何であなたは政治家に?その報酬で生活できますか? 「なり手不足」の地方議員、飛び込んで見えた現実と課題とは。20代、30代の若手に聞いてみた

 4年に一度の統一地方選が終わった。国内各地で知事や市町村長、地方議員の選挙が一斉に行われ、新たな顔触れが出そろった。「なり手不足」という言葉を聞く機会が増え、首長や議員はかなりの割合で無投票当選したようだが、そもそもそんな時代になっていることすら知らない、という方も多いのではないだろうか。
 高齢化と人口減少が進み、若年層の都市部への流出が続く中で、あえて地方議員という立場で政治の世界に飛び込んだ若手がいる。彼らが一体何を考え、何に悩み、何を目指すのか。そもそも議員報酬をいくらもらっているのかといった「ぶっちゃけ」話も含めて、同年代の記者があれこれ聞いてみた。(共同通信=高野和俊、田島里紗)

なりたい政治家に「繫(つな)ぐ」と書いた高知県大川村議の和田さん=2月、大川村

 ▽人口が400人に満たない高知県大川村で2019年から村議を務める和田将之(わだ・まさゆき)さん(32)
 大川村は議員のなり手不足を理由に、議会を廃止して村民が予算を直接審議する「村総会」の設置を一時検討したことで注目を浴びた。和田さんは四国山地の奥深くにある村に魅力を感じて2014年に移住し、現在は村議として活動する傍ら、月1回限定でラーメン店の「店長」にもなっている。

 ▽地域活性化に水を差されたくなかった
 ―立候補する前は何をしていましたか。
 東京の大学を卒業後、地元前橋市の住宅メーカーで約1年間働きましたが、若者が地域再生に取り組む自治体で1年間住民の仕事や生活を支援する「緑のふるさと協力隊」の制度があるのを知り、2014年4月に大川村に移りました。大学生の時に東京電力福島第1原発事故が起きたこともあり、環境に影響を与えず共存していける生活を送ってみたいとずっと考えていました。
 ―何で政治家になろうと思ったのでしょう?
 なり手がいないため、2017年に「村議会が廃止されるかも」という報道が出ました。「議員の候補者がいない」というと消滅寸前のイメージを持たれてしまいますが、私が来てから移住者や出生数も増えていました。ここで地域活性化に水を差されると嫌だなと。議員にふさわしいと思う人もいましたが立候補しそうになく、だんだんと「自分がなるしかない」って思うようになりました。
 ―最初の選挙に出るのにいくらかかりましたか?
 大川村の選挙はお金がかからないんですよ。選挙ポスターは張り切って作って2万~3万円かかりましたが、あとは拡声器を買ったり、選挙カーとして自分の車に貼るシールを買ったりで、合計5万~6万円程度です。1回経験して思ったのは、それをしたからと言って票が増えることはないです。都市部と違ってそれまでの人間関係で決まり「あの人の雰囲気が良いから入れよう」とはならないので。
 ―さらにぶっちゃけてお聞きしますが、議員報酬はいくらもらっていますか。それで生活するのって大変じゃないですか?
 月15万5千円です。農業や月1回のラーメン屋、愛媛への行商みたいなこともやっているので、副収入もあります。副業は生活費という面もあるんですが、いろいろな人と仕事をするのが性に合っていて。妻も働いているので、家族と暮らしていても生活できます。
 ―ラーメン屋ですか?
 村の集落活動センターの食堂で「大川ラーメン」を出しています。以前、地元食材を使ったラーメンを作っている人がいて、おいしかったのですが、その人が村外に出てしまうというので、引き継ぎました。素人でしたが、仕込みから調理までやっています。やろうと思えば何でもできると、村に来て勉強しました。
 ―議員報酬を含め、待遇面でなり手不足解消につながる改善の余地があるとしたらどんなところでしょうか?
 大川村の場合、小さな地域だからか議員としての拘束時間が短く、兼業や地域活動がしやすいです。他の自治体の議員と話していると、議会の委員会がいくつもあったりして、仕事の負担や働き方の面からもハードルが高く映っているのではないかと思います。住民に理解してもらって、議員の仕事を効率化したり、減らしたりして、負担を減らせば立候補しやすくなると思います。

