社説:訪日客数が急回復 観光公害の対策を用意せよ

 京都市内の観光地や繁華街、路線バスなどで、周囲を見渡すと、大勢の外国人旅行客の姿を目にするようになった。花見のシーズンを過ぎても、減る気配はない。

 新型コロナウイルスの感染拡大でほぼ3年間、低迷を続けていたインバウンド(訪日客)が戻ってきたようだ。

 政府観光局が先日発表した推計では、今年3月の訪日客は181万人余りだった。

 前年同月の27倍以上となり、感染が拡大する前の2019年と比べても、65.8%まで回復している。

 昨年来の水際対策の緩和に加えて、外国クルーズ船の来航が再開されたことが影響した、とみられている。

 コロナ禍で訪日客が激減した頃は、観光地にとどまらず、運輸など関連産業が大きな打撃を受けた。

 それだけに、回復によって今後の日本経済に、追い風が吹くことを期待したい。

 観光庁の速報値によると、今年1~3月期の訪日客の旅行消費額は1兆146億円に上る。これは、コロナ禍前の9割近くに相当する。

 訪日客数より回復が進んでいるのは、1人当たりの旅行支出の推計が21万2千円と4割以上も増えたからである。

 買い控えの期間が長かったので「リベンジ消費」が起きたともいえようが、主たる要因は、円安が進行して外国人の購買力が増したため、とされる。

 政府は、19年に過去最高の4兆8千億円となった年間消費額を、早期に5兆円にする目標を掲げているが、この調子でいくと今年中に達成されそうだ。

 百貨店の売り上げが増え、ホテルの稼働率が高くなるなどして、景気が底上げされるのは喜ばしいことではある。

 5月8日からは、新型コロナの感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザなどと同様の「5類」に引き下げられる。訪日客数の回復ペースは、さらに加速するだろう。

 中国からの訪日客は、今のところ韓国、台湾、米国などに及ばず上から6番目で、コロナ禍前の1割ほどでしかない。

 中国が、日本への団体旅行制限を、まだ解除していないためである。

 この制限がなくなったら、どうなるか。訪日客数は回復を超えて膨張し、オーバーツーリズム(観光公害)の再来も懸念されよう。

 先日、政府は、観光立国推進基本計画を6年ぶりに改定した。

 交通渋滞など観光公害を抑制し、大都市に偏る旅行客を地方に分散することを計画の柱に据え、自然や文化の保全と事業者の収益を調和させる「持続可能な観光」を目指すという。

 訪日客数の回復をにらみ、具体的で実効性のある対策を、用意してもらいたい。

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