投資信託の信託報酬はどれくらいが安いといえる?コストが低いものを選ぶ方法をお金のプロが解説

投資信託を選ぶときには「手数料(信託報酬)がなるべく安いものを選びましょう」と言われますが、実際に手数料の安い商品をどのように選べばよいのでしょうか。

信託報酬が低いものを選ぶのはもちろん大切なのですが、「実質コスト」も注視する必要があります。また、投資信託には主にかかる3つのコストの他に、目論見書には書かれていない「隠れコスト」と呼ぶべきコストがあります。

今回は、投資信託の手数料、信託報酬が安いものを選ぶべき理由と、投資信託の目論見書の見方、そして投資信託の「隠れコスト」「実質コスト」の確認方法について、解説します。


投資信託にかかる主なコストは3つ

投資信託の運営には、投資信託を販売する販売会社(証券会社・銀行・郵便局など)、投資信託の運用を担う運用会社(委託会社)、そして運用会社の指示を受けて資産の売買を行う信託銀行(受託会社)の3社が携わっています。投資信託に投資をすると、これらの会社に支払うコストが発生します。

投資信託にかかる主なコストは、3つあります。

●買うときにかかる「購入時手数料」
購入時手数料は文字どおり、投資信託を購入するときに販売会社に支払う手数料です。購入時手数料は、「投資信託の購入金額に対して◯%」という具合に、パーセンテージで記されています。たとえば、購入時手数料が1%の投資信託を100万円分購入した場合、購入時手数料は1万円になるということです。

購入時手数料はおおむね、0%~3%の間で設定されています。購入時手薄料は販売会社が自由に決められるため、同じ投資信託でも販売会社によって購入時手数料が違う、といったこともあります。購入時手数料があってもなくても、購入できる投資信託自体は全く同じなのですから、購入手数料はない方が断然お得です。

投資信託の中には、購入時手数料がかからない「ノーロード」と呼ばれる投資信託も多くあります。ネット証券などでは、取り扱いのあるすべての投資信託の購入時手数料を無料にしているところもあります。

●持っている間にかかる「信託報酬」
信託報酬は、投資信託を持っている間に販売会社・運用会社・信託銀行が差し引く手数料です。信託報酬は「年○%」と、年率で記載されていて、投資信託の純資産総額の中から毎日一定の割合で差し引かれていきます。信託報酬はおおよそ、年0.1%~3%程度になっています。

投資信託の信託報酬は、商品ごとによって違います。もちろん信託報酬も、安いに越したことはありません。

●売るときにかかる「信託財産留保額」
投資信託を売るときにかかる手数料が「信託財産留保額」です。目安としては、投資信託を解約するときの時価(基準価額)に対して、0.1~0.3%ですが、かからない投資信託も多くあります。

信託財産留保額は、販売会社・運用会社・信託銀行の利益になる手数料ではありません。投資信託を売ると、投資信託の中に含まれる株式や債券を現金化するコストが発生します。このコストを、投資信託を継続保有している他の投資家が負担するのは不公平です。そこで、信託財産留保額を投資信託の運用資産に留保し、他の投資家に還元するのです。したがって、信託財産留保額は、投資信託を長期保有する方にとってはポジティブなコストといえます。

このなかで、もっとも注意すべき手数料は信託報酬です。なぜなら、投資信託は数十年にわたって投資・保有することでお金を増やす性質の商品だからです。信託報酬の少しの違いが、投資結果に大きな差を生みます。

たとえば、信託報酬が年0.1%の投資信託と年1.0%の投資信託に月1万円ずつ、30年にわたって投資し、年3%ずつ増やせたとします。このとき、30年後の資産総額には81万円もの差が生まれる計算になります。

●投資信託で年3%ずつ増やせた場合の資産総額の違い

毎月の金額を増やせば増やすほど、運用利率が高いほど、運用年数が長いほどこの金額の差は大きくなります。

投資信託には、運用方法の違いによって大きく「インデックス型」と「アクティブ型」の2種類があります。TOPIXやS&P500といった、市場の値動きを示す指標と連動することを目指す投資信託がインデックス型。指標よりも高い成果や、「年10%」などと絶対収益を掲げて運用される投資信託がアクティブ型です。

このうち、信託報酬が安いのはインデックス型です。インデックス型の運用は、指標と連動することを目指すため、どの資産にどう投資するかが機械的に決まるため、低コストで運用できるのです。それに対してアクティブ型は、インデックス型を超える運用を目指すためにファンドマネージャーが投資先を詳細に調査・分析するためコストがかかります。

次の表は、楽天証券で扱いのある米国株式に投資する投資信託をインデックス型・アクティブ型に分けて検索し、信託報酬の安い順に10本表示したものです。

●インデックス型(「インデックスのみ」「株式」「北米」で検索)

●アクティブ型(「インデックスを除く」「株式」「北米」で検索)

「管理費用」を見てください。インデックス型でもっとも安い商品は0.0938%と、0.1%を下回っていることがわかります。その下の投資信託を見ても、0.1%~0.2%に収まっています。それに対して、アクティブ型は0.4675%がもっとも安く、最後のほうになると1%を超えています。手数料の面で見ると、インデックス型の方が優秀です。

インデックス型であれ、アクティブ型であれ、将来の運用成績の保証はありませんが、運用成績に影響が出る信託報酬は投資家自身で選べます。

信託報酬の目安としては0.1%~0.3%。それ以上の信託報酬の商品をあえて選ぶ必要はない というのが筆者の考えです。

目論見書はどうやってみる?