自身が作った「大川ラーメン」を手にする、高知県大川村議の和田さん=1月、本人提供

 ▽若くてバイタリティーのある人がいないと、地域は変わらない
 ―政治家について抱いていたイメージはどんなものでしたか?なってみて変わったところはありますか。
 議員は「責任が重い」「一挙手一投足を見られている」みたいなイメージがありました。若いし、移住者だし、最初は「斬新な視点で議会質問して、村長らに意見を言わないと」と気負っていて、しんどかったです。今は自分が楽しめることをして、議会の場に限らず地域に尽くせば良いかなと思えるようになりました。
 ―職業としての政治家に何を求めていますか?将来はどんな政治家になりたいですか?
 自分としてできる議員の理想像ですが、住民一人一人は大川に対して思いとか理想を持っているんですが、意見の対立で行政とうまく手を取り合えていない場面を見てきました。調整する人がいないなと。私は住民とも、移住者とも、行政ともつながっているので、調整しやすい立場にいます。私がいろいろな人の話を傾聴して、調整して、よりよい答えを出せるような議員でありたいです。
 ―若くして地方議員になることにはどんな意味があると思いますか?
 若くてバイタリティーがある人がいないと、地域が変わっていかないと思っています。いろいろな人と話して、毎日現場に行って、村民と時には意見がぶつかりながら、精力的に進めていくには、若い人でないと難しいのではないかと。村議会もiPad(アイパッド)を導入しましたが、高齢の人だけだったらおっくうで話が進まないと思います。若い感性を持っている人が、上の世代と協調できれば変えられるので、若い人こそ議員をやるべきです。
 ―大川村議ならではの醍醐味は?
 人との距離が近くて、自分が働いた結果が、いつもお世話になっているおじいちゃんのためになって、お礼を言われる、とかがすごく嬉しいです。これは前橋ではなかったなあと。たった一度しかない人生で、人口が四国で一番少ないというハードル高い地域で挑戦できるのも面白いです。
 ―4月の選挙では無投票で2回目の当選となりました。
 世間的には良くないと受け止められるかもしれませんが、今回は新人が1人立候補しました。新しい人が入ると、新たな意見が村政に反映されることになります。私の周りの同世代には、地域の活性化に取り組む人や、政治への関心が高い人が増えていると感じます。4年後にまた新しい動きが出てくることを期待したいです。

 【メモ:地方議員のなり手不足】
 人口減少や高齢化を背景に、人口規模が小さい市町村議会選挙では無投票当選や定員割れが相次ぐ。2017年5月に「大川村が議会廃止を検討」との報道が全国に広がり、注目度が高まった。共同通信の配信記事でも、この時期から「議員のなり手不足」という言葉の登場回数が急増する。2023年の統一地方選では、総定数に占める無投票当選の町村議が30・3%と過去最高に達した。

 ▽2022年4月の山口市議選に現役大学生として立候補し、初当選した安河内淳朗さん(26)
 安河内さんは選挙のスローガンに「最年少に最燃焼させてください」を掲げた。国連のインターンシップ参加の資金を集めようと路上で靴磨きを始め、市内の湯田温泉で人々と触れ合ううちに、人材不足や若者の流出など地域の課題に気付かされ、立候補を決意したという。

