社説:陸自ヘリ事故 原因究明に全力挙げよ

 中国の海洋進出などをにらみ、防衛省は南西諸島で拠点拡大を進めている。そこで起きた極めて深刻な事故であり、犠牲者が相次いで確認されている。徹底した原因究明を求めたい。

 陸上自衛隊の隊員10人を乗せたヘリコプターが今月6日に沖縄県・宮古島付近で行方不明となった。16日に伊良部島北の海底で機体の胴体部分や搭乗者が見つかった。

 発生からあすで2週間になる。残る人たちの捜索に全力を挙げてほしい。

 ヘリには坂本雄一第8師団長らが乗っていた。宮古島分屯基地を離陸し、地形を視察するため宮古島などを周回する計画だったが、10分後に消息を絶った。不明になる2分前まで交信していた。

 当時の天候は明るく、視界は良好で、機体は3月下旬に安全性を確認したばかりだったという。緊急事態に発信される情報も周辺で受信されていない。

 短時間で何らかのトラブルに遭ったとみられるが、人為的なミスか、機体の不具合か、防衛省幹部は原因を測りかねているようだ。フライトレコーダー(飛行記録装置)の回収が急がれる。

 南西防衛の一角を担う第8師団は、中枢幹部が一斉に行方不明になる事態となった。複雑な海底地形で捜索が難航したのはやむを得ないとしても、いまだに何が起きたのかさえ分からないのは、問題と言わざるを得ない。

 政府は南西諸島を安全保障上、極めて重要と位置付ける。陸自駐屯地を相次いで開設し、先月には石垣島にも駐屯地を新設した。

 今後も周辺地域での活動が増えるのは必至である。だが、事故など不測の事態が起きた時に、住民の安全をどう守るのか。十分な対策や説明ができていない。

 実際、事故は後を絶たない。2018年には陸自の戦闘ヘリが佐賀県内で民家に墜落。乗員2人が死亡し、女児がけがをした。

 19年には青森県沖で航空自衛隊のステルス戦闘機が墜落し、昨年1月にも空自のF15戦闘機が墜落している。

 国土交通省の関係者は「基本的な動作ができていないと思われる例が多い」と指摘する。今回もそうした背景はなかったか。虚心坦懐(たんかい)に調査し、情報公開のもとで再発防止につなげねばならない。

 岸田文雄政権は防衛力の大幅増強を掲げるが、それ以前の問題である。自衛隊活動の土台となる国民の理解と信頼の回復に向け、政府は手を尽くしてもらいたい。

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