上昇気流に乗った浦和レッズ。スコルジャ監督の「柔軟性」をACL決勝を前にひも解く。

新監督を招聘した浦和レッズが好調だ。

昨シーズンの明治安田生命J1リーグを9位で終えた浦和は今、変革の時を迎えている。2021年から指揮を執ったリカルド・ロドリゲス氏が退任し、マチェイ・スコルジャ監督にチーム作りを委ねたのだ。

開幕から連敗スタートとなったものの、第3節のセレッソ大阪戦で今季リーグ戦初勝利を手にすると、そこから4連勝と上昇気流に乗る。9試合を終えたリーグ戦で4位と好調をキープする要因はどこにあるのか。5大会ぶりのアジア制覇を狙う“新生レッズ”を、ピッチ上の事象からひも解いた。

直近5試合の基本システム

まずは、直近のリーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神は好セーブと精度の高い左足キックが光る西川周作。

最終ラインは右からキャプテンの酒井宏樹、PK職人のアレクサンダー・ショルツ、新加入ながらすぐにフィットしたマリウス・ホイブラーテン、複数ポジションで機能する明本考浩の4人が基本形だが、酒井が第7節の名古屋グランパス戦で負傷。明本が右サイドに回り、武者修行を経て成長した荻原拓也が左サイドバックに入る。

攻守をつなぐダブルボランチは、総合力の高さが強みの伊藤敦樹と国内屈指のバランサーである岩尾憲が抜群の補完性でチームの基盤に。この両名は指揮官からの信頼が厚く、プレータイムを見ても絶対的な存在となっている。

様々な組み合わせが試された2列目は、右からハードワーカーの大久保智明、技巧派の小泉佳穂、両サイドに対応する関根貴大という形に落ち着きつつある。ただ、突破力に優れるダヴィド・モーベルグ、第3節のセレッソ大阪戦で値千金の逆転弾を決めた安居海渡、17歳の新星・早川隼平らも存在感を示しており、競争は熾烈だ。

1トップは熟練のポストプレーで攻撃をけん引する興梠慎三が1番手。在籍2年目のブライアン・リンセンが2番手で、3月に加入したギニア代表のホセ・カンテはこれから本領を発揮していくだろう。

注目の新監督から見て取れる「柔軟性」

今季の浦和レッズは、2021年からの2シーズンを託したリカルド・ロドリゲス氏に代わり、新たにポーランド人のマチェイ・スコルジャ監督を招聘した。ポーランドリーグを4度制覇した新監督がどのようなコンセプト、戦術を植え付けるか注目が集まった。

「浦和レッズで私が変えたいと思っているポイントの一つに、ハイプレスを増やしたい、というところがあります。ボールを失ったらできるだけ早く取り返す、できれば相手のペナルティーエリアの近くで取り返す、ということをしたいと思います」

スコルジャ監督が今年1月に行われた就任会見で語ったのは、「ハイプレスの重要性」だった。まずは明確なコンセプトを掲げて、方向性を示したのである。

この就任会見から3か月半が経過し、開幕からリーグ戦9試合を戦った現時点で言えるのは、決してハイプレスに固執していないということだ。相手チームがビルドアップを徹底する場合は、高い位置から積極的なプレスでボールを奪いに行き、ボール保持者の選択肢を狭める形を取る。相手にロングボールを蹴らせて、センターバックのショルツとホイブラーテンが跳ね返すのも狙いだ。

だが実際の試合では、ハイプレスを仕掛けられる局面は限られる。体力的な面からも、90分を通したハイプレスは現実的ではない。高い位置からのプレスが有効的ではない場合は、ミドルサードまたはディフェンシブサードにコンパクトなブロックを形成して守る。浦和に限らず他のクラブでもそうだが、状況に応じて守り方を変える。すなわち、柔軟性を持たせるということである。

この柔軟性は自チームのビルドアップでも発揮される。ショルツとホイブラーテンがペナルティーエリアの幅いっぱいに広がり、両名の間に西川周作または岩尾憲が入り、丁寧にボールを回しながら組み立てていく。時にトップ下の小泉がボランチの位置まで降りてくるが、この形にこだわる訳ではない。西川とホイブラーテンの正確なフィードで一気に前線へボールを送り、スピードアップした崩しも見せる。

ビルドアップに関しては、前任のリカルド体制で培ったエッセンスも活用しながら、ロングフィードも交えて打開していく。ここにも指揮官の「柔軟性」が見て取れるのだ。

チームを支えるキーマンたち

スコルジャ監督が標榜するスタイルを最前線でけん引するのが、エースの興梠慎三だ。Jリーグ通算165ゴール(第9節終了時点)を誇る点取り屋は、北海道コンサドーレ札幌への期限付き移籍から2シーズンぶりに復帰。ここまでチームトップタイのリーグ戦2ゴールを挙げる活躍を披露している。