「どういう政治家になりたいか」の問いに、自身の造語「最燃焼」を自宅の庭で掲げる山口市議の安河内さん=3月、山口市

 ▽世界平和は身近なところにある
 ―立候補する前は何をされていましたか。
 大学生でした。起業を手伝った会社で常務取締役も務めていました。学生に業務委託でホテルや旅館の接客、携帯電話販売の営業をしてもらうのが主な仕事で、150人くらいの学生を動かしていました。
 ―なぜ山口市議になろうと思ったのですか。
 高校3年生の時に「イスラム国」(IS)の邦人拘束事件があって、国連でこの問題を解決するという夢ができました。インターンシップに参加するための費用50万円を集めるために、湯田温泉の路上で靴磨きを始めました。靴磨きをする中で、日本・中国・韓国の間の領土問題、少子高齢化など国内の問題を住民の方や観光客の方に教えていただきました。特に住民の方からよく聞いたのが「湯田温泉、めちゃくちゃ古びたんだよね。人ももっとぎゅうぎゅう詰めだったのに」という話。皆さんの目を見て話していたら「昔は幸せだったな」と言っているように感じて、世界平和というのは身近なところにあるんじゃないかという気付きをもらいました。
 台湾南部地震(2016年)の時には、学部のみんなで湯田温泉のホテルの前で募金活動をしたんですよね。10日間で40万円ぐらい集まって、SNSを通じて被災地の市長まで届いて台湾の「国会」に招待されました。それまで全然外の世界を知らなかったんですが、少しずつ実践できたのが山口でした。たくさんの人と出会って人の温かさを身近に感じたことが、山口で市議になるきっかけとなりました。
 ―選挙にはお金がかかると思います。山口市議選に出馬された際、費用はどのくらいかかりましたか。
 供託金の30万円と、他に十数万円でした。街宣車を選挙運動で使おうと思ったらお金が必要なのですが、公費負担と実費負担があります。レンタカー代は公費で出ますが、照明や音響は実費でそれが十数万円かかりました。レンタカー代は供託金と同じように決められた票数を取らないと、業者から請求が来るようになっています。
 僕はあまり貯金が得意な方ではないのでギリギリでした。だからこそ、市議選で定められた約200票を取るというのが選挙の一番の目的でした(実際は1222票で当選)。
 ―単刀直入にお聞きしますが、議員報酬はいくらもらっていますか。生活は大変ではないですか。
 総支給額は月額44万9000円です。加えて年2回ボーナスが支給されます。これ以外に政務活動費は月3万円なんですが、議会によって違います。
 僕は当選してすぐに草刈り機を買いました。何か貢献できることはないかと住民に聞いたら「草刈りが大変だ」と。会社だったら会社のために使ったものは経費として精算できますよね。でもこれは実費です。政務活動費は税金から出ていますし、なかなか使いづらいというところもあります。僕は20代で結婚もしていないので、ギリギリでやりくりしています。
―議員報酬を含め、待遇面で議員のなり手不足解消につながる改善の余地があるとすれば、どんなところでしょうか。
 ぶっ飛んだ考えかもしれないですが、市議会もインセンティブ形式にしたら良いんじゃないかと思います。活動の個人差はかなりあると思っていて、動けば動くほどお金は出ていくんですよね。頑張っている人が報われるような仕組みにしないといけないと思います。

 

山口市議に初当選した後、街頭に立つ安河内さん=2022年5月、山口市

 ▽未知の世界は楽しい
 ―選挙権年齢は18歳に引き下げられました。被選挙権年齢についても引き下げるべきだと思いますか。
 引き下げたいですね。現実的には、まず22歳に引き下げてから18歳にするのが良いと思います。「新卒で政治家に」ということを国に働きかけていきたいです。大学では今、PBL(課題解決型学習)が発展していて、卒業に当たって僕は論文ではなくPBLが必要でした。1年間かけて大学のチームと自治体や企業、NPO法人が協力して課題を解決していくんですが、それ自体が政治活動ではないかと思うんです。そのような地域活動を面白いなと感じた人がそのまま政治家になれるという進路があれば、学んだことをそのまま生かせますし、市民もそういう政治家を望んでいると思います。
 ―ご自身の人生設計を教えてください。
 まず30代で市長になって、3期以内に山口市の人口を20万人にして中核都市にしたいです。市長の任期を終えたら40代で国政に出て、政務官や副大臣、大臣の手順を踏んだ後、60歳までには市民に一番近い総理大臣になりたいです。
 ―統一地方選に20代で挑む方々に向けて一言お願いします。
 選挙活動を全力で楽しんでください。僕は告示2カ月前から毎日つじ立ちをしたり、朝3時に起きてポスティングしたり、全力で取り組みました。僕自身が楽しみながらやって、仲間とも楽しさを共有できて、その雰囲気が伝染したからこそ、票を頂けたと思っています。未知なる世界に飛び込むのって、楽しいじゃないですか。20代の方々で選挙に必要と言われる「地盤、看板、カバン」を持っている人は少ないと思いますが、熱量は他の世代に絶対に負けないと思うので、熱量を前面に出したら当選すると信じて活動を頑張ってほしいです。

 【メモ:地方議会の議員報酬】
 一般的な給料に該当し、地方自治法に基づき地方公共団体から支払われる。支給額や支給方法は各自治体が条例で定める。正規職員の給料や地域の実情、経済情勢などを踏まえ、自治体に設置された審議会が適宜見直す。都道府県議会議員の場合、2021年4月時点で報酬が最も高いのは愛知県で97万7000円、最も低いのは大阪府の65万1000円となっている。

 ※地方議員の現実や課題については、記者が音声でも解説しています。以下のリンクの共同通信Podcast番組「きくリポ」で、ぜひお聞きください。
https://omny.fm/shows/news-2/13

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