生きること諦めてしまうことも…埼玉のALS患者「認知度低い」福祉制度の普及求める 経口薬発売で負担軽減も

県庁を訪れた中村秀之さん(左から3人目)や松尾建治さん(右から2人目)と家族やヘルパー、医療従事者ら=21日、埼玉県庁

 感覚や知能が保たれたまま、筋肉が痩せていく難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を抑える薬「エダラボン」が17日、新たに経口薬として発売された。これまでは点滴で投与されていたが、症状の進行とともに注射針が刺さりにくくなることや、点滴のための頻繁な通院や時間的拘束が患者の負担となっていた。県内に住むALSの患者らは21日に埼玉県庁を訪れ、経口薬発売の喜びを伝えるとともに、患者の生活を支える福祉制度の普及などへの協力を県に求めた。

 ALSは手足や、呼吸に必要な筋肉が徐々に痩せていく原因不明の指定難病。進行し力が弱くなる一方で、感覚や知能、視力や聴力などは保たれる。県内では約500人がALSと認定されている。

 6年半前に発症し、エダラボンの点滴を受けながら仕事を続けてきた松尾建治さん(48)=さいたま市=は「通院や在宅医療で点滴のために1時間程度拘束されることは患者にとって大きなハードルだった。経口薬発売は革命的」と喜びを語った。日本ALS協会県支部事務局長で医師の丸木雄一埼玉精神神経センター長は「発症2年以内、呼吸器障害があまりないなどの条件があるが、進行を抑える手応えがある薬」と強調した。

 同支部は6月に予定されている総会について大野元裕知事に案内した。支部長で患者の中村秀之さん(54)=同市=は妻の静香さん(47)が代読したメッセージで「ALSは死の宣告のように受け止めてしまうが、体を動かせなくても生きる方法や生活は先輩患者によって確立されてきた。福祉制度の活用が不可欠だが認知度が低く、家族が疲弊したり患者が生きることを諦めてしまうこともある」と話し、県に制度の普及に関する協力を求めた。

 中村さんは取材に対し五十音表の文字盤を使い「診断を受けた時は『こんなに進行が早い人は見たことがない』と言われた」と振り返り、静香さんは「でもこの数年は進行が止まり、すごく調子がいい」と笑顔で話した。

 県は昨年8月、全国に先駆けて災害時に患者の安全確保に取り組む協定を同支部や人工呼吸器メーカーと締結。これまでメーカー4社が締結していたが、今月、新たにIMI(越谷市)とも締結し、計5社となった。協定では、同意が得られた患者の住所などの個人情報をあらかじめ共有する。停電が発生するような災害が起きた場合に、メーカーが在宅患者の安否を確認し、県に情報を伝達する。

 大野知事は「完治につながる治療法はまだないと聞くが、飲み薬など一歩ずつ前に進んでいる。県としても制度の面から支えていきたい」と強調。また、「友人がALSと宣告された」と明かし、6月の総会についても、「日程を確認したい」と出席に意欲を示した。

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