36歳の今も巧みなポストプレーは衰え知らずで、中盤に降りて起点となり、シンプルなつなぎで時間を作る動きは流石の一言だ。また、指揮官が求める前線からのプレスも精力的に実行し、ベテランらしい戦術眼の高さで攻守に貢献する。

指揮官も全幅の信頼を寄せており、今季初ゴールを記録した第6節・柏レイソルとの試合後には「“浦和の将軍”と言ってもいいと思います。本日も良い仕事をしましたけれど、日々のトレーニングでも彼はハードワークを見せています」とその働きを讃えている。どのような展開でも頼りになる背番号30は、欠かせない存在だ。

興梠とゴール数で並んでいるのが、左右のサイドバックで躍動する明本考浩だ。サイドバック、サイドハーフ、フォワードなど複数ポジションに対応するマルチロールは今季、左サイドバックが主戦場に。酒井宏樹の負傷離脱後は右サイドバックに回るなど対応力を見せている。

90分走り続ける走力と推進力のあるドリブルに定評のある明本は、得点力にも磨きをかけている。第9節終了時点で2ゴールをマークしており、このペースでいけば2021シーズンのリーグ戦4ゴールを超え、J1でのキャリアハイを更新するだろう。

今季の2ゴールはどちらも美しいが、第6節・柏戦で決めたジャンピングボレー弾が特に素晴らしい。難易度の高いシュートはもちろんのこと、試合終盤でも落ちない加速力で一気にペナルティーエリアへ侵入し、相手ディフェンダーの視界から消える動きでボールを呼び込む技術が冴えた。

インパクトのあるプレーが続く明本は、ぜひ日本代表に呼んでほしいタレントだ。3月の国際親善試合での日本代表は、サイドバックが中に絞る動きが採用されており、今後も攻撃センスに優れた選手が重宝される可能性は十分にある。6月の代表戦で招集されるか、大いに注視したい。

明本と同様に日本代表入りを期待したいのが、ボランチの伊藤敦樹だ。地元の埼玉県さいたま市出身で、浦和の下部組織で育成された伊藤は、流通経済大在学中の2020シーズンから特別指定選手として所属。翌2021シーズンに正式に入団すると、プロ1年目から主力でプレーしてきた。

豊富な運動量で攻守にフル稼働する現代型ボランチの伊藤は、コンビを組む岩尾憲との相性がバッチリだ。岩尾が後方でバランスを取る役割を得意とするのに対し、伊藤はボールホルダーへの激しい寄せに加えて大胆な攻め上がりも光る。

第4節のヴィッセル神戸戦では豪快な左足シュートを沈めて、首位チーム撃破に貢献。プロ3年目を迎えた背番号3の更なる飛躍が楽しみである。

“浦和の将軍”への依存軽減がキーに

4月30日および5月6日にサウジアラビアのアル・ヒラルとのアジア・チャンピオンズリーグ(以下ACL)決勝に臨む浦和レッズ。ファイナルの舞台でアル・ヒラルと戦うのは3大会ぶり3度目となり、過去2回は1勝1敗(いずれも2戦合計の結果)の戦績だ。

2017年および2019年の決勝を振り返ると、アウェイでの第1戦が大きな意味を持つ。10年ぶり2度目となるアジア王者に輝いた2017年は1-1のドローで乗り切り、ホームでの勝利(1-0)で優勝を決めた。一方の2019年は0-1で敗れると、ホームでも敗北(0-2)を喫し準優勝に終わっている。

当然ながら、再現したいのは2017年と同様の展開だ。アウェイでの第1戦を引き分け(理想は勝利)で終え、大観衆で埋まることが予想されるホームで勝ち切る。総じて守備陣の頑張りが歓喜の瞬間につながるはずだ。

大一番を前にした浦和にとって朗報なのは、ブライアン・リンセンが第9節の川崎フロンターレ戦でリーグ戦初ゴールを記録したことだろう。昨季途中に加入した後は怪我に苦しんだ男に生まれた文字通り待望の一発だった。

川崎戦を迎えるまでは、リーグ戦で興梠慎三以外のセンターフォワードにゴールが生まれておらず、興梠への依存度の高さが懸念材料となっていた。ACL決勝はもちろん、その後のリーグ戦、ルヴァンカップ、天皇杯を勝ち抜くには、ストライカーの活躍が不可欠となるだろう。

得点力に加え、熟練のポストプレーと前線からの守備を高次元でまっとうする興梠。その代わりになる存在は、そもそもJリーグ全体を見渡しても中々いないと言える。背番号30がスタメンに定着してからリーグ戦7戦負けなし(5勝2分)と安定感が出てきたのも納得なのだ。

リンセンの覚醒はもちろん、ホセ・カンテの本領発揮、そしてルヴァンカップでの負傷もありリーグ戦での新天地デビューがお預けとなっている髙橋利樹がどれだけ奮起できるか。

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例年以上に混戦となっている今季のJ1を制するには、“浦和の将軍”である興梠への依存軽減がカギを握る。

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