ひたむきな人のように

 たった一人で、黙々と物事に打ち込む人を思わせる。米国の無人探査車「オポチュニティー」は15年もの間、火星で岩石などを分析していた。それが5年前、すさまじい砂嵐で音信が途絶え、活動を終えた▲当時、小さな記事になり、嵐に耐えかねた探査車がその命を終えたように感じた覚えがある。宇宙で活動する探査機は時に、ひたむきな人に例えられる▲エンジンは故障し、それでも7年かけて地球に戻った探査機「はやぶさ」は、その忘れがたい例だろう。大気圏に突入後、小惑星の微粒子を残して本体は燃え尽きた▲命の最後のかけらを燃やし、輝かすように見えた人も少なくあるまい。きのうもまた“ひたむきな人”の懸命な働きぶりを知る。月面に降下していた着陸船が、すんでのところで通信を絶った。燃料がなくなり、月面に衝突してしまったらしい▲高速で月の周りを飛び、エンジン噴射で減速し、降り立とうとしていた。スタッフは「超高速で突っ走る車に急ブレーキをかけ、わずかな駐車スペースにぴったり止めるようなもの」と例えていたが、どれほどの英知と努力が詰まった作業だったろう▲着陸船を飛ばした企業は、来年もまた打ち上げるという。社長は「次への大きな一歩」と話した。無念の、しかし誇らしげな着陸船の声にも思える。(徹)

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