感すら感じ始め、たった一年前に夢中で聴いていたデフ・レパードに対しても距離を置くようになっていった。

そんなわけで、次第に私の耳にデフ・レパードの情報が届くことは無くなり、いつの間にかデフ・レパードのことを思い出すこともなくなってしまった。

オフスプリングがサンプリング、オルタナ勢からのリスペクト

―― しかし、再会は突然やってくる。

メロコアの代表的バンド、オフスプリングが1998年に放った大ヒット曲「プリティ・フライ」でデフ・レパードの「ロック・オブ・エイジ」がサンプリングされた。

また、元ジェリー・フィッシュのギタリストであるジェイソン・フォークナーがリリースした未発表曲やデモ・バージョンを編集したアルバム『エブリワン・セッズ・イッツ・オン』では、クレジットなしの隠しトラックとして、デフ・レパードの「フォトグラフ」がカバーされた。

こうしたアメリカのオルタナ世代のアーティストによるサンプリングやカバーにより、私は久し振りにデフ・レパードのことを思い出したのだ。この頃、夢中で聴いていたオルタナ系のアーティストがデフ・レパードを取り上げることを見聞きするにつけ、「あれ〜、デフ・レパード好きでも恥ずかしくないの? 何だか大丈夫そうじゃねぇ?」といった具合にデフ・レパードやその周辺のハードロックに対する拒否反応は自然と薄れていった。

このような経験を通じて、色眼鏡をかけることなく、ニュートラルな感性でデフ・レパードに改めて接する機会を得たわけだが、デフ・レパードの分かりやすいハードロックは以前に感じたスタジアムロックへの嫌悪感を微塵も感じることなく、むしろ良質なポップロックとしてオルタナ通過以降の私の耳には響いた。

少し視点を変えることで音楽の聴こえ方が大きく変わってくることは、誰しも経験があるだろう。私にとっては正にデフ・レパードの『炎のターゲット』がこうした経験であり、これ以降は一時期、忌み嫌っていた80年代のハードロックや産業ロックに対しても先入観を取っ払って聴けるようになっていった。

先入観なく聴くデフ・レパードの『炎のターゲット』は、90年代以降のパワーポップとの相性も良く、ウィーザーやアッシュと同じ感覚で聴くことで、新たな魅力に気付かされたように思う。何というか、いなたさというか、ダサカッコイイ感覚をくすぐるバンドとして、たまらない魅力を感じるように変化してきたのだ。

90年代以降のロック文脈を考えた時には、むしろパワーポップを楽しむような視点でデフ・レパードに接することで、私はしっくりきたし、バンドの魅力を分かりやすく楽しめると感じたのだ。

5月にはアルバム「ドラスティック・シンフォニーズ」をリリース

さて、現在のデフ・レパードは、2022年に7年ぶりのニューアルバム『ダイアモンド・スター・ヘイロズ』をリリースしている。

こちらも素晴らしい出来栄えで、何か吹っ切れたように『炎のターゲット』〜『ヒステリア』の頃の音像をベースにしつつも、同時にレイドバックしたルーツロックの影響も感じさせる大人のロックの力作だ。チャートでも英国で5位、米国で10位と相変わらずの人気の高さで、大健闘している。

そして、『炎のターゲット』のリリースから40周年を迎える今年、デフ・レパードは精力的に活動し、嬉しいニュースを届けてくれている。

2023年5月にはアルバム『ドラスティック・シンフォニーズ』をリリースする。この新作は、ロンドンを代表するオーケストラであるロイヤル・フィルハーモニー・オーケストラとの共演作で、今までにリリースしてきた代表曲をオーケストラとの共演でセルフカバーしたアルバムとのことだ。

また、秋にはモトリー・クルーとのダブルヘッドライナーによる来日公演も決定している。こちらは本稿執筆時点では日程や会場などの詳細は発表されていないが、かなり豪華な組み合わせで、リマインダー世代のロック・ファンには堪らないライブになるだろう。

新作が自分たちのキャリアを振り返るセルフカバー・アルバムであることや『炎のターゲット』が40周年を迎えることを考えると、秋の来日公演でも『炎のターゲット』からの名曲群が演奏されることは間違いなさそうだ。

困難を乗り越えて迎えた「炎のターゲット」40周年

元気一杯に活動するデフ・レパードだが、彼らのバンドヒストリーが大きな困難を乗り越えてきたものであることは、ファンならずともよく知られている。

ドラマーのリック・アレンが交通事故による負傷で右腕を失ったことやギターのスティーヴ・クラークがアルコール中毒により急死したことはバンドの存続を左右する大きなアクシデントであったはずだ。しかし、こうした困難を乗り越えて、現在のデフ・レパードは積極的なリリースとライブツアーに取り組んでおり、安定したコンディションでバンドが運営されていることが伺える。

こうした充実した状態のデフ・レパードが『炎のターゲット』40周年を記念する2023年にどのような作品を作り、ライブを見せてくれるのか興味は尽きない。

そして、気が早いが、4年後の2027年には『ヒステリア』の40周年もあるわけで、こちらも更にお祭り騒ぎになりそうな気配だ。そのためにもアクシデントなく、元気にバンド活動を続けてもらいたいと願うばかりだ。

カタリベ: 岡田 ヒロシ

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