投資信託を取引する際に、どのような費用を投資家が負担するかは、目論見書で確認することができます。目論見書は投資信託の説明書のようなものです。

目論見書には、投資信託の購入前に確認する「交付目論見書」と、より詳しい情報の記載された「請求目論見書」があります。投資信託選びの際には、交付目論見書を見れば十分でしょう。

交付目論見書には、大きく次の4つのことが記載されています。ここでは、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書をもとに確認してみましょう。

(1)ファンドの目的・特色

ファンドの目的には、投資信託がどんな資産に投資するのか、どのような成果を目指しているのかが記載されています。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、「日本を含む先進国および新興国の株式市場の値動きに連動する投資成果をめざします」と記載されています。つまり、世界中の株式に投資するインデックス型の投資信託だとわかります。

ファンドの特色には、ファンドの目的を達成するために具体的にどんな投資をするのかが記載されています。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合は「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)に連動する投資成果をめざして運用を行います」とあり、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスという指標に連動するような運用を行うことがわかります。

また、海外の資産に投資する投資信託の場合、為替ヘッジを行うか行わないかが記載されています。為替ヘッジとは、為替レートの変動による値動きの影響を避けることです。ただし、為替ヘッジにはコストがかかります。為替ヘッジのない投資信託を選べばコストも安く、為替差益も得られるので無難だと考えます。

(2)投資のリスク

この投資信託に投資することで発生するリスクが示されています。投資信託が投資する資産は、さまざまな要因で価格が変動します。たとえば、次のようなリスクがあります。

・価格変動リスク
株や債券、投資信託が市場で売買されることで価格が変動するリスクがあります。

・金利変動リスク
金利と債券の価格はシーソーのような関係。金利が上昇することで、債券が下落するリスクがあります。

・為替変動リスク
外国の株式や債券で運用する投資信託の場合、資産の値上がり・値下がりとは別に為替レートの変動によって利益や損失が生まれることがあります。

・信用リスク
たとえば株式を発行する企業などが破たんした場合、株式の価値が大きく下落してしまう可能性があります。

(3)運用実績

投資信託の運用開始日からの基準価額・純資産の推移や、分配金の状況、組み入れている資産、年間収益率などが記載されています。「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の場合、基準価額・純資産総額ともに順調に右肩上がり。また、資産の63%は米ドルで、米国株のアップルを4.5%、マイクロソフトを3.0%、アマゾンを1.7%…という具合に組み入れていることがわかります。

(4)手数料

購入時手数料・信託報酬・信託財産留保額が記載されています。「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の場合、購入時手数料・信託財産留保額は無料です。また信託報酬も、委託会社・販売会社・受託会社それぞれの配分比率が記載されています。なお、eMAXIS Slimシリーズには純資産総額が増えるごとに実質的な信託報酬率が下がる「受益者還元型信託報酬」という仕組みがあり、ここで説明されています。
また、後述しますが「その他の費用・手数料」も記載されています。

目論見書の手数料の他に見ておきたいのは、月次資金流入額とトラッキングエラーです。

月次資金流入額は、投資信託に流入(あるいは、投資信託から流出)した資金の金額を示すデータ。資金流入が多いほど、投資家から支持されている投資信託だといえます。月次資金流入額が多く、純資産総額が順調に増えていればいいのですが、資金が流出している投資信託は要注意。思うような運用ができなくなるうえ、途中で運用をやめて解散する「繰上償還」の可能性もあります。順調に資金が流入しているものを選びましょう。

また、トラッキングエラーはインデックス型の投資信託の値動きと指数の「ずれ」を示すデータ。トラッキングエラーが低いほど、その投資信託は指数とのずれが小さく、きちんと連動していることを示します。インデックス型の投資信託を選ぶ場合は、トラッキングエラーが小さいものが良いでしょう。

これらのデータは各証券会社のWebサイトなどでも確認ができます。

投資信託の「隠れコスト」「実質コスト」に要注意

目論見書の「その他の費用・手数料」の欄には、購入時手数料・信託報酬・信託財産留保額以外にも費用や手数料がかかることが記されています。その他の費用・手数料は、目論見書には事前に表示することのできない手数料です。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の目論見書にも「※上記の費用・手数料については、売買条件等により異なるため、あらかじめ金額または上限額等を記載することはできません」と記載されています。

では、どこを見れば金額がわかるかというと、投資信託の「運用報告書」です。運用報告書には「1万口当たりの費用明細」という項目があります。ここには、運用期間内に信託報酬以外にかかった手数料が細かく記されています。

●eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の運用報告書

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、

(a)信託報酬 18円 0.114%
(b)売買委託手数料 1円 0.007%
(c)有価証券取引税 2円 0.012%
(d)その他費用 6円 0.037%
合計:27円 0.170%

と記載されています。つまり、eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の1万口あたりの実質的なコストは、27円(0.170%)だということがわかります。

信託報酬以外の費用は、意図的に隠しているわけではないのですが、目論見書に明確に記されていない「隠れコスト」です。信託報酬以外にも費用がかかっていることを押さえておきましょう。信託報酬が低水準でも実質コストが恒常的に高いのであれば、そういった投資信託は選ばない方が良いでしょう。

また今後、信託報酬がより低水準のファンドが登場した際に、すぐに乗り換えを検討せず、実質コストの報告を見てからでも良いかと考えます。

もっとも、隠れコストは期ごとに変わります。これを気にしていちいち投資信託を乗り換えていたら、手間もかかりますし、長期運用もできなくなってしまいます。信託報酬の安い投資信託を選んだら、多少の差は気にせずに運用を続けて問題ないでしょう。

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