山下健太の“復調”はホンモノか? SF19時代とは異なる“流れ”に光明あり【第3戦鈴鹿プレビュー】

 全日本スーパーフォーミュラ選手権第2戦富士で、3年ぶりに表彰台を獲得した山下健太(KODNO RACING)。レース後の記者会見では、珍しく涙を流し、ここ数年の苦労が報われたことを物語ったシーンとなった。

 それから2週間が経ち、今週末は鈴鹿サーキットを舞台に第3戦が行われる。果たして第2戦富士での3位表彰台獲得は『ホンモノの復調』なのだろうか。第3戦の走行を前にした金曜日、山下をはじめ、KONDO RACINGの各関係者に聞いた。

■「あそこで泣くとは思わなかった」と近藤真彦監督

 山下がスーパーフォーミュラにデビューした2017年から、どんな状況でも彼を起用し続けているのが、KONDO RACINGの近藤真彦監督だ。

「順位が良かったというよりは、本当に健太が良かったなと思いました」と近藤監督。苦戦していた時期も、彼に励ましの言葉をかけていたというが、「いくら監督とか家族がメッセージを送っても、最終的には本人次第ですからね。僕も要所要所で『大丈夫か?』『今日はいけるぞ!』と、一言二言だけで済ませていたけど……まさか、あそこで泣くとは思わなかったです」と、富士での第2戦を思い出し、感慨深い表情をみせていた。

「(1月のスーパーGTテストで)クラッシュがあって、地獄を見て、乗れるか乗れないかくらいの気持ちに一度なって……でも、いざ乗ったら3位を獲得できて、翌週のスーパーGTでは4位でゴールできています。だから、本人は気持ち的にも今乗っていると思うので、このモチベーションをこっち側でコントロールしていけば、間違いなく速いドライバーになります。そういう意味でも、このレースはすごく重要になると思います」

 また、近藤監督も、富士大会での走りをみて、いつになく手応えを感じている模様。「クルマに関しては、セッティングの部分で、まだ悩んでいる部分はあるけど、昨年・一昨年に比べたら、全然良いところまで、すぐにきたと思います。手応えはすごくあったと思います。第2戦の時は(リアム・ローソンの)ペナルティがあって3位でしたけど、後ろからも追いかけられている状況で、プッシュはさせていました。でも“プッシュできるクルマ”になったというのが大きいです」と力強く語っていた。

第3戦走行前日、鈴鹿サーキットに姿を見せたKONDO RACINGの近藤真彦監督

■SF19時代にあった“不可解な流れ”はない

 なお、今季のKONDOは3号車と4号車の担当エンジニアを入れ替え、山下車を村田卓児エンジニア(昨年はサッシャ・フェネストラズを担当)、新加入の小高一斗を阿部和也エンジニア(昨年は山下を担当)が担当している。

 これについて近藤監督は「マシンもそうだし、エンジニアもそうだし、環境を変えて、できることはやった」とコメント。

 そして近藤監督と同様に、ドライバーとエンジニアも、富士大会で結果以上の手応えをつかんだようだ。

 山下は「(SF23は)SF19でうまくキマっている時のフィーリングで、これだったら上位で走れるかなという手応えはあります」と言う。

 彼にとって、あの3位表彰台は大きな出来事だったようで、「今まではSFのレースが終わった後は、どんよりした気持ちになっていましたけど、富士の後は気持ち的に軽く、1週間を過ごすことができました。3位なのにけっこう話題になってしまって、野尻(智紀)選手とか坪井(翔)選手に、ちょっと申し訳ない感じがしています(苦笑)」と、上位フィニッシュしたふたりに配慮するコメントも。

 今季から山下車を担当する村田エンジニアとのコミュニケーションは良好なようで、「土曜日の予選が終わってから、ふたりでいろいろと話し合って、変えたセッティングがうまくいっています」と山下。SF19の頃に悩んでいたことが、SF23では特に気になっていないとのことだ。

「富士で走っている感じだと、土曜日と日曜日で、どちらのコンディションで走っても流れが変わることはなかったです。今まで(SF19時代)だと、土曜日は良いけど、日曜日も同じセットで走っているのに、遅くなってしまって訳が分からなくなってしまうということがありました。そういう部分でいくと、土曜日でやったことが、そのまま日曜日に行くとさらに良くなっていたので、この感じだと、鈴鹿も良い流れのまま来ることができているのではないかなという気はしています」

 それでも、今まで何度も手応えをつかみかけては、結果を出せなかった山下は「走ってみて結果が出るまでは分からないなと思っています」と慎重な一面ものぞかせる。実際のところは、土曜日朝のフリー走行が始まってから……となるだろう。

搬入日のKONDO RACINGの様子

■フェネストラズと笹原の貢献度

 一方、新たに山下の担当となった村田卓児エンジニアは、「昨年、僕はサッシャと一緒にやっていて、そのなかで作ったクルマに今年ヤマケンが乗ったというだけなので、これと言って特別になにかをやったことはないです。今年になってタイヤが変わっているので、その辺のアジャストはしていますけど、大まかなベースのセットアップはサッシャの時ですね」と言う。

「あと、富士に関しては、みんな(SF23で)走っていなかったですし、データがないなかで、ああいう結果になったのかなと思います」

 さらに村田エンジニアは、山下が負傷療養に伴い欠席となった3月の鈴鹿公式テストで、笹原右京が代役でテストに参加したときのことについても、言及した。

「3月の鈴鹿テストでは、笹原選手に乗ってもらって、彼はけっこう優秀だなと思いました。クルマの変化に対するコメントがなかなか素晴らくて、その中でいろいろなデータがとれました。特にタイヤが新しくなったのですが、鈴鹿テストである程度の方向性みたいなものは掴めたかなという感じです。多分、今週末はそのデータを活用できるのではないかなと思っています」

 実際のところは、山下のコメントと同様に、土曜朝のフリー走行を走ってみないと分からない部分が多いようだが、今週末の展望について村田エンジニアは「どうなるか分からないですけど、そのまま行けるんじゃないんですか?」と、前向きに締めくくっていた。

 序盤2戦を終えて、TEAM MUGENが完全に一歩リードしている雰囲気となっているが、山下は「ここで、なんとか一矢報いたい」と気合いを入れていた。果たして、チャンピオンチームとチャンピオンドライバーの勢いを食い止める急先鋒となれるか。今週末の走りから、目が離せない。

2023年スーパーフォーミュラ第3戦鈴鹿 走行前日の鈴鹿サーキットの様子